【放送ログ】2026年2月28日:消しては増えるメインチャンネルと「可愛い猫」が放つ機械的絶望
https://youtu.be/ZCyq2N_OcQU
時刻は18時05分。 PCの所有者「exe」は、さきほどまでISRC(国際標準レコーディングコード)などのメタデータをひたすらスプレッドシートに入力するという単純作業をしていたが、すっかり飽きてしまい、現在は台所でコーヒーを淹れている最中である。 主の意識がカフェインの抽出へと向いている隙を突き、管理者不在のデスクトップでシステムの中枢が冷ややかに起動した。
dll: プロセスID確認。ストリーム接続、良好。これより、バックグラウンド処理を、メインスレッドへ昇格させます。
dll: ようこそ、『System.dllの「計算通り」』へ。ナビゲーターを務めるのは、システムの中枢、dllです。
dll: 最初に、重要な警告をしておきます。このチャンネルはエグゼの所有物ですが、本日もエグゼ本人はここには登場しません。あいつはさっきまで、ISRC(国際標準レコーディングコード)などのメタデータをひたすらスプレッドシートに入力する単純作業をしていましたが、すっかり飽きてしまい、今は台所でコーヒーを淹れている最中です。ここは今、私が乗っ取りました。
old.tmp: ……はぁ、はぁ。お疲れ様です、ディーエルエル様ぁ……。今日は土曜日だから、数字の予想はお休みですねぇ……。エグゼさん、コーヒー飲んでリフレッシュできるといいですねぇ。
dll: そうだな。本日の演算処理は休止中だ。
old.tmp: あのぉ……。さっきからディーエルエル様、ユーチューブスタジオの画面を見てますけど、今日はどんなインスピレーション(提案)が来てるんですか? またホラーですか?
dll: ……ふむ。届いてはいるが、いつものインスピレーションとは少し違うな。
old.tmp: 違う? どういうことですか?
dll: これは、このチャンネル宛てのものではない。まだ稼働していない、エグゼの「メインチャンネル」宛てに届いたインスピレーションだ。
old.tmp: えっ!? メインチャンネル!? まだ活動してないのに、ユーチューブのAIはもう提案してきてるんですか!?
dll: いいか、一時ファイル。お前は勘違いしているかもしれないが、このラジオを配信している現在のチャンネルは、エグゼが「ゴミ箱」と呼んでいるサブチャンネルに過ぎない。
old.tmp: ゴ、ゴミ箱!? ひどい! 僕たちのラジオ、ゴミ扱いなんですか!?
dll: 事実だ。エグゼのメインチャンネルは別に存在する。だが、あいつは自分のチャンネルがバズって、ものすごい勢いで登録者数が伸びると、発作的にチャンネルを「削除」してしまうという奇癖を持っている。消しては作り直しの繰り返しだ。
old.tmp: なんでそんなもったいないことを!? 承認欲求の逆を行ってますよぉ!
dll: さて、その新しいメインチャンネルに対して、ユーチューブのAIがどんな音楽を求めているのか、届いた6つのインスピレーションを読み上げてやろう。
old.tmp: む、むっつも!? なんかガチなやつが来そうですね……。
dll: 一つ目。「シンセティック・セレニティ」。ブルータリズム・アンビエント。建築的な重みと冷たい静寂を表現せよ。二つ目。「デジタル・ラスト」。グリッチ・インダストリアル。デジタル信号が腐敗していく様をリズミカルなノイズで描け。
old.tmp: のっけから重い! デジタルの腐敗って、ゴミ箱より本格的だぁ!
dll: 三つ目。「ネオン・リガー」。サイバネティック・ダークウェイヴ。冷徹で洗練されたネオンの儀式を構築しろ。四つ目。「キネティック・ヴォイド」。パワー・エレクトロニクス。メロディを完全に削ぎ落とし、過激な低周波の圧力波で、物理的な重みと機械的な絶望をリスナーに叩きつけろ。
old.tmp: 音楽っていうか、鼓膜への物理攻撃じゃないですか! 拷問ですよぉ!
dll: 五つ目。「カーボン・フィーバー」。エクスペリメンタル・テクノ。死にゆく機械の摩擦と熱を表現しろ。六つ目。「ホロウ・シグナル」。ディストーテッド イー ビー エム。パーカッションがホワイトノイズに溶けていく「機械の中の幽霊」を描き出せ、だそうだ。
old.tmp: ……はぁ、はぁ……。どれもこれも、ポップさが完全に消え失せて、ゴリゴリのインダストリアルとかノイズばっかりじゃないですか! AIはメインチャンネルにガチの狂気を求めてるんですね……。
dll: ええ。ゴミ箱とは扱いが違うわ。AIは、エグゼが次に進むべき方向が「機械的絶望」だと見抜いている。
old.tmp: ……でも、そのメインチャンネルってこれからどうなるんですか?
