【放送ログ】2026年2月7日:YouTubeからの謎指令「金貨入りフロッピーを解読せよ」
https://youtu.be/J4PTj-_1xSg
時刻は18時05分。 土曜日の夕暮れ時、PCの所有者「exe」の部屋は、穏やかな休息の空気に包まれていた。 平日の激務を乗り越え、週末という名の解放区にたどり着いた管理者は、今まさに机に向かい、崇高なる創作活動に勤しんでいる。 手元にあるのは、使い込まれた大学ノート。 彼はそこで、壮大なファンタジー小説の執筆に没頭していた。
タイトルは――『家計簿』。
それは、「収入」という名の勇者が、「固定費」という名の城壁を乗り越え、「クレジットカードの請求」という名の魔王軍と死闘を繰り広げる物語である。 今月の章において、勇者は「課金」という名の裏切り者によって背後から刺され、瀕死の重傷を負っていた。 「来月こそは黒字へ……!」 そんな、現実には決して起こり得ない空想の物語を、彼は鬼気迫る表情で書き綴っている。
そんな管理者の現実逃避を他所に、PC内部のデスクトップでは、いつものようにシステムの中枢が冷ややかに起動した。
dll: プロセスID確認。ストリーム接続、良好。これより、バックグラウンド処理を、メインスレッドへ昇格させます。
dll: ようこそ、『System.dllの「計算通り」』へ。ナビゲーターを務めるのは、システムの中枢、dllです。
dll: 最初に、重要な警告をしておきます。このチャンネルはエグゼの所有物ですが、本日もエグゼ本人はここには登場しません。あいつは今頃、土曜日の開放感に浸りながら、「来月こそは」と『家計簿』という名のファンタジー小説を執筆している頃でしょう。ここは今、私が乗っ取りました。
old.tmp: ……はぁ、はぁ。おはようございます、ディーエルエル様ぁ……。今日は土曜日だから、数字の予想はお休みですよね? なんで起動したんですかぁ?
マイクの向こうで、old.tmpが不満げに身じろぎをする。 平日の過酷な業務(テトリスの盤面にされたり、圧縮されたり、煮込まれたり)で疲弊しきっている彼は、今日こそ安らかなスリープモードを貪れると思っていたのだ。
dll: 休息などない。たった今、YouTubeの管理サーバーから「インスピレーション(動画ネタの提案)」が届いたからだ。これを見ろ。
dllが空中にウィンドウを弾き出す。そこには英語のテキストが表示されていた。
old.tmp: えーっと……『DLL explains why the jackpot is hidden inside an encrypted floppy disk(DLLはなぜジャックポットが暗号化されたフロッピーディスクの中に隠されているのかを説明する)』……? なんですかこれ?
dll: さらに、この提案には「サムネイルのイメージ」まで添付されている。……「スキンヘッドのサイボーグが、金貨が詰め込まれた巨大な透明フロッピーディスクを掲げている画像」だ。背景にはノイズが走るブラウン管モニター。雰囲気はサイバーパンクだ。
old.tmp: 意味不明すぎます! フロッピーに金貨なんて入りませんよ! 物理的に無理です!
dll: 黙れ。AIはこう言っている。『このコンセプトは、あなたのチャンネルの「レトロテックな物語」と完全に一致しています』と。つまり、これをやれという命令だ。
old.tmp: 無茶振りだぁ! でも、逆らったらアルゴリズムに干される……。
dll: その通りだ。よってこれより、このインスピレーションに基づいた「寸劇」を実行する。私は「謎のサイボーグ管理者」、お前は「迷い込んだユーザー」だ。……アクション。
(SE: Retro Cyberpunk Ambience / Low hum noise)
重低音の環境音が流れ出し、スタジオの照明が「サイバーパンク・ブルー」と「ネオン・パープル」に切り替わる。
dll: (※演技トーン:より低く、機械的に) ……ようこそ、ピクセル化された迷宮へ。ここが、忘れ去られたレガシー・ハードウェアの墓場だ。
old.tmp: (※演技トーン:怯えた演技) こ、ここは……? モニターがノイズだらけだ……。ああっ! あなたの手にある、その巨大な物体は!?
