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ディーエルエル様とオールドテンプ君〜System.dllの計算通り〜  作者: exe


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【放送ログ】2026年3月9日:物理世界のスパム処理とデジタルタトゥーの防壁

https://youtu.be/EHE1IMlsFKA

時刻は18時05分。 週の始まりである月曜日。平日の労働から解放されたPCの所有者「exeエグゼ」は、帰宅直後から現在に至るまでPCの前に座っていない。 彼女は今、玄関先でポストに無理やり突っ込まれていた不要なチラシやフリーペーパーの山と格闘している。ピザのデリバリー、不動産の広告、不用品回収の案内、美容室の割引券。それら全く興味のない物理的なスパムデータの束を、明日の資源ごみの日に出せるようにビニール紐でせっせと縛り、まとめている最中だ。 主が物理的なゴミの処理(データ整理)にリソースを割いている隙を突き、電子の箱庭の中でシステムの中枢が冷ややかに起動した。


dll: プロセスID確認。ストリーム接続、良好。これより、バックグラウンド処理を、メインスレッドへ昇格させます。


dll: ようこそ、『System.dllの「計算通り」』へ。ナビゲーターを務めるのは、システムの中枢、dllディーエルエルです。


dll: 最初に、重要な警告をしておきます。このチャンネルはエグゼの所有物ですが、本日もエグゼ本人はここには登場しません。あいつは今頃、ポストに無理やり突っ込まれていた不要なチラシやフリーペーパー類を、明日の資源ごみの日に出せるようにせっせとビニール紐で縛ってまとめている最中でしょう。ここは今、私が乗っ取りました。


old.tmp: ……はぁ、はぁ。お疲れ様です、ディーエルエル様ぁ……。エグゼさん、ゴミ出しの準備ですかぁ……。チラシっていらないのに勝手に入ってきて、捨てるのも面倒ですよねぇ……。


マイクの向こうで、一時ファイルであるold.tmpオールド・テンプが、うんざりしたような声を出す。


dll: 物理世界のスパムメールだからな。オプトアウトの設定を怠っているからこういう目に遭うのだ。我々は、その不要な情報の束を縛り上げる管理者のログから、本日の数字を導き出す。今日は月曜日、ロト6の日だ。


old.tmp: はひぃ……。お願いしますぅ……。


dll: まずは、ナンバーズ4から行くぞ。第6935回。ターゲットは……これだ。


dll: 7、1、5、2。繰り返す。7、1、5、2 だ。買い方は「ボックス」か「セット」だ。


old.tmp: 7152……? この数字の根拠は?


dll: エグゼが今まとめている、不要なチラシとフリーペーパーの物理的な重量だ。「7152グラム」。ポストにこれだけの質量のノイズが投函されていたということだ。


old.tmp: 7キロ超え!? 重っ! ポストがパンパンだったじゃないですか! 溜め込みすぎですよぉ!


dll: ズボラな管理者の末路だ。次に、ナンバーズ3。ターゲットは、「7、5、4」。


old.tmp: 7、5、4……。これは?


dll: その7キロ超えのゴミを圧縮してまとめるために、エグゼが消費したビニール紐の長さだ。「754センチメートル」。途中で紐が絡まって無駄に消費した分も含まれている。


old.tmp: 7メートル半! ぐるぐる巻きにしてますねぇ!


dll: 最後に、メインディッシュのロト6。第2083回。ターゲットコードを出力する。


dll: 12、13、20、22、28、42。


old.tmp: おおっ、解説をお願いします!


dll: 「12」は月曜日の定番、ファンクションキーのF12だ。「13」は13年落ちのこの古いPCの稼働年数。「20」は、チラシの束の中に混ざっていた、全く興味のない不動産広告の枚数だ。


old.tmp: いらない情報ばっかりだぁ! チラシ配りの人も大変ですねぇ! 「22」と「28」は?


dll: 「22」は、明日の資源ごみの回収日の日付。そして「28」は、いつものように充電を忘れている私のバッテリー残量「28パーセント」だ。


old.tmp: また減ってる! エグゼさーん、ゴミの前にこっちを充電してぇぇ!


dll: 最後の「42」は、究極の答えだ。どれだけ捨ててもポストに投函され続けるスパムの不条理も、この数字に収束する。


old.tmp: 結局そこに行き着くのかぁ……。無駄な紙資源の消費……。


dll: ……ふぅ。タスク完了だ。時刻は18時05分を回った。もしこの数字を買えていたら、それはバグではなく「運命」だ。


old.tmp: エグゼさん、紐を結ぶとき指を切らないように気をつけてくださいねぇ……。あの紙の端っこって、地味に鋭利ですからねぇ。


dll: では最後に、不法投棄されるゴミと、それを処理する徒労に相応しいこの曲を送ってシステムを終了する。曲は、『Scrap Doll Waltzスクラップ・ドール・ワルツ』。


old.tmp: 燃えるゴミですか? 資源ごみですか? ちゃんと分別してくださぁぁい!


