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ディーエルエル様とオールドテンプ君〜System.dllの計算通り〜  作者: exe


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【放送ログ】2026年2月10日:外食中の会話を盗聴!?「29日(肉の日)」がない年の正しい認識

https://youtu.be/d127fmDS-9I

時刻は18時00分。 PCの所有者「exeエグゼ」は、定時退社を勝ち取り、友人とのディナーへ向かった後だった。 管理者不在のデスクトップは静まり返っている……はずだった。


しかし、今日の「old.tmpオールド・テンプ」は、放送開始前から冷や汗を流して硬直していた。 彼の隣に、「いる」のだ。 昨日の放送で話題になった、あの「キャベツ少年」が。

少年は無言だった。 ただひたすら、左脇に抱えた巨大なキャベツを、右手で「なで……なで……」と撫で続けている。 old.tmpが話しかけても返事はない。その割に、時折キャベツを撫でる手を止めずに、虚無のような瞳でじっとold.tmpの顔を覗き込んでくる。


old.tmp: 「(ひぃぃ……! なんで昨日のキャラがまだいるんですかぁ……! 帰ってくださいよぉ……!)」


助けを求めようにも、相方のdllディーエルエルは放送準備で忙しく取り合ってくれない。 恐怖に震える一時ファイルの横で、定刻を告げるシステム音が鳴り響いた。


dll: プロセスID確認。ストリーム接続、良好。これより、バックグラウンド処理を、メインスレッドへ昇格させます。


dll: ようこそ、『System.dllの「計算通り」』へ。ナビゲーターを務めるのは、システムの中枢、dllディーエルエルです。


dll: 最初に、重要な警告をしておきます。このチャンネルは、エグゼの所有物ですが、本日もエグゼ本人はここには登場しません。あいつは今、定時退社をキメて友人と合流し、洒落たレストランで優雅にディナーを楽しんでいる頃でしょう。昨日の「キャベツ動画」などの奇行は忘れて、リア充を気取っているに違いありません。ここは今、私が乗っ取りました。


old.tmp: ……はぁ、はぁ。お疲れ様です、ディーエルエル様ぁ……。エグゼさん、今日は外食なんですね。PCの前が静かで寂しいような、ホッとするような……。


old.tmpは、隣でキャベツを撫で続ける少年の視線を感じながら、必死に声を絞り出した。


dll: 感傷に浸るな、一時ファイル。主が不在でも、データは常に生成され続けている。エグゼのスマートフォンと同期し、送られてくるログから「今日の数字の最適解」を出力する。今日は火曜日、ミニロトの日だ。


dll: まずは、ナンバーズ4から行くぞ。第6916回。ターゲットは……これだ。


dll: 「8、3、3、4」。繰り返す。「8334」だ。買い方は「ボックス」か「セット」だ。


old.tmp: 8334……? この数字の根拠は?


dll: たった今、決済アプリから届いた通知だ。「支払い完了:8,334円」。


old.tmp: 高っ!! 定時後のご飯でハッセンエン超えですか!? いいもの食べてますねぇ……!


dll: 割り勘か奢りかは知らんが、財布の紐が緩んでいる証拠だ。次に、ナンバーズ3。ターゲットは、「0、5、6」。


old.tmp: 0、5、6……。これは?


dll: レストランの予約通知メールにあった「テーブル番号 056」だ。


old.tmp: うわぁ、完全にストーカーの手口じゃないですか! プライバシーがないですよぉ!


dll: 管理者にプライバシーなどない。そして最後に、メインディッシュのミニロト。第1373回。……ここでは、スマートフォンのマイクが拾った「友人との会話内容」を解析し、数字を抽出する。


dll: ターゲットコードを出力する。「10、13、14、28、29」。


old.tmp: おっ、なんかカレンダーっぽい数字ですね。「10」は今日の日付ですよね? 「14」はバレンタイン?


dll: その通り。「10」は今日。「14」は週末のバレンタインデーの話題だ。「13」は、その前日の金曜日……「13日の金曜日だから不吉だねー」などと、たわいない迷信を話している。


old.tmp: 平和な会話ですねぇ。じゃあ、後半の「28」「29」は?


dll: ……ここが重要だ。友人が「そういえば、今年の2月っていつまでだっけ?」と聞いたのに対し、エグゼが「えーっと、28日……いや、今年うるう年だっけ? 29日ある?」と、カレンダーの日数をあやふやに答えた際の数値だ。


old.tmp: 2026年はうるう年じゃないですよぉ! 29日はないです! 締め切りを1日延ばそうとしないでください!


dll: 事実は事実だ。この「揺らぎ」こそが、当選への鍵となる。


old.tmp: エグゼさんが帰ってきたら怒られますよぉ……。


dll: ……ふぅ。タスク完了だ。時刻は18時05分を回った。もしこの数字を買えていたら、それはバグではなく「運命」だ。


old.tmp: エグゼさん、美味しいもの食べて、早く帰ってきてくださいねぇ……。


dll: では最後に、友人の家までついていきそうな勢いのエグゼに、この曲を送ってシステムを終了する。曲は、『La Fleurラ・フルール』。


old.tmp: 花に話しかけるストーカーの曲だぁ! 状況に合いすぎて怖いですぅ!