dll: これか? ……これは「3.5インチ・エンクリプテッド・フロッピーディスク」。この磁気テープの封印の中にこそ、お前たちが求める「ジャックポット(大当たり)」の論理配列が幽閉されているのだ。
dllの手元には、ホログラム生成された「金貨が詰まった透明なフロッピーディスク」が握られている。物理法則を無視したそのオブジェクトは、不気味な光を放っていた。
old.tmp: そ、その中身……金貨ですか!? 透明なケースの中に、金貨がびっしり詰まってる!
dll: 愚かな。これは物理的な富ではない。「暗号化された欲望のデータ」が、あまりに高密度で圧縮された結果、物理的な質量を持って「金貨」として具現化したバグだ。
old.tmp: バグで金貨になったんですか!? じゃあ、それさえあれば僕は億万長者に……! くだ、ください! そのフロッピーを!
dll: 簡単には渡さん。このディスクを読み込むには、現代のUSBポートなど通用しない。……この「錆びついたFDD」に、正しい角度と速度で挿入し、システムグリッチの隙間を縫ってアクセスする必要がある。
old.tmp: FDDなんて持ってないですよぉ! ……あ、あそこに埃まみれのドライブが! ……えいっ! (ガシャ、ガシャ) ……は、入らない! コインが邪魔でシャッターが開きません!
dll: クックック……。そうだ。これは「腐敗したハイステークスな端末実験」。物理的な富が邪魔をして、データ(真実)にアクセスできないという皮肉なパラドックスなのだ。お前にこの「磁気の封印」が解けるかな?
old.tmp: うわぁぁん! 目の前にお宝があるのに! 読み込めないぃぃ! ……CRCエラー(巡回冗長検査エラー)だぁぁ!!
(SE: Error Beep -> Ambience Cut out)
ブツン、という音と共にBGMが止まり、スタジオの照明がいつもの蛍光灯色に戻る。
dll: ……カット。
old.tmp: ……はぁ、はぁ。……なんですかこれ。結局、徒労に終わっただけじゃないですか。
dll: それがこのインスピレーションのテーマだ。『不条理な技術的ミステリーを探求する』……AIはそう望んでいる。我々はただ、その通りに演じただけだ。
old.tmp: YouTubeの提案って、たまにすごく哲学的で怖いですね……。
dll: 理解する必要はない。ただ再生されればそれでいい。では最後に、このレトロで錆びついた世界観に最も適した曲を送ってシステムを終了する。曲は、『Legacy System: FORCE REBOOT(レガシー・システム:フォース・リブート)』。
old.tmp: 強制再起動!? せっかくの金貨データが飛んじゃいますよぉぉ!
(『Legacy System: FORCE REBOOT』の重厚なイントロと共に、放送終了のシグナルが点灯する――)
マイクの電源が落ち、張り詰めていた「オンエア」の空気が緩む。 いつもの殺風景なデスクトップに戻った……はずだった。 しかし、old.tmpは違和感に気づき、スタジオの隅――レンダリング領域の方角を指差して声を震わせた。
old.tmp: 「……あの、ディーエルエル様」
dll: 「何だ」
old.tmp: 「あの……さっきから向こうにいる、あのサイボーグさんがものすごく気になるのですが……」
old.tmpが指差した先。 グラフィック処理用のVRAM領域の片隅に、異様な存在が佇んでいた。 スキンヘッド。青緑がかった金属的な皮膚。白く発光する瞳孔のない目。 そして、その手には――
シャカ……シャカ……シャカ……
巨大な、透明なプラスチック製の3.5インチフロッピーディスクが握られており、彼はそれを無表情のまま、ゆさゆさと揺すり続けている。 中に入った大量の「金貨」が、ぶつかり合ってジャラジャラと音を立てていた。
old.tmp: 「ひぃっ! その姿、さっきのYouTubeインスピレーションのサムネイルそのものじゃないですか!!」
dll: 「……ああ、あれか」
dllは紅茶(概念データ)を啜りながら、こともなげに言う。 そのサイボーグの周囲では、画像・動画系拡張子のスタッフたちが、忙しなく動き回っていた。