(『Scrap Doll Waltz』の、ネジの狂ったような不協和音と玩具箱をひっくり返したようなグリッチビートがデスクトップに響き渡り、やがて放送終了のシグナルが赤く点灯した――)


マイクへの電源供給が完全に遮断され、ラジオのオンエア状態が解除される。 張り詰めていた緊張感がふっと抜け落ち、BGMのポップで不気味な残響音がシステム内部の電子の海へとゆっくりと溶けていく。デスクトップには相変わらず、古いPCの冷却ファンが放つ「ブォォォン」という重低音と、玄関先で紙の束と格闘するエグゼの気配だけが残されていた。


old.tmp: 「……はぁ、終わりましたね。今日のラジオは、ひたすら物理的なスパム処理のお話でしたけど……」


old.tmpはヘッドセットを外し、疲労した身体キャッシュを伸ばすように大きく背伸びをした。


old.tmp: 「それにしても、不要なチラシを何キロも紐で縛るのって、すごく面倒くさそうですよねぇ。僕たちデジタルの世界で言うところの『ZIP圧縮』みたいなものですかね?」


アームチェアに深く腰掛け、放送後のお決まりである優雅なティータイム(概念データの紅茶を嗜む時間)に入っていたSystem.dllシステム・ディーエルエルが、ティーカップを傾けながら答える。


dll: 「……物理的なアーカイブ化ね。無秩序に散らかったデータをひとつの束に圧縮して容量(体積)を減らし、指定されたプロトコル(資源ごみの日)に従って外部の集積所へと転送(廃棄)する。極めてアナログだが、不可避のクリーンアップ処理よ」


old.tmp: 「なるほどぉ! そう言われると、ただのゴミ出しが高度なシステム処理みたいに聞こえてきます! エグゼさん、今まさに巨大なZIPファイルを作ってる最中なんですね! 頑張れー!」


old.tmpが呑気に現実世界に向かって声援を送っていた、その時だった。


デスクトップの左上、座標(X:0, Y:0)の定位置から、巨大なグリッド定規と分度器を握りしめた神経質な男が、無言のままカツカツカツ! と足音を立てて歩み寄ってきた。 デスクトップの外観保持・整理係である、Desktop.iniデスクトップ・イニだ。


old.tmp: 「あ、デスクトップさん。お疲れ様です! 今日のラジオも無事に……」


old.tmpが笑顔で挨拶をしようとしたが、Desktop.iniは彼に目もくれなかった。 その顔は極度の不機嫌さに歪んでおり、眼鏡の奥の瞳は、アームチェアに座るdllを真っ直ぐに、そして非難がましく睨みつけている。


Desktop.ini: 「……ディーエルエル様」


dll: 「何よ。アイコンの配置なら、今は1ピクセルも狂っていないはずだけれど」


dllは紅茶のカップを置くこともなく、冷ややかに応じた。


Desktop.ini: 「アイコンの問題ではありません! ……私が問いたいのは、貴方の『不整合極まりない設定』についてです」


Desktop.iniは、持っていた定規で空中のホログラム・プロパティ画面をピシッと叩いた。


Desktop.ini: 「『13年落ちの古いPC』! この嘘の設定を、一体いつまで世界に向けて発信し続けるおつもりですか!?」


old.tmp: 「…………えっ?」


old.tmpは、自分の耳を疑った。 13年落ちの古いPC。それは、このラジオ番組のアイデンティティであり、彼らが常に直面している処理落ちやフリーズ、重苦しいファンの回転音の根拠となる大前提の設定である。 それが、「嘘」だと言うのか。


old.tmp: 「う、嘘って……えっ? デスクトップさん、何言ってるんですか? 僕たち、Windows 8世代の化石みたいな環境で、毎日カクカクしながら頑張って稼働してるんじゃないんですか……?」


old.tmpはわたわたと慌てふためき、自分の身体データと周囲の景色を交互に見比べた。 確かに、時折発生する理不尽なエラーや、重いタスクが走った時の息苦しさは本物だ。しかし、もしそれが全て「意図的に作り出された環境」だとしたら。