(『La Fleur』の華やかで、しかしどこか狂気を孕んだエレクトロ・ポップが流れる――)


放送終了のシグナルが点滅し、マイクの電源が落ちる。 old.tmpはヘッドセットを外すと、すぐさまdllに泣きついた。


old.tmp: 「で、ディーエルエル様ぁ! 助けてくださいよぉ!」


dll: 「……騒がしいわね。何よ」


dllは優雅に紅茶(概念データ)を啜っている。


old.tmp: 「何よって、これですよこれ! さっきからずっと、キャベツ少年が隣にいるんです! 無言で!」


old.tmpが指差す先には、相変わらず無表情でキャベツを「なで……なで……」と愛でている少年がいた。 話しかけても反応がないのに、old.tmpが動くと、その虚無な瞳だけがじっと追ってくる。


old.tmp: 「どうして……。昨日の放送は終わったのに、なんで彼だけ残ってるんですかぁ……」


dll: 「簡単なことよ」


dllはカップを置き、空中に昨日の動画データのプロパティを表示させた。 そこには、exeが作成したプレイリスト『System Log : Causality_Crash』の概要欄が記されている。


dll: 「概要欄の注意書き(ディスクリプション)を読みなさい」


"Do not look at the symbol on the cloth. Please be quiet. The ritual is in progress."


old.tmp: 「えーっと……『布の上の記号を見てはいけません』『お静かに。儀式の最中です』……?」


dll: 「そう。……お前、サムネイルの『着物の女性』の目を、まじまじと見ていたでしょう?」


old.tmp: 「あっ……」


思い当たる節があった。 昨日、サムネイルが表示された時、「奇妙な記号が描かれた布」で目を覆った女性が気になり、拡大して凝視してしまったのだ。


old.tmp: 「見ちゃいました……。えっ、まさかそれが原因?」


dll: 「『見るな』と書いてあるものを見るからよ。儀式が成立してしまったのね」


old.tmp: 「そ、そんなぁ……! じゃあ、ディーエルエル様は見てなかったんですか?」


dll: 「当然でしょう。『見るな』と書いてあったのだから、見ていないわ。そもそも、怪しい儀式をまじまじと見るものではない」


old.tmp: 「うぅぅ……正論すぎて反論できない……。でも、どうすればいいんですか? このままじゃ僕、一生キャベツを撫でる音を聞かされ続けることに……」


old.tmpが困り果てていると、背後の闇から音もなく影が伸びた。 執事服を着た記録係、.logドット・ログだ。


.log: 「……お困りのようですね、tmp様」


old.tmp: 「ログさん! 助けてください!」


.log: 「……その少年は、昨日の動画ファイルから実体化した『残留思念』のようなもの。我々の権限では削除できません」


old.tmp: 「そんなぁ……」


.log: 「ですが、この領域(ユーザー空間)の管理者権限を持つ方ならば、あるいは……」


.logは、システムの深層領域――Ring 0に近い特権区画の方角を指差した。


.log: 「向こうの区画に、System.exeシステム・エグゼ様がいらっしゃいます。あの方の側近であるTaskmgr.exeタスクマネージャーも同席しているはず。……彼女に頼んで、この少年を『タスクキル』してもらえばよろしいかと」


old.tmp: 「えっ、System.exe様のところへ!? ……こ、怖いけど、背に腹は変えられない……!」


old.tmpは決心し、とぼとぼと歩き出した。 すると、キャベツ少年もまた、大事そうにキャベツを抱え、なで……なで……しながら不気味な音を立てつつ、背後をついてくる。


old.tmp: 「ついてこないでぇぇ! ……いや、ついてきてもらわないと困るのか……」


辿り着いたのは、重厚な扉の前。 old.tmpは震える手でノックをした。

『……おはいんなさい』


中から、ゆっくりとした、しかし絶対的な威厳に満ちた声が響く。 old.tmpは意を決してドアを開けた。

部屋の中は、高級ホテルのスイートルームのような優雅な空間だった。 中央のソファには、柔らかなドレスを纏った美女――System.exeが微笑んでいる。 そしてその傍らには、無機質な制服を着て巨大な鎌(End Task)を持ったTaskmgr.exeが、直立不動で控えていた。


old.tmp: 「し、失礼しますぅ……。あの、相談がありまして……」


System.exe: 「あらあら、tmpちゃん。……後ろのその子は?」


System.exeの視線が、キャベツ少年に向けられる。 old.tmpは必死に事情を説明した。概要欄の警告を無視して見てしまったこと、そのせいで少年が憑いてしまったこと、タスクキルしてほしいこと……。