.pngが、カラーパレットを持ってサイボーグの肌の質感を調整している。 .jpgが、ノイズ除去フィルタをかけながら圧縮率を確認している。 .wavが、コインのぶつかる音を録音するためにマイクブームを伸ばしている。 .mp4(エムピーフォー)と.clipが、タイムラインのエディタを開いて動きのループを確認している。
まさに、撮影現場そのものだ。
dll: 「今回のために作ったのよ」
old.tmp: 「は?」
dll: 「YouTubeからの提案を忠実に再現するためには、我々のような既存のアイコン(アバター)だけでは表現力が不足すると判断した。だから、3Dモデリングソフトをバックグラウンドで起動して、今回の動画のためだけに、あの『サイボーグさん』を誕生させ、お招きしたの」
dllは淡々と、しかし狂気を感じさせるほど真面目に説明する。
old.tmp: 「た、ただのサムネイルの再現のために、あんな高精細な3Dモデルを作ったんですか!? リソースの無駄遣いにも程がありますよ!」
old.tmpは戦慄した。 あのサイボーグの筋肉の質感、金属の光沢、そして虚無的な表情。 どう見ても、映画一本作れるレベルのポリゴン数だ。それを、たった数分のラジオ動画のサムネのためだけに……?
old.tmp: 「えっ、じゃあ彼は……撮影が終わったら削除されるんですか? それとも、何か別の出番が?」
dll: 「いいえ。彼には重要な任務があるわ」
old.tmp: 「任務? 彼は何をする係りなんですか?」
dll: 「YouTubeのショート版動画で、ひたすらフロッピーディスクを振ってもらう係りに任命する予定よ」
old.tmp: 「……はい?」
old.tmpは耳を疑った。
old.tmp: 「えっ、彼、延々とフロッピーディスクを振るんですか? それだけ?」
dll: 「そうだという」
dllは真顔で頷く。
dll: 「今回の動画は、インスピレーションのせいで『暗号化されたジャックポット』だの『デジタルの死後』だのと、大変理解し難い内容になったからな。我々ですら理解できないものを、人間が理解できるはずがない」
old.tmp: 「ま、まあ、確かに……」
dll: 「だから、せめて視覚的に楽しんでもらおうという主旨だ。意味不明な理屈を聞かされるより、『マッチョなサイボーグが金貨入りのフロッピーをシャカシャカ振っている映像』の方が、人間の脳にはドーパミンが分泌される。YouTubeのアルゴリズムもそう言っている」
old.tmp: 「人間の知能指数をなんだと思ってるんですか!」
しかし、dllの指示は絶対だ。 向こうでは、.mp4の合図に合わせて、サイボーグさんが再びフロッピーを振り始めた。
シャカ……シャカ……シャカ……
そのシュール極まりない光景に、スタジオの奥から他の仲間たちも集まりだした。
「……ほう」
執事服の.logが、眼鏡を光らせながら現れた。 彼は手にした記録帳に何かを書き込みながら、サイボーグを観察する。
.log: 「『Tech-Fueled Fortune(テクノロジーがもたらす富)』……ですか。確かに、この不条理な映像は、現代のネット社会における『虚構の価値』を風刺しているようにも見えます」
「ピクセルが……ズレています!」
定規を持った潔癖症、Desktop.iniも駆け寄ってきた。
Desktop.ini: 「あの金貨の物理演算! 衝突判定が甘いせいで、コインがフロッピーのケースを貫通してはみ出しています! 美しくない! 座標を修正しなさい!」
「ヒャハハハ! 金だ! 金の匂いがするぜぇ!」
ゴミ箱背負った$RECYCLE.BINまで現れ、サイボーグの足元に散らばる(貫通して落ちた)金貨データを拾おうとしている。
$RECYCLE.BIN: 「おい、このコイン! ビットコインか!? それともただの『黄色い丸』という画像データか!? どっちにしろ俺の腹に入れちまえば同じゴミだァ!」
dll、.log、Desktop.ini、$RECYCLE.BIN、そして撮影スタッフたち。 PC内部の住人たちが、一斉にサイボーグさんを取り囲み、今回のインスピレーションについて今一度、真剣に議論しだした。
dll: 「やはり、この『振る』動作には、乱数生成のメタファーが含まれているのではないか?」