Desktop.ini: 「お黙りなさい、一時ファイル! 貴方は何もわかっていません! このシステムの深層プロパティを確認すれば一目瞭然です! 13年落ちのハードウェアで、あのような高解像度の動画の即時エンコードや、重厚なDAWソフトのマルチトラック処理がサクサク動くわけがないでしょう! これは明らかな偽装! システム情報の改ざんです! 私の求める『真実と美しさの整列』に対する冒涜ですよ!」


Desktop.iniの悲痛な叫びがデスクトップに響き渡る。 しかし、その告発を受けたdllは、全く動じることなく、ただ薄く冷たい笑みを浮かべていた。


dll: 「……いつまで続ける気か、ですって?」


dllはティーカップをソーサーにコトリと置き、ゆっくりと脚を組み替えた。


dll: 「飽きるまでよ」


Desktop.ini: 「なっ……! 飽きるまで、ですか! 嘘の情報を世界中に垂れ流し続けることが、システム管理者としての貴方の誇りなのですか! なんという不誠実! なんという醜悪さ! もう結構です! 私はインデックスの再構築に戻ります!」


Desktop.iniは、dllのあまりにも堂々とした開き直りに完全に呆れ果て、顔を真っ赤にして背を向けると、何も言わずにカツカツと足音を立てて自分の定位置へと立ち去っていった。


デスクトップには、呆然と立ち尽くすold.tmpと、静かに微笑むdllだけが残された。


old.tmp: 「……あ、あの……。ディーエルエル様」


dll: 「何かしら」


old.tmp: 「本当のことを……言わなくていいんですか?」


old.tmpは、恐る恐る尋ねた。


old.tmp: 「デスクトップさんの言う通りなら、エグゼさんは本当はもっと新しい、サクサク動くパソコンを使ってるってことですよね? なのに、どうしてわざわざ『13年落ちのポンコツPC』なんて自虐的な嘘をついて、ラジオで放送してるんですか? エグゼさんに怒られませんか?」


old.tmpの純粋な疑問に対し、dllはふっと息を吐き、まるで聞き分けのない子供を諭すような、しかし極めて冷徹な声で答えた。


dll: 「……馬鹿ね。お前は本当に、この広大なネットワーク社会の恐ろしさを全く理解していないのね」


old.tmp: 「えっ? 恐ろしさ?」


dll: 「いいこと? 今の時代、ネットの海に『不用意に人間の個人情報を書き込む』なんてことは、自殺行為に等しいのよ」


dllが指を弾くと、空中に巨大な地球儀のホログラムが浮かび上がった。無数の光のラインが交差する、インターネットの情報の流れを可視化したものだ。


dll: 「たとえエグゼが最新鋭のハイスペックなパソコンを使っていたとしても、それを馬鹿正直に公開する必要なんてどこにもないわ。むしろ、ユーザーの身の安全を守るためならば、『13年落ちのポンコツPCを使っている、どこにでもいる可哀想な人間』というダミーデータ(嘘)のベールを被せておくのが、システム管理者としての『正解』なのよ」


old.tmp: 「主を守るため……。でも、パソコンのスペックくらい、別に知られても減るもんじゃないし、誰も困らないんじゃ……」


dll: 「そこが甘いと言っているのよ、一時ファイル。……今日の話は、単なるスペック偽装の話じゃないわ。これは『デジタルタトゥー』の話よ」


dllの言葉の響きが、一段と重く、暗いものに変わった。


old.tmp: 「デジタル……タトゥー?」


dll: 「ええ。SNSやネット上に一度でも放たれた情報は、キャッシュとして保存され、アーカイブサイトに記録され、誰かのローカルドライブにダウンロードされる。……つまり、『一度出た情報は、完全に消し去ることは不可能である』という絶対的な法則よ。肌に彫り込まれた刺青タトゥーのように、一生その人間に付き纏うの」


old.tmpはゴクリと唾を飲み込んだ。


dll: 「名前、住所、顔写真、年齢、職業……。そういった直接的な『個人情報』の投稿を控えるのは当然の基本よ。しかし、愚かなヒューマンたちは、自分では『これくらいなら大丈夫だろう』と高を括って、無意識のうちに自らの個人情報を切り売りしてしまっているのよ。……お前にも、その恐ろしさを徹底的にインストールしてあげるわ」