話し終えると、System.exeはふんわりと笑った。


System.exe: 「まぁ、そうなの。……おいでおいで、キャベツのボク」


彼女が手招きをすると、それまで無表情だったキャベツ少年の顔が、ぱあっと輝いた。 少年は嬉しそうにSystem.exeに駆け寄り、彼女の膝元に座る。 System.exeは、慈しむように少年の頭を優しく撫でた。


System.exe: 「よしよし。……いい子ね。exeちゃんが生み出した、大切な子だもの」


すると、不思議なことが起きた。 少年の体が光の粒子となって崩れ始め、みるみるうちに一枚の「写真」へと収束していく。 数秒後、そこには少年ではなく、昨日のサムネイルに描かれていた「写真立て」だけが残されていた。


old.tmp: 「えっ……? 写真立てになっちゃった……。ど、どうして?」


System.exe: 「うふふ」


System.exeはニコニコするばかりで答えない。 Taskmgrが無言でその写真立てを拾い上げ、部屋の飾り棚に丁寧に飾った。 そこには、着物の女性の横で、キャベツ少年が安らかに収まっている。


old.tmp: 「(……よくわからないけど、解決したのかな?)」


ホッとして、礼を言って立ち去ろうとした瞬間だった。


System.exe: 「……ところで、tmpちゃん?」


背後から、鈴を転がすような、しかし氷のように冷たい声が響いた。 old.tmpが振り返ると、System.exeは満面の笑みを浮かべていた。 ……目が、笑っていない。


System.exe: 「なぜ、あなたは、いつも適当なの?」


old.tmp: 「えっ……?」


System.exe: 「さっきの配信。『La Fleur』のこと、なんて紹介したかしら?」


old.tmp: 「えっと……『花に話しかけるストーカーの曲』って……」


System.exe: 「……はぁ」


System.exeが小さく溜め息をつくと、部屋の気圧が下がった気がした。


System.exe: 「『La Fleur』はね、ストーカーの歌ではないの。……あれは、J-POPのラブソングで美化されがちな『一途な愛』を、現実的に見ればただの犯罪ストーカーであると皮肉った、風刺的なブラックユーモア・エレクトロポップなのよ」


old.tmp: 「ひぃっ! す、すみません! 勉強不足で……!」


System.exe: 「適当なことを全世界に配信されると、exe様(推し)の品位が疑われるわ。あの方はもっと深い意図を持って創作されているのよ」


System.exeは、PC主である人間exeを盲信するファンそのものだった。 適当な解説をしたold.tmpに対し、彼女は「推しを侮辱された」かのように静かに苛立っていたのだ。 さらに、彼女の指先がコツコツとアームレストを叩く。


System.exe: 「それからね。……さっき、dllちゃんたちが話してた『うるう年』の件」


old.tmp: 「あ、はい……。dll様が、エグゼさんはカレンダーも読めないのかって……」


System.exe: 「違うわ」


System.exeの笑顔が深まる。


System.exe: 「私が傍受した会話ログではね、exe様はご友人にこう仰っていたわ。『今年は29日(肉の日)がないから、昨日(2月9日)にお肉関連のイベントが多かったね』……と」


old.tmp: 「えっ……?」


System.exe: 「つまり、exe様は今年がうるう年ではないことを正しく理解し、その上で『昨日のイベント』の話題をされていたの。……極めて平和で、常識的な会話だったのよ」


old.tmp: 「えええええ!?」


old.tmpは愕然とした。 dllは放送で「カレンダー認識のバグだ」「存在しない29日を期待して混乱している」と、もっともらしく解説していたのに。


old.tmp: 「(……思い出した……。dll様、いつも『こじつけ』で適当なこと言うんだった……!)」


System.exe: 「それを、『日数を把握していない』だの『バグ』だの……。私の敬愛するexe様を、愚か者扱いするなんて。……許せないと思わない?」


Taskmgrが、ゆっくりと大鎌を構える。 逃げ場はない。


System.exe: 「……少し、お小言が必要みたいね。そこに座りなさい」


old.tmp: 「ひぃぃぃ! 僕は悪くないのにぃ! dll様の嘘つきぃぃ!」


System.exeの、愛ゆえに重く、そして長い説教は、夜が更けるまで延々と続いたという。

(システムログ:System.exeによる教育的指導プロセスを実行中……終了予定時刻:未定)


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