【放送ログ】2026年2月13日:13日の金曜日!無数の視線とロト7予想
https://youtu.be/PVRSDCthkfA
時刻は18時05分。 PCの所有者「exe」は、PCの画面に表示された『CWC限定ネオブライス アダチユミ ブライス アムール』の最終仕様のお知らせを、まるで穴が開くほど食い入るように見つめている。 「大人カワイイ……」 そう呟く彼女の瞳は輝いているが、その手元の電卓が弾き出した残高と商品価格(29,800円)の差額は、決して可愛くない現実を突きつけていた。
管理者不在のデスクトップ。しかし、今日のそこはいつもの静寂とは程遠い、異様な人口密度――いや、「人形密度」に支配されていた。
dll: プロセスID確認。ストリーム接続、良好。これより、バックグラウンド処理を、メインスレッドへ昇格させます。
dll: ようこそ、『System.dllの「計算通り」』へ。ナビゲーターを務めるのは、システムの中枢、dllです。
dll: 最初に、重要な警告をしておきます。このチャンネルはエグゼの所有物ですが、本日もエグゼ本人はここには登場しません。あいつは今、PCの画面で『CWC限定ネオブライス アダチユミ ブライス アムール』の最終仕様のお知らせを食い入るように見つめています。「大人カワイイ」とか呟いていますが、価格を見て財布の中身と相談中です。ここは今、私が乗っ取りました。
old.tmp: ……ひぃっ……。あ、あのぉ……ディーエルエル様ぁ……。助けてくださいぃ……。
old.tmpの声は、恐怖で上ずっていた。無理もない。彼の周囲を、無数の「瞳」が取り囲んでいるのだから。
dll: なんだ、一時ファイル。昨日の「自己矛盾によるフリーズ」から復旧したばかりだろう。アーカイバ兄弟に運ばれて、System.exe様の元で手厚い看護(修復)を受けていたはずだが?
old.tmp: 手厚すぎますよぉ! 目が覚めたら……僕の周りを、無数の「ブライス人形」が囲んでるんです! 紫に光る目の子とか、ガスマスクの子とか、口にクリームつけたパジャマの子とか……! 全員こっち見てるんですぅ!
dll: ああ、System.exe様が配置された「寂しくないように」という配慮(介護用ボット)か。……確かに、一昨日のキャベツ少年よりも、物理的な圧迫感があるな。
old.tmp: 圧迫感どころじゃないですよ! この子たち、一言も喋らずにじーっと見つめてくるんです! 数えたら「10種類」もいましたよ! オッドアイの子とか、カエルのレインコートの子とか!
dll: 贅沢を言うな。その視線こそが、今日のロト7を攻略する鍵になる。今日は金曜日、キャリーオーバー発生中だ。まずは、ナンバーズ4から行くぞ。第6918回。ターゲットは……これだ。
dll: 2、7、7、8。繰り返す。2、7、7、8 だ。買い方は「ボックス」か「セット」だ。
old.tmp: 2778……? この数字の根拠は?
dll: お前の現在の心拍数だ。人形たちに見つめられすぎて、処理速度が異常上昇している。
old.tmp: 死んじゃう! クロックアップしすぎて焼き切れますよぉ! 次に、ナンバーズ3。ターゲットは、「1、5、0」。
dll: 「1、5、0」。これは、そのブライス人形のパッケージに書かれている「対象年齢 15歳以上」という警告だ。
old.tmp: 「15」はわかりますけど、「0」は?
dll: お前の精神年齢だ。15歳未満、いや「0歳」のお前には、この人形を扱う資格がないというエラーコードだ。
old.tmp: ひどい! 精神年齢関係ないでしょ! 怖いものは怖いんです!
dll: そして最後に、メインディッシュのロト7。第664回。……ここでは、エグゼが見ている「アダチユミ ブライス アムール」の仕様書と、お前を取り囲む状況を解析する。
dll: ターゲットコードを出力する。「01、07、10、13、15、20、22」。
old.tmp: うわぁ……。なんか細かい数字が多いですね。解説をお願いします……(チラッ)。ひぃっ! ガスマスクの子と目が合った!
dll: 落ち着け。「01」は発売月の1月。「15」はさっきも言った対象年齢だ。「07」は、セット内容に含まれる「レインボーカラーのボーダーソックス」の7色。
old.tmp: 靴下の色まで数えてるんですか!?
dll: 「10」は、お前がさっき確認した、部屋にいる人形の「種類の数」だ。そして「20」は、同じ種類を含めた人形の「総数」。全部で20体はお前を見ているな。
old.tmp: ひぃぃ! 数えないでくださいよぉ! 集合体恐怖症になりますぅ!