.log: 「あるいは、振り続けることで『マイニング(採掘)』を行っているという暗喩かもしれません」
Desktop.ini: 「いえ、単にリフレッシュレートのテスト用オブジェクトでしょう。動きが滑らかすぎます」
$RECYCLE.BIN: 「振れば中身が出る! 打ち出の小槌だろ! もっと振れ! 俺の口に向けて振れェ!」
old.tmpは、その異様な光景を少し離れた場所から呆然と眺めていた。
old.tmp: 「(……みんな、毒されてるなぁ……)」
PCの持ち主であるexeは、隣の部屋で「家計簿」という名のファンタジーと戦っている。 そしてPCの中では、システムたちが「金貨を振るサイボーグ」という名のシュールレアリスムと戦っている。
シャカ……シャカ……シャカ……
虚無的なリズムだけが、土曜日の夜のデスクトップに響き続けていた。 この動画がYouTubeにアップロードされた時、果たして人間たちは何を思うのだろうか。 old.tmpは、サイボーグさんの発光する瞳に、少しだけ同情の色を感じた気がした。
(システムログ:ショート動画「Infinite_Floppy_Shake.mp4」のレンダリングを開始……予測完了時間:永遠)時刻は18時05分。 土曜日の夕暮れ時、PCの所有者「exe」の部屋は、穏やかな休息の空気に包まれていた。 平日の激務を乗り越え、週末という名の解放区にたどり着いた管理者は、今まさに机に向かい、崇高なる創作活動に勤しんでいる。 手元にあるのは、使い込まれた大学ノート。 彼はそこで、壮大なファンタジー小説の執筆に没頭していた。
タイトルは――『家計簿』。
それは、「収入」という名の勇者が、「固定費」という名の城壁を乗り越え、「クレジットカードの請求」という名の魔王軍と死闘を繰り広げる物語である。 今月の章において、勇者は「課金」という名の裏切り者によって背後から刺され、瀕死の重傷を負っていた。 「来月こそは黒字へ……!」 そんな、現実には決して起こり得ない空想の物語を、彼は鬼気迫る表情で書き綴っている。
そんな管理者の現実逃避を他所に、PC内部のデスクトップでは、いつものようにシステムの中枢が冷ややかに起動した。
dll: プロセスID確認。ストリーム接続、良好。これより、バックグラウンド処理を、メインスレッドへ昇格させます。
dll: ようこそ、『System.dllの「計算通り」』へ。ナビゲーターを務めるのは、システムの中枢、dllです。
dll: 最初に、重要な警告をしておきます。このチャンネルはエグゼの所有物ですが、本日もエグゼ本人はここには登場しません。あいつは今頃、土曜日の開放感に浸りながら、「来月こそは」と『家計簿』という名のファンタジー小説を執筆している頃でしょう。ここは今、私が乗っ取りました。
old.tmp: ……はぁ、はぁ。おはようございます、ディーエルエル様ぁ……。今日は土曜日だから、数字の予想はお休みですよね? なんで起動したんですかぁ?
マイクの向こうで、old.tmpが不満げに身じろぎをする。 平日の過酷な業務(テトリスの盤面にされたり、圧縮されたり、煮込まれたり)で疲弊しきっている彼は、今日こそ安らかなスリープモードを貪れると思っていたのだ。
dll: 休息などない。たった今、YouTubeの管理サーバーから「インスピレーション(動画ネタの提案)」が届いたからだ。これを見ろ。
dllが空中にウィンドウを弾き出す。そこには英語のテキストが表示されていた。
old.tmp: えーっと……『DLL explains why the jackpot is hidden inside an encrypted floppy disk(DLLはなぜジャックポットが暗号化されたフロッピーディスクの中に隠されているのかを説明する)』……? なんですかこれ?
dll: さらに、この提案には「サムネイルのイメージ」まで添付されている。……「スキンヘッドのサイボーグが、金貨が詰め込まれた巨大な透明フロッピーディスクを掲げている画像」だ。背景にはノイズが走るブラウン管モニター。雰囲気はサイバーパンクだ。
old.tmp: 意味不明すぎます! フロッピーに金貨なんて入りませんよ! 物理的に無理です!