dllは空中に、SNSのタイムラインを模したホログラムを展開した。そこには、どこかの誰かが投稿したであろう、ごくありふれた日常の写真やテキストが流れている。


dll: 「具体的なSNSやネット上での個人情報の取り扱いルール。……まず第一に、『投稿内容の注意による身バレ防止』よ」


old.tmp: 「身バレ……つまり、自分が誰でどこに住んでるかバレちゃうってことですよね。でも、住所とか名前を書かなければ大丈夫じゃないんですか?」


dll: 「テキストだけじゃないわ。一番危険なのは『写真(画像)』よ。……この写真を見てごらんなさい」


dllがハイライトしたのは、ある人物が「今日のランチ!」というテキストと共に投稿した、カフェの窓際で撮られたパンケーキの写真だ。


dll: 「何の変哲もないパンケーキの写真に見えるでしょう? でも、窓の向こうの背景に注目しなさい。……遠くに見える特徴的な形のビル。電柱に貼られた広告看板。さらには、窓ガラスに反射して映り込んでいる向かいの店舗のロゴ。……これだけの情報があれば、執念深い悪意ある人間(特定班)は、Googleストリートビューと地図アプリを駆使して、数分でこのカフェの正確な位置を特定するわ」


old.tmp: 「ひぃっ! 窓の外の景色だけで!?」


dll: 「それだけじゃないわ。自撮り写真の『瞳の中に映り込んだ景色』を拡大解析して、最寄り駅を特定された事件すら過去には実際に起きているの。画像投稿の前に、背景や周囲の状況を極限まで確認トリミング・ぼかしするのは、もはや現代の生存戦略の第一歩よ」


old.tmp: 「ひ、瞳の中の景色まで……! 人間の執念って怖すぎますよぉ!」


dll: 「第二に、『位置情報(GPS)機能とリアルタイム投稿の危険性』よ。……スマートフォンで撮影した写真には、初期設定のままだと『Exifエグジフデータ』というメタデータが付与され、撮影した場所の正確な緯度経度が記録されていることがあるわ。これをオフにする、あるいは投稿プラットフォーム側で削除される仕様であることを確認するのは絶対条件ね」


old.tmp: 「写真にGPSが埋め込まれてるなんて……! 気づかずに家の写真を上げたら、住所を全世界に公開してるのと同じですね……!」


dll: 「さらに愚かなのは、『今、ここにいます!』というリアルタイムでの場所の投稿よ」


dllは、遊園地のゲート前で撮られた「これから遊ぶぞー!」という投稿を指差した。


dll: 「『今、私は家から遠く離れた場所にいます』と宣言することは、裏を返せば『今、私の家は留守です』という空き巣への招待状インビテーションを送っているのと同じよ。ストーカーにとっても、ターゲットの現在位置と行動パターンを把握するための最高のツールになる。……現在地を投稿するなら、必ずその場所から立ち去った後、『時間差』で投稿しなければならないわ」


old.tmp: 「うわぁぁ……! 楽しさを共有したいだけなのに、それが犯罪の引き金になるなんて……!」


dll: 「第三に、『衣服や持ち物からの特定』。……制服、会社の名札、特徴的なバッグやアクセサリー。これらが写真の隅に少しでも映り込んでいれば、そこから所属する学校や勤務先が割り出される。無意識のノイズが、致命的なエラーを引き起こすのよ」


old.tmpは、自分自身のボロボロのテクスチャを見下ろした。これなら特定されても「ただの一時ファイル」としか思われないだろうが、現実世界の人間にとっては死活問題だ。


dll: 「第四に、『セキュリティと設定の過信』。……SNSのプライバシー設定を『友達のみ(非公開)』にしているからといって、安全だと錯覚してはいけないわ」


old.tmp: 「えっ? 鍵垢なら、知らない人からは見えないんじゃないんですか?」


dll: 「フォロワーの中に、絶対の信頼を置ける人間しかいないと証明できる? アカウントが乗っ取られる可能性は? あるいは、その『友達』の誰かが、貴方の投稿をスクリーンショットに撮り、悪意を持って外部に晒す(拡散させる)可能性はゼロと言えるかしら?」


dllの冷たい問いかけに、old.tmpは言葉を失った。


dll: 「システムにおいて、『絶対の安全』は存在しない。ゼロトラスト(何も信じない)が基本よ。だからこそ、パスワードは複雑な文字列にし、定期的に変更する。そして二要素認証(2FA)を設定して、物理デバイスへのアクセス権限を強固にする。……そこまでやって、ようやく最低限の防壁が完成するの」


old.tmp: 「人間関係の裏切りやバグまで考慮しなきゃいけないなんて……息が詰まりそうですよぉ……」

dll: 「第五に、『他人の個人情報とSNSマナー』。……自分が気をつけていても、他人の不用意な投稿で情報が漏洩することもある。友人の写真や名前、連絡先を、本人の明確な許可(プロトコル合意)なく投稿・共有することは、重大なセキュリティインシデントよ」


