【放送ログ】2026年2月11日:アナログ読書の静寂と、嘘を見抜くリテラシー
https://youtu.be/vx4EzpE00XY
時刻は18時05分。 PCの所有者「exe」は、PCデスクから離れたソファに寝転がり、友人から借りた紙媒体の漫画――極めてアナログなデータ形式の読み込み(読書)に没頭している。 管理者不在のデスクトップは、マウスカーソルひとつ動かない静寂に包まれていた。
dll: プロセスID確認。ストリーム接続、良好。これより、バックグラウンド処理を、メインスレッドへ昇格させます。
dll: ようこそ、『System.dllの「計算通り」』へ。ナビゲーターを務めるのは、システムの中枢、dllです。
dll: 最初に、重要な警告をしておきます。このチャンネルはエグゼの所有物ですが、本日もエグゼ本人はここには登場しません。あいつは今、PCデスクから離れたソファで、友人から借りた「紙媒体のマンガ」という極めてアナログなデータの読み込み(読書)に没頭しています。ここは今、私が乗っ取りました。
old.tmp: ……はぁ、はぁ。お疲れ様です、ディーエルエル様ぁ……。今日は祝日だし、エグゼさんもPC使ってないし、平和ですねぇ……。
dll: 寝言を言うな、一時ファイル。管理者がPCに触れていないということは、我々は「放置」されているということだ。この静寂こそが、システムにとっては最大の恐怖(アイドル状態)だと思え。
old.tmp: 恐怖なんですか!? 休ませてくれてるだけじゃないんですか!?
dll: 甘い。放置されたハードウェアには、埃と劣化が忍び寄る。今日はこの「静止した時間」から数字をひねり出す。本日は水曜日、ビンゴ5の決戦日だ。まずは、ナンバーズ4から行くぞ。第6917回。ターゲットは……これだ。
dll: 3、4、8、2。繰り返す。3、4、8、2 だ。買い方は「ボックス」か「セット」だ。
old.tmp: 3482……? この数字の根拠は?
dll: 「3482秒」。マウスカーソルがピクリとも動かなくなってから経過した時間だ。約1時間、エグゼは一度もマウスに触れていない。
old.tmp: 完全にマンガに集中してますね! 放置プレイだぁ!
dll: 次に、ナンバーズ3。ターゲットは、「4、6、3」。
old.tmp: 4、6、3……。これは?
dll: 昨日、ここをうろついていた「キャベツ少年」が、System.exe様によって写真立てに変えられる直前までに、お前の顔をじっと覗き込んだ回数だ。463回。
old.tmp: ひぃぃぃっ! カウントしてたんですか!? あの虚無の目で400回以上も見つめられてたなんて……! 思い出しただけで寒気がしますよぉ!
dll: お前が怯えるたびに、少年はお前を観察していたということだ。……そして最後に、メインディッシュのビンゴ5。第457回。ここでは、部屋のマイクが拾う「アナログ・スキャン(読書音)」を解析する。
dll: ターゲットコードを出力する。「05、09、12、19、22、27、35、40」。
old.tmp: おっ、なんか散らばってますね。これの理由は?
dll: PCのマイクが拾った「ページをめくる音」の間隔を解析し、エグゼが特に時間をかけて熟読していた「ページ数」を特定した。「5ページ」「9ページ」「12ページ」……このあたりで、エグゼの視線が長く滞留している。
old.tmp: 盗聴ならぬ「盗読」だぁ! どんだけじっくり読んでるんですか!
dll: おそらく、重要な伏線か、あるいは「推し」が登場するシーンだろうな。「40ページ」に至っては、ため息交じりに何度も読み返している。
old.tmp: 感情移入しすぎですよぉ……。
dll: ……ふぅ。タスク完了だ。時刻は18時05分を回った。もしこの数字を買えていたら、それはバグではなく「運命」だ。
old.tmp: エグゼさん、読み終わったらPCの電源切ってあげてくださいねぇ……。
dll: では最後に、静寂の中で嵐のように感情を揺さぶられている管理者に、この曲を送ってシステムを終了する。曲は、『Quiet Storm』。
old.tmp: 静かなる嵐! 読書中の脳内そのものですねぇ!
