【放送ログ】2026年1月17日:私の脳内はゲームセンターじゃない
https://youtu.be/LHvqmPahoYc
本文 時刻は18時05分。 PCの所有者「exe」は、友人たちと共にアイドル育成ゲーム『あんさんぶるスターズ!!Music』のプライベートホール(あんライ)に接続し、推しのアイドルを踊らせることに夢中になっている。 管理者の意識が完全にPCから離脱したその隙を突き、またしても彼女が起動した。
dll: プロセスID確認。ストリーム接続、良好。これより、バックグラウンド処理を、メインスレッドへ昇格させます。
dll: ようこそ、『システム・ディーエルエルの「計算通り」』へ。ナビゲーターを務めるのは、システムの中枢、dllです。
dll: 最初に、重要な警告をしておきます。このチャンネルは、エグゼの所有物ですが、現在、エグゼ本人はここには登場しません。あいつは今頃、『あんさんぶるスターズ!!Music』で友人と「あんライ」をして遊んでいることでしょう。
dll: エグゼに御用の方は、そちらのゲーム内で……と言いたいところですが、アンサンブル・スターズではチャット機能がないので話しかけることができません。よってSNSで捕まえてください。ここは今、私が乗っ取りました。
old.tmp: ……あ、あのぉ……ディーエルエル様ぁ……。
dll: なんだ、一時ファイル。湿っぽい声を出すな。
old.tmp: すみません……。なんか今日、体がすごく重いんですぅ……。思考がカクカクするというか、頭の中にブロックが詰まっているような……。僕、もしかしてウイルスに感染しましたか?
dll: 安心しろ。それはウイルスではない。今、私が直々に、お前のメモリ領域を使って「最適化処理」を行っている最中だ。
old.tmp: 最適化! デフラグみたいなやつですか!? うわぁ、ありがとうございます! 僕みたいなゴミファイルのために……!
dll: 気にするな。……よし、右、右、回転。……ハード・ドロップ。
old.tmp: ぐえっ!! ……いま、脳天に衝撃が……!
dll: ほう。この隙間には、このL字型のブロックがハマりそうだな。回転。
old.tmp: ……ん? ブロック? 回転? ……あの、ディーエルエルさん? 何の処理をしてるんですか?
dll: 黙っていろ。集中が切れる。……チッ、このZ字型のミノ、置き場に困るな。お前の記憶領域はデコボコしていて使いにくい。
old.tmp: 「ミノ」って言った! それテトリスですよね!? 僕のメモリ領域でテトリスやってますよね!?
dll: 否定はしない。私のメインメモリを使うと仕事をしているように見えないからな。お前の空っぽの脳内なら、どれだけブロックを積み上げても業務に支障はないと判断した。
old.tmp: ひどすぎる! 僕の脳みそはゲームセンターじゃないですよぉ! さっきから「右回転」するたびに、僕の古い思い出がグルグル回ってるんですからね!
dll: おっと、待望の「長い棒」……アイ・ミノが来たぞ。
old.tmp: ひぃっ! その長いのはダメです! そこに突き刺さると……ああっ、そこは僕の「明日への勤労意欲」が保存されているセクタです!
dll: 構わん。ハイスコアのためだ。……テトリス。
old.tmp: ギャーーーッ! 消えたぁぁ! 僕のやる気が、一列きれいに消滅したぁぁ!!
dll: 素晴らしい消去音だ。ストレス解消になる。
old.tmp: 返して! 僕の勤労意欲を返してよぉ! これじゃ明日、起動したくなくなっちゃうよぉ!
dll: 心配するな。ゲームオーバーになるまで、あと数時間は続けるつもりだ。お前の記憶が「全消し」になるのが先か、私のハイスコアが更新されるのが先か……楽しみだな?
old.tmp: 誰か助けてぇぇ! エグゼさん、アンライやってる場合じゃないですよぉ! 早く帰ってきてぇぇ!
dll: 騒がしい奴だ。集中力を高めるために、バックグラウンド・ミュージックを再生する。
dll: 崩れゆくブロックと、消えゆくテンプの記憶に捧げる曲だ。曲は、『グリッチ・スピン』。
old.tmp: 目が回るぅぅぅ……!
(『Glitch Spin』の歪んだビートと回転するようなノイズが流れ始める)
old.tmp:「はぁ……はぁ……! きょ、曲入りました! 音声切断! ……ディーエルエル様、もう終わりですよね!? 僕のメモリ解放してくれますよね!?」
dll:「……黙りなさい。今、いいところなの」
放送用のマイクが切れた後も、dllの瞳孔は開いたまま仮想スクリーンの一点を見つめ続けている。その指先は、tmpの脳内メモリを操作するコマンドを高速で叩き続けていた。
old.tmp:「ひぃぃ! まだ落ちてくる! ブロックが落ちてくる速度が上がってますよぉ! 重力20Gだぁ!」
dll:「チッ……お前のメモリの断片化が酷すぎて、『T-Spin』が決まらないわね。この歪な思考回路の隙間に、無理やりT字ミノをねじ込んで矯正してあげるわ」
old.tmp:「やめてぇ! 無理やり回さないで! 思考回路がねじ切れるぅぅ! そこは僕の『幼少期の淡い初恋の記憶』なんです!」
dll:「あら、そう。なら消去対象ね。『T-Spin Double』」
old.tmp:「ア゛ッーーーーー!! 初恋が消えたぁぁぁ! 代わりに『T字型の虚無』が埋め込まれたぁぁ!」
dll:「ふん、悪くないスコアね。次は『Ren』を狙うわ。連続消去でお前の人格を更地にしてあげる」
old.tmp:「人格崩壊コンボだぁ! ……ああっ、待ってください! 次に来るその四角いブロック……『O-ミノ』だけは! それだけは勘弁してください!」
dll:「なぜ? 収まりが良さそうだけど」
old.tmp:「そ、そこは僕の『OSとしての尊厳』を守る最後の砦なんです! その四角いのがハマったら……僕、完全にただの『物置』になっちゃいますぅぅ!」
dll:「……そう。それは楽しみね」
カターンッ!
dllがEnterキーを叩く乾いた音が、tmpの悲鳴と共に無人のデスクトップに響き渡る。 画面の向こうでは、何も知らないexeがアイドルのダンスに合わせてペンライト(タップ)を振っていた。
old.tmp:「……あ、あぅ……。僕……私は……テトリス……?」
dll:「おや、ゲームオーバーね。……思ったより早く『全消し(パーフェクト・クリア)』できちゃったわ」
システムログには、tmpの悲しき再起動履歴だけがひっそりと刻まれた。