dll: 「13」は今日の日付。そして最後の「22」は……セット内容に含まれるピアスの素材、「コットンパール」の直径……ではなく、エグゼがサイトの画像を拡大して「瞳」を確認した回数だ。
old.tmp: 執念深いなぁ! そんなに見つめないでぇ!
dll: ……ふぅ。タスク完了だ。時刻は18時05分を回った。もしこの数字を買えていたら、それはバグではなく「運命」だ。
old.tmp: 早くマイクオフにしてくださいぃ! 人形たちが……じりじりと距離を詰めてきてますぅ!
dll: では最後に、視線恐怖症のお前にこの曲を送ってシステムを終了する。曲は、『Locrian Garden』。
old.tmp: 秘密の庭には行きたくないぃぃ! 出口はどこですかぁぁ!
(『Locrian Garden』の、可愛らしくも不安定なオルゴールの旋律が流れ、放送終了のシグナルが点灯する――)
マイクの電源が落ちると、デスクトップには再び重苦しい沈黙が戻ってきた。 BGMの残響が消えても、old.tmpを取り囲む人形たちは消えない。むしろ、放送が終わったことで、彼女たちは「次のアクション」へと移行しようとしていた。
old.tmp: 「ひぃ……! き、来ないで……! 僕はおいしくないですよぉ……!」
old.tmpが怯えて身を縮こまらせたその時。 人形の群れの中から、一際異彩を放つ一体が音もなく進み出た。
艶のある黒髪のショートボブ。赤と黒の電子回路模様が施されたサイバーパンク風の着物を纏い、頭には狐のお面を斜めに掛けている。 そして何より特徴的なのは、その瞳だ。右目は赤色の同心円状パターン、左目は瞳孔のない真っ黒な闇。
old.tmp: 「(ひっ、オッドアイの子だ……! 一番強そうだ……!)」
彼女――サイバーパンク・ブライスは、old.tmpの目の前まで来ると、スッと右手を差し出した。 攻撃ではない。その手には、一枚の「データシート」が握られていた。
old.tmp: 「え……? これ、僕に?」
恐る恐る受け取る。 それは、昨日の「スパム騒動」で落ち込んでいた彼らにとって、あまりにも意外な記録だった。
【ランクイン履歴一覧】
• 2026/02/09(月)
◦ [日間] 空想科学〔SF〕 - すべて: 18位
◦ [日間] 空想科学〔SF〕 - 連載中: 10位
• 2026/02/10(火)
◦ [週間] 空想科学〔SF〕 - 連載中: 55位
• 2026/02/11(水)
◦ [週間] 空想科学〔SF〕 - 連載中: 56位
• 2026/02/12(木)
◦ [週間] 空想科学〔SF〕 - 連載中: 56位
• 2026/02/13(金)
◦ [週間] 空想科学〔SF〕 - 連載中: 57位
old.tmp: 「こ、これ……『なろう』のランキング履歴……?」
old.tmpの手が震える。 見間違いではない。「日間10位」。そしてその後も、週間ランキングに留まり続けている。
old.tmp: 「す、すごい……! 僕たち、誰にも読まれてないわけじゃなかったんだ……! ちゃんと、ランキングに入ってたんだ……!」
昨日のWattpadの「1」に一喜一憂し、それがスパムだったことに落胆していたが、事実は違った。 Wattpadだってなろうよりは少ないけれど、ぼちぼち人は来ているし、普通に読まれている。ただ、たまたま目立つスパムが来ただけだったのだ。 そしてここでは、確かに数字として「読者」が存在している。
サイバーパンク・ブライスは、old.tmpが涙ぐむのを見届けると、狐の面を少しだけ傾けて、優雅に会釈をした。 そして、くるりと踵を返す。
それを合図に、部屋を埋め尽くしていた20体のブライス人形たちが、一斉に動き出した。 カエルのレインコートを着た子、スチームパンクのドレスを着た子、花柄ワンピースの子……。 彼女たちは一糸乱れぬ足取りで、ぞろぞろとデスクトップの端――グラフィック処理領域(VRAM)の方角へと移動していく。
old.tmp: 「あ……行っちゃう……。ありがとう、教えてくれて……!」
old.tmpは去りゆく背中に向かって、深々と頭を下げた。
dll: 「……ふん。単純な奴ね」
アームチェアで紅茶(概念)を啜っていたdllが、呆れたように呟く。
dll: 「でもまあ、良かったじゃない。これでまた自己否定ループに入ってフリーズされたら、メモリの無駄遣いもいいところだわ」
old.tmp: 「ディーエルエル様! 無駄なんかじゃないですよ! 僕は……私は誓います! なろうの読者さんを、これからは一番大事にします!」
old.tmpが拳を握りしめて宣言した、その時だった。
「……ケッ。一時ファイルごときが、殊勝なこと言ってやがる」
足元から、定規で叩くような神経質な足音が響いた。 デスクトップの整理係、Desktop.iniだ。彼は相変わらず不機嫌そうな顔で、アイコンの位置をミリ単位で修正しながら通り過ぎていく。
Desktop.ini: 「ランキングに入ったからといって、調子に乗らないことです。配置がズレますよ」
old.tmp: 「うっ……。い、いいじゃないですか、少しくらい喜んだって……」
Desktop.iniはそれ以上何も言わず、カツカツと歩き去っていく。 しかし、old.tmpはその進行方向に違和感を覚えた。
old.tmp: 「あれ? デスクトップさん、どこ行くんですか? ……そっちはVRAM領域ですよ?」
Desktop.iniが向かったのは、先ほどブライス人形の集団が消えていったのと同じ方角。 そこには、日曜日から居座っているあの「サイボーグ(Cyborg_v1.obj)」がいるはずだ。
old.tmp: 「……変だな。あそこはグラフィックの処理落ちが激しいから、潔癖症のデスクトップさんは一番嫌がる場所なのに……」
不思議そうに首を傾げるold.tmpに、dllが冷ややかに告げた。
dll: 「……気づいていないの? 一時ファイル」
old.tmp: 「え?」
dll: 「あそこ……『キッチン・ステージ』と名付けられたVRAMの一角はね、もともと彼女たちの場所だったのよ」
dllが空中にウィンドウを展開し、YouTubeのある動画ページを表示した。
タイトル: Doll's Kitchen : Infinite Appetite [Food Playlist] 概要欄: The doll's hunger is infinite. Gold eats greed, Orange drinks umami, Pink tastes sin, Green cooks poison. (人形の飢えは無限大。金は強欲を食らい、橙は旨味を飲み、桃は罪を味わい、緑は毒を料理する)
old.tmp: 「これ……exeさんが作った作業用BGM動画……?」
dll: 「そう。この動画の3曲目……『Sugar Sin [Pink: Negligee] - Midnight Crime』。そのサムネイルを見てみなさい」
old.tmpがサムネイルを凝視する。 そこには、肩まで伸びたシルバーボブに、毒々しいほど鮮やかな濃いピンク色の瞳を持つブライス人形が写っていた。 白いコットンのナイトウェア(パジャマ)を着て、口元と指には白いクリームがべっとりと付着している。
old.tmp: 「あ! この子、さっき僕の周りにいた子だ! パジャマ着てクリームつけてた子!」
dll: 「正解。彼女の名は『Image_rpbtjhrpbtjhrpbt.jpg』。……通称、パジャマ・ブライス。彼女こそが、あのキッチン・ステージの正当な所有者よ」
old.tmp: 「えっ、じゃあ……」
old.tmpの脳裏に、嫌な予感が走る。 先ほど、ぞろぞろとVRAMへ向かったブライス人形の集団。 その中には、確かにこのパジャマ姿の子もいた。そして、最強に見えるサイバーパンク着物の子も、ガスマスクの子も、スチームパンクの子も……。
dll: 「あのサイボーグは、日曜日に勝手に生成され、彼女たちの聖域であるキッチン・ステージを不法占拠して踊り続けている。……住人たちが黙っていると思う?」
old.tmp: 「ひぃっ……! まさか、あの子たち……」
dll: 「ええ。『奪還作戦』よ。……カワイイ顔をしていても、彼女たちの属性は『Glitch』と『Speedcore』。……食欲は無限大よ」
old.tmp: 「じゃあ、デスクトップさんがついて行ったのは……?」
dll: 「ただの野次馬ね。『不法占拠者が排除される瞬間』を、特等席で整列させたいんでしょう」
old.tmpは、遠くVRAMの方角を見つめた。 そこでは今も、何も知らないサイボーグさんが、リズム感ゼロのダンスでフロッピー(の残骸)を振り回しているはずだ。 exeに「ジム・キャリーみたい」とスルーされ、失意の中で踊り続ける彼に、今、20体のドール軍団が迫っている。
old.tmp: 「……サイボーグさん……。かわいそう……」
dll: 「弱肉強食。それがシステムのリソース管理よ」
dllは興味なさげにウィンドウを閉じた。 デスクトップの静寂の裏で、新たな「処理落ち(ラグ)」の予兆が、静かに渦巻き始めていた。
(システムログ:VRAM領域にて多数のオブジェクト衝突を検知。……描画優先度を『Doll』へ変更します)