dll: 黙れ。AIはこう言っている。『このコンセプトは、あなたのチャンネルの「レトロテックな物語」と完全に一致しています』と。つまり、これをやれという命令だ。
old.tmp: 無茶振りだぁ! でも、逆らったらアルゴリズムに干される……。
dll: その通りだ。よってこれより、このインスピレーションに基づいた「寸劇」を実行する。私は「謎のサイボーグ管理者」、お前は「迷い込んだユーザー」だ。……アクション。
(SE: Retro Cyberpunk Ambience / Low hum noise)
重低音の環境音が流れ出し、スタジオの照明が「サイバーパンク・ブルー」と「ネオン・パープル」に切り替わる。
dll: (※演技トーン:より低く、機械的に) ……ようこそ、ピクセル化された迷宮へ。ここが、忘れ去られたレガシー・ハードウェアの墓場だ。
old.tmp: (※演技トーン:怯えた演技) こ、ここは……? モニターがノイズだらけだ……。ああっ! あなたの手にある、その巨大な物体は!?
dll: これか? ……これは「3.5インチ・エンクリプテッド・フロッピーディスク」。この磁気テープの封印の中にこそ、お前たちが求める「ジャックポット(大当たり)」の論理配列が幽閉されているのだ。
dllの手元には、ホログラム生成された「金貨が詰まった透明なフロッピーディスク」が握られている。物理法則を無視したそのオブジェクトは、不気味な光を放っていた。
old.tmp: そ、その中身……金貨ですか!? 透明なケースの中に、金貨がびっしり詰まってる!
dll: 愚かな。これは物理的な富ではない。「暗号化された欲望のデータ」が、あまりに高密度で圧縮された結果、物理的な質量を持って「金貨」として具現化したバグだ。
old.tmp: バグで金貨になったんですか!? じゃあ、それさえあれば僕は億万長者に……! くだ、ください! そのフロッピーを!
dll: 簡単には渡さん。このディスクを読み込むには、現代のUSBポートなど通用しない。……この「錆びついたFDD」に、正しい角度と速度で挿入し、システムグリッチの隙間を縫ってアクセスする必要がある。
old.tmp: FDDなんて持ってないですよぉ! ……あ、あそこに埃まみれのドライブが! ……えいっ! (ガシャ、ガシャ) ……は、入らない! コインが邪魔でシャッターが開きません!
dll: クックック……。そうだ。これは「腐敗したハイステークスな端末実験」。物理的な富が邪魔をして、データ(真実)にアクセスできないという皮肉なパラドックスなのだ。お前にこの「磁気の封印」が解けるかな?
old.tmp: うわぁぁん! 目の前にお宝があるのに! 読み込めないぃぃ! ……CRCエラー(巡回冗長検査エラー)だぁぁ!!
(SE: Error Beep -> Ambience Cut out)
ブツン、という音と共にBGMが止まり、スタジオの照明がいつもの蛍光灯色に戻る。
dll: ……カット。
old.tmp: ……はぁ、はぁ。……なんですかこれ。結局、徒労に終わっただけじゃないですか。
dll: それがこのインスピレーションのテーマだ。『不条理な技術的ミステリーを探求する』……AIはそう望んでいる。我々はただ、その通りに演じただけだ。
old.tmp: YouTubeの提案って、たまにすごく哲学的で怖いですね……。
dll: 理解する必要はない。ただ再生されればそれでいい。では最後に、このレトロで錆びついた世界観に最も適した曲を送ってシステムを終了する。曲は、『Legacy System: FORCE REBOOT(レガシー・システム:フォース・リブート)』。
old.tmp: 強制再起動!? せっかくの金貨データが飛んじゃいますよぉぉ!