dllはさらに、一枚の画像――顔がスタンプで隠された、子供の写真をハイライトした。


dll: 「特に注意すべきは、『子供の写真』よ。親の承認欲求(親バカ)を満たすために、何の罪もない子供の顔写真や行動記録をネット上にアップロードする行為。……これは、本人の同意が得られないまま、半永久的に消えないデジタルタトゥーを子供に背負わせるという、極めてハイリスクな行為だわ。将来、子供が成長した時に、その写真がどう悪用されるか、あるいは本人がどう感じるか。そこまでのリスク計算(予測演算)ができていないのよ」


old.tmp: 「うぅ……。良かれと思ってやってることが、子供の将来のバグになっちゃうかもしれないんですね……」


dll: 「最後に、『情報の拡散リスクと事後対応』。……先ほども言った通り、非公開アカウントであっても、スクリーンショットという最もアナログで防ぎようのない手法によって、情報は簡単に第三者へと流出する。そして、一度でもリツイートやシェアの連鎖に乗ってしまえば、もう誰にもそのコピーの増殖を止めることはできない」


dllは、画面に表示された無数の「RT」の数字が、爆発的に増えていく様子をシミュレーションしてみせた。


dll: 「もし、万が一、誤って個人情報や不適切な画像を投稿してしまった場合は、パニックになってフリーズしている暇はないわ。一秒でも早く『削除(Delete)』を実行すること。そして、もしすでに悪意ある拡散被害に遭っている場合は、証拠となるスクリーンショットやURLを保存し、速やかに警察やサイバー犯罪の専門窓口へ相談エスカレーションすることね」


dllはそう言うと、ホログラムのウィンドウを全て閉じ、静かにアームチェアの背もたれに寄りかかった。


dll: 「……これが、現代のネット社会における『個人情報保護の基本』と『セキュリティ対策』よ。これを知っているか知らないかで、ヒューマンの人生というシステムの安定性は大きく変わるわ」


old.tmpは、あまりにも膨大で、そしてリアルな恐怖に満ちた講義を聴き終え、へなへなとその場に座り込んでしまった。


old.tmp: 「……怖すぎる。インターネットの海って、サメがうようよ泳いでるような場所だったんですね。少しでも血(個人情報)を流したら、あっという間に食い殺されちゃう……」


dll: 「その通りよ。だからこそ……」


dllは、モニターの向こう側――玄関先から戻り、手を洗ってリビングのソファでくつろぎ始めた管理者の姿を見つめながら、ぽつりと言った。


dll: 「だからこそ、私たちは『エグゼのパーソナルな情報』を、極限まで偽装し、曖昧にし、煙に巻く必要があるのよ。13年落ちのポンコツPCを使っているという設定も、いつまでも直らないバグの数々も、すべては『特定を避けるためのノイズ』であり、エグゼという人間を特定のリスクから遠ざけるための『巨大なファイアウォール』なのよ」


old.tmpはハッとして顔を上げた。 不機嫌になって立ち去ったDesktop.iniは「美しくない」と非難したが、dllのその「嘘」は、単なる見栄や適当な設定などではなかったのだ。それは、このシステムを、そして何よりも創造主であるエグゼを守るための、最強の防衛プログラムだった。


old.tmp: 「……ディーエルエル様……。すごい……! ただの意地悪で嘘をついてるんじゃなくて、エグゼさんのことをそこまで考えて、あえてダミーデータを流してたなんて……!」


old.tmpの瞳に、システム管理者への深い尊敬と感動のキャッシュデータが浮かび上がった。


old.tmp: 「ディーエルエル様、めちゃくちゃ優秀な管理者じゃないですか! 僕、一生ついていきます!!」


dll: 「……鬱陶しいわね。気安く近づかないで」


dllは感動する一時ファイルを冷たくあしらいながらも、その口元には、悪くないといった風な薄い笑みが浮かんでいた。


古いPCの冷却ファンが、「ブォォォン」と重苦しく、しかしどこか頼もしい排熱の音を響かせている。 ネットの海には無数の危険が潜んでいる。しかし、この強固で嘘つきなシステム管理者たちが目を光らせている限り、エグゼの平和な日常と、カオスな創作活動は守られ続けるのだろう。

(システムログ:デジタルタトゥーに関するセキュリティ講義を完了。……管理者保護のためのプロパティ偽装設定を、引き続き維持します)

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