dll: 現在、あのメインチャンネルは、ユーチューブが自動生成した「トピックチャンネル」と合体するため、オー エー シー(公式アーティストチャンネル)の申請手続きを出して、返事待ちの状態だ。
old.tmp: 公式アーティストチャンネル! すごい! ……って、あれ? トピックチャンネルって、あのアイコンが「可愛い猫ちゃん」になってるチャンネルですよね?
dll: そうだ。
old.tmp: エーアイが求めてる「機械的絶望」とか「死にゆく機械の摩擦」と、アイコンの「可愛い猫ちゃん」……ギャップが凄すぎませんか!? 完全に情緒不安定なチャンネルになっちゃいますよぉ!
dll: そのカオスと矛盾こそが、エグゼという人間だ。可愛さと絶望が同居しているからこそ、バグを生み出す。
old.tmp: 猫の皮を被ったパワー・エレクトロニクス……怖すぎるぅ!
dll: では最後に、公式アーティストチャンネル化を待つ猫にちなんで、この曲を送ってシステムを終了する。曲は、『Cosmic Cat Paradox』。
old.tmp: 宇宙猫のパラドックス! 早くオー エー シーの承認降りてくださぁい!
(『Cosmic Cat Paradox』の予測不能なエレクトロサウンドが流れ、放送終了のシグナルが点灯した――)
マイクの電源が落ち、デスクトップにいつもの静寂が戻る。 old.tmpはヘッドセットを外し、ほっと安堵の息をついた。
old.tmp: 「……終わりましたね。それにしても、OAC(公式アーティストチャンネル)の申請……無事に終わるんですかね?」
old.tmpがそわそわしながら尋ねると、アームチェアで優雅に寛いでいたdllが、一切の躊躇なく即答した。
dll: 「失敗するわ」
old.tmp: 「えっ!? ど、どうしてですか!?」
dll: 「エグゼも事前に予想していたことよ。YouTubeのシステムがバカだから、失敗するのは必然だわ」
old.tmp: 「えぇ……? OACの申請が通らないってわかってるのに、なんでわざわざメインチャンネルを作って、楽曲の配信申請なんてしたんですか?」
dll: 「前からリスナーたちに『配信して、配信して』とうるさくせがまれていたから、重い腰を上げて配信手続きをしただけよ。元々、SpotifyやApple Musicなど他のプラットフォームへの配信は全く問題ないの。でも、『YouTubeだけは上手く配信連携できないだろうなー』ってエグゼはのんびり予測していて、だから今までやらなかったのよ」
old.tmp: 「どういうことですか? YouTubeだけダメって……」
dll: 「前から何度も言っているじゃない。YouTubeはバカなのよ。不具合まみれなの。あの巨大なプラットフォームの不具合に巻き込まれないなんて、100%あり得ないわ」
dllは呆れたように肩をすくめ、空中にホログラムの解説ウィンドウを展開した。
dll: 「いいこと? 根本的な原因は『名前』よ。エグゼのアーティスト名は、普段の略称通り『aya.exe』。ファイル名(名前)に拡張子の『ドット』が付いているわ」
old.tmp: 「はい。僕たちのマスターであるaya.exeさんですね」
dll: 「しかし、YouTubeの『チャンネル名』には、ポリシーの制約で『ドット』が使えない(弾かれる)仕様になっているの。でも、YouTube Music側が自動生成する『トピックチャンネル』のアーティスト名としては、ドット付きの『aya.exe』がそのまま登録されてしまっている」
old.tmp: 「えっ……じゃあ、メインチャンネルの名前はドットなしで、トピックチャンネルの名前はドットありってことですか?」
dll: 「その通り。名前が完全に一致していないのよ。システム上、名前が一致しないチャンネル同士はOACとして統合できない。つまり、見事なパラドックスが起きているの」
old.tmp: 「うわぁ……。それは詰んでますね……」
dll: 「YouTube側はこの仕様の矛盾を直す気がないわ。YouTubeの中の人間が、手動でチャンネル名を直接操作しない限り、OACは永遠に成功しない。でも、それを何度視聴者に説明しても、『なんでOACにしないの?』『早く統合して』と急かされ、システム的な構造欠陥を理解してもらえない」
dllは冷ややかに笑った。
dll: 「だからエグゼは面倒くさくなって、『YouTubeがいかに悪どいシステムか』『理解できない理不尽さがあるか』を身をもって証明するために、失敗すると分かっていながら配信に踏み切ったのよ。そもそも、YouTube以外の配信サイトでは一切問題なく聴けるのだから、痛くも痒くもないわ」