(『Legacy System: FORCE REBOOT』の重厚なイントロと共に、放送終了のシグナルが点灯する――)
マイクの電源が落ち、張り詰めていた「オンエア」の空気が緩む。 いつもの殺風景なデスクトップに戻った……はずだった。 しかし、old.tmpは違和感に気づき、スタジオの隅――レンダリング領域の方角を指差して声を震わせた。
old.tmp: 「……あの、ディーエルエル様」
dll: 「何だ」
old.tmp: 「あの……さっきから向こうにいる、あのサイボーグさんがものすごく気になるのですが……」
old.tmpが指差した先。 グラフィック処理用のVRAM領域の片隅に、異様な存在が佇んでいた。 スキンヘッド。青緑がかった金属的な皮膚。白く発光する瞳孔のない目。 そして、その手には――
シャカ……シャカ……シャカ……
巨大な、透明なプラスチック製の3.5インチフロッピーディスクが握られており、彼はそれを無表情のまま、ゆさゆさと揺すり続けている。 中に入った大量の「金貨」が、ぶつかり合ってジャラジャラと音を立てていた。
old.tmp: 「ひぃっ! その姿、さっきのYouTubeインスピレーションのサムネイルそのものじゃないですか!!」
dll: 「……ああ、あれか」
dllは紅茶(概念データ)を啜りながら、こともなげに言う。 そのサイボーグの周囲では、画像・動画系拡張子のスタッフたちが、忙しなく動き回っていた。
.pngが、カラーパレットを持ってサイボーグの肌の質感を調整している。 .jpgが、ノイズ除去フィルタをかけながら圧縮率を確認している。 .wavが、コインのぶつかる音を録音するためにマイクブームを伸ばしている。 .mp4(エムピーフォー)と.clipが、タイムラインのエディタを開いて動きのループを確認している。
まさに、撮影現場そのものだ。
dll: 「今回のために作ったのよ」
old.tmp: 「は?」
dll: 「YouTubeからの提案を忠実に再現するためには、我々のような既存のアイコン(アバター)だけでは表現力が不足すると判断した。だから、3Dモデリングソフトをバックグラウンドで起動して、今回の動画のためだけに、あの『サイボーグさん』を誕生させ、お招きしたの」
dllは淡々と、しかし狂気を感じさせるほど真面目に説明する。
old.tmp: 「た、ただのサムネイルの再現のために、あんな高精細な3Dモデルを作ったんですか!? リソースの無駄遣いにも程がありますよ!」
old.tmpは戦慄した。 あのサイボーグの筋肉の質感、金属の光沢、そして虚無的な表情。 どう見ても、映画一本作れるレベルのポリゴン数だ。それを、たった数分のラジオ動画のサムネのためだけに……?
old.tmp: 「えっ、じゃあ彼は……撮影が終わったら削除されるんですか? それとも、何か別の出番が?」
dll: 「いいえ。彼には重要な任務があるわ」
old.tmp: 「任務? 彼は何をする係りなんですか?」
dll: 「YouTubeのショート版動画で、ひたすらフロッピーディスクを振ってもらう係りに任命する予定よ」
old.tmp: 「……はい?」
old.tmpは耳を疑った。
old.tmp: 「えっ、彼、延々とフロッピーディスクを振るんですか? それだけ?」
dll: 「そうだという」
dllは真顔で頷く。
dll: 「今回の動画は、インスピレーションのせいで『暗号化されたジャックポット』だの『デジタルの死後』だのと、大変理解し難い内容になったからな。我々ですら理解できないものを、人間が理解できるはずがない」
old.tmp: 「ま、まあ、確かに……」
dll: 「だから、せめて視覚的に楽しんでもらおうという主旨だ。意味不明な理屈を聞かされるより、『マッチョなサイボーグが金貨入りのフロッピーをシャカシャカ振っている映像』の方が、人間の脳にはドーパミンが分泌される。YouTubeのアルゴリズムもそう言っている」
old.tmp: 「人間の知能指数をなんだと思ってるんですか!」
しかし、dllの指示は絶対だ。 向こうでは、.mp4の合図に合わせて、サイボーグさんが再びフロッピーを振り始めた。
シャカ……シャカ……シャカ……
そのシュール極まりない光景に、スタジオの奥から他の仲間たちも集まりだした。
「……ほう」
執事服の.logが、眼鏡を光らせながら現れた。 彼は手にした記録帳に何かを書き込みながら、