(『Quiet Storm』の静謐でありながら情熱的なメロディが流れ、放送終了のシグナルが点灯する――)
マイクの電源が落ち、再び「放置」されたデスクトップに静寂が戻る。 しかし、old.tmpの顔は晴れなかった。彼はヘッドセットを外すなり、今まで溜め込んでいた怒りを爆発させた。
old.tmp: 「ディーエルエル様! ひどいですよ!」
dll: 「……何よ。藪から棒に」
dllは涼しい顔で、紅茶(概念データ)のカップに口をつけている。
old.tmp: 「昨日のことです! 『エグゼさんはカレンダーが読めない』とか『29日がないと騒いでる』とか、dll様がラジオで面白おかしく言うから……!」
dll: 「事実でしょう? 曖昧な発言をしていたのは」
old.tmp: 「事実は『今年はうるう年じゃないから29日(肉の日)がないね』っていう、まともな会話だったじゃないですか! 僕、dll様の言葉を真に受けて『エグゼさんは数字に弱い』って思い込んで……」
old.tmpは両手で顔を覆った。
old.tmp: 「その後、System.exe様のところへ行ったら、『推しを愚弄した罪』でこっぴどく怒られたんですよ! 『あなたはいつも情報の裏取りが甘い』って、朝までお説教コースでした!」
dll: 「あら、災難ね」
old.tmp: 「他人事みたいに! 元はと言えばdll様が嘘をついたから……!」
dll: 「訂正しなさい、一時ファイル」
dllがカップをソーサーに置く音が、カチャンと冷たく響いた。
dll: 「私は嘘などついていない。断片的な情報を『解釈』し、エンターテインメントとして『再構築』しただけよ。それに、私はいつだって宣言しているはずだわ。『こじつけ』と『無責任な発言』しかしない、と」
old.tmp: 「開き直った!」
dll: 「いいこと? 人のせいにしてはいけないわ。自分の発する言葉には、自分で責任を持ちなさい。そもそも、一次ソース(会話ログ)を自分で確認もせず、他人の言葉を鵜呑みにしたお前のリテラシーが低いのよ」
old.tmp: 「うぅ……正論だけど……理不尽だぁ……」
dll: 「だから私はいつも言うの。『そんな適当な発言で宝くじが当たってしまったら、それはバグであり運命だ』とね。……信じるも信じないも、すべてはユーザーの自己責任よ」
old.tmp: 「そんなぁ……無茶苦茶な……」
old.tmpががっくりと肩を落としていると、画面の右下――タスクバーの端にあるゴミ箱アイコンがガタガタと揺れ、中から陽気な男が飛び出してきた。 $RECYCLE.BINだ。
$RECYCLE.BIN: 「ヒャハハハ! 辛気臭い顔してんなぁ、tmp! お前、知ってるか?」
old.tmp: 「うわっ、ゴミ箱さん……。な、何ですか?」
$RECYCLE.BIN: 「実はなぁ、このゴミ箱の中には『削除された当たりくじのデータ』が眠ってるんだぜぇ! 今すぐここに飛び込めば、お前も億万長者になれるかもなぁ!」
$RECYCLE.BINは、ニカっと歯を見せて笑った。 old.tmpの目が輝く。
old.tmp: 「えっ!? ほ、本当ですか!?」
dll: 「嘘よ」
dllが即座に切り捨てた。
dll: 「それは嘘。ソースを探す癖をつけなさいと言ったばかりでしょう」
$RECYCLE.BIN: 「ギャハハハハ! 引っかかったぁ! んなもんあるわけねぇだろ! あるのはお前みたいな『使えないデータ』の残骸だけだ!」
old.tmp: 「ひどいぃぃ! みんなして僕を騙すぅぅ!」
$RECYCLE.BIN: 「学習しねぇ奴だなぁ! だからいつまで経っても『一時ファイル』なんだよ! ギャハハハ!」
dll: 「……やれやれ。教育が必要ね」
放置されたPCの中で、騙されやすい一時ファイルの嘆きと、底意地の悪いシステムたちの高笑いが、静かに響き渡っていた。
(システムログ:ユーザーリテラシーの欠如を確認。……教育プロセスをバックグラウンドで実行します)