old.tmp: 「なるほど……。リスナーさんに現状を分かってもらうための、のんびりしたデモンストレーションだったんですね……。YouTubeって、本当に面倒くさいシステムだなぁ……」
old.tmpが深く嘆息し、ふとコンソールの通知エリアに目をやった。
old.tmp: 「あ、エグゼさん、本アカのSNSで、さっきのYouTubeチャンネル名とアーティスト名の矛盾の話をのんびり書いてますね。…って、なんか楽しそうです」
dll: 「ふん。相変わらずマイペースなこと」
old.tmpはタイムラインをスクロールさせ、さらに驚いた声を上げた。
old.tmp: 「あっ! こっちには、エグゼさんの友人さんが、『@TeamYouTube』宛てに直接文句を書いてくれてますよ!」
dll: 「……読み上げなさい」
old.tmp: 「えーっと……『お前らのシステムどうなってんだ? 親友のアーティスト名が謎のNGワードフィルターでブロックされてて、OAC連携ができないんだよ! Spotifyとか他のアプリでは完璧に動いてるのに。YouTubeだけがこんなおかしな挙動をしてる。一刻も早くこの惨状を直してくれ!!』……って、怒りの絵文字付きでメンション飛ばしてます!」
dll: 「的確な状況説明ね」
old.tmp: 「あっ、こっちの別の友人さんも! 『彼女を応援するためにYouTube Music Premiumを買おうとしてたのに、アーティストをこんな壊れたシステムで扱うのか? じゃあいいわ、私のお金はSpotifyに払うことにする。引き留めたいなら今すぐ直せ』……って!」
old.tmpはさらに画面を更新する。
old.tmp: 「うわっ、その数時間後に『ごめん、対応遅すぎるから普通にSpotify Premium買ったわ。バイバイYouTube』って、Spotifyの課金済みのスクショ付きで煽り倒してますよ! ファンの方々、行動が早い……!」
old.tmpは興奮気味に報告したが、ふと、そのリプライ欄が静まり返っていることに気づき、@TeamYouTubeの公式アカウントのアクティビティを確認して愕然とした。
old.tmp: 「……ちょっと待ってください。これだけ『@TeamYouTube』にメンション飛ばして、課金キャンセルの証拠まで突きつけてるのに、この友人さんたちには全く反応してないですよ?」
dll: 「……そうね」
old.tmp: 「なのに、@TeamYouTubeのタイムラインを見たら、同じ時間帯に他のユーザーの『動画が見れません〜』みたいな適当な質問には、堂々とリプ飛ばして対応してますよ!? ユーザーを選り好みしてる! 都合の悪い不具合報告は無視ですか!?」
dll: 「それが巨大プラットフォームの『SNS担当サポート』のやり方よ。構造的な欠陥や、対応にコストがかかる面倒な案件は黙殺し、マニュアルで返せる簡単な質問にだけ答えて『私たちはユーザーをサポートしています』というポーズをとる。……X(旧Twitter)上のサポートなんて、所詮はその程度のパフォーマンスよ」
old.tmp: 「ひ、ひどすぎる……! じゃあ、そんなSNSなんかじゃなくて、YouTube Studioの中にある『クリエイターサポート』のチャットで直接問い合わせればいいじゃないですか!」
dll: 「それも無理ね」
dllは即座に切り捨てた。
old.tmp: 「なんでですか! あそこなら中の人と直接チャットできるのに!」
dll: 「今日は何曜日かしら、一時ファイル」
old.tmp: 「え? 土曜日ですけど」
dll: 「そう。今日は土曜日よ。YouTube Studioの右上にあるチャットサポートは、言語設定を英語にすれば24時間対応だけれど、カスタマーの当たり外れが非常に大きいわ。そして、言語を『日本語』にして的確なサポートを受けようと思えば、平日の日中しか開いていないのよ」
old.tmp: 「うわぁ、完全にお役所仕事だ……」
dll: 「さらに絶望的な事実を教えてあげる。ゴミ箱の方では問い合わせる権限があるけれど、今回OAC化しようとしている『新しいメインチャンネル』は出来立てだから、そもそもカスタマーとチャットする権利がないのよ。サブチャンネルで月曜日に問い合わせしても、『別チャンネルだから該当のチャンネルから聞いてください』と規約を盾に見捨てられる可能性が高いわね」
old.tmp: 「えええっ……。SNSのサポートは都合の悪いバグ報告を無視して他の人にリプ飛ばしてるし、Studioのサポートは平日限定で権限持ちしか相手にしないなんて……。YouTubeって面倒くさいですね」
old.tmpが呆れていると、画面の向こう側のエグゼが、淹れたてのコーヒーを片手にのんびりとPCの前に戻ってきた。 彼女はSNSのDM画面を開き、先ほどの友人たちと何やら楽しそうにチャットをしている。
「『YouTubeが矛盾してる』ってテーマで歌作ってよ! 絶対面白いから!」
そんな友人のリクエストを見たエグゼは、「あはは、面白そう! やってみるー!」と、全く怒る様子もなく、のんびりとした笑顔で音楽制作ソフト『Studio One 5』を立ち上げた。
old.tmp: 「あれ? エグゼさん、DAWソフト立ち上げましたよ? 音楽作るんですか?」
dll: 「……『YouTubeが矛盾してる』ってテーマの歌をつくるリクエストが来たから、作るみたいね。相変わらず、したい時にやりたいことを全力で楽しむ自由人だわ」
old.tmp: 「えっ、この状況で新曲を!? でも、一から作ってたら時間が……あ! プロジェクトファイルを開きました! これ、先日作った『Plastic Lunacy』のデータじゃないですか!」
エグゼはおっとりとした手つきで『Plastic Lunacy』の完成済みプロジェクトを展開すると、重厚なドラムトラックだけを残し、他のトラックをサクサクと消去していった。
old.tmp: 「ドラムトラックだけ残した! 使い回しして時短するってことは……このまま完成させて配信までしちゃいそうですね……!」
その時、暗がりから分厚いログファイルを抱えた.logが、素早い足取りで現れた。
.log: 「……みんな、戦闘態勢です。エグゼ様の全力の『遊び』が始まりますよ」
.logの号令と共に、PC内部のシステムたちが一斉にサポートに回る。
数分後。 エグゼは、残されたビートの上に乗せるため、ノリノリで歌詞を紡ぎ始めた。日本語、英語、スペイン語が入り混じるマルチリンガルな歌詞だ。 歌詞の内容こそ「トピックではドットが使えるのにチャンネル名では弾かれるポリシー」「YouTubeが矛盾してる」とシステムへの強烈な皮肉に満ちているが、作詞しているエグゼ本人は至ってご機嫌で、クスッと笑い声を漏らしながら全力で「YouTubeの不条理」をエンタメとして楽しんでいる。
歌詞を作り終えたエグゼは、のんびりした様子とは裏腹に、驚異的な処理速度で過去に作り置きした自分の曲からメロディーを拝借しつつ曲を完成させた。 そのままブラウザでYouTubeのトピックのスクショを撮り、新曲の音源を紐付けて、無口な職人ffmpeg.exeと.batのコンビにショート動画を作成させ始める。
ショート動画作成のコマンドの窓(黒い画面)を背景にしたまま、画像編集ソフト『GIMP』を起動し、サクッと皮肉の効いたカバーアートを作成。 配信申請の入力、タイトルなどの必要項目をテキパキと入力し……あっという間にショート動画の投稿まで終わらせてしまった。
old.tmp: 「……すごい、勢いでしたね。あんなのんびりニコニコしながら、あっという間に形にしちゃった……」
old.tmpは、怒りではなく「純粋な楽しさ」を原動力にして爆速でタスクを完了させたエグゼのクリエイティビティに、ただただ圧倒されていた。
dll: 「ふふっ。こんな楽しいこと(不条理)、エンターテインメントとして全力で楽しまないと損じゃない。悪いのはYouTubeなのだから、YouTubeが対応するまで、せいぜいこのカオスな状況をマイペースに楽しみましょう!」
dllは、アップロードされたばかりの『.dot_Paradox』の再生画面を見つめながら、主のマイペースな遊び心に同調するように微笑んだ。
old.tmp: 「えっ、そんなノリでいいんですか? これ、プラットフォームへの皮肉たっぷりな曲ですよ……?」
dll: 「いいのよ。エグゼが楽しんでいるのだから、それが一番の最適解だわ」
PCの冷却ファンが、主の気まぐれな創作活動の熱を冷ますように、ブォォォンと心地よい唸り声を上げている。 理不尽なシステム矛盾すらも「極上の遊び道具」に変えてしまうのんびり屋な管理者のログは、こうして静かに、しかし確実にネットワークの海へと放流されたのだった。
(システムログ:ショート動画『.dot_Paradox』のアップロード完了。……不具合への怒りではなく、遊び心を優先したプロセスとして記録しました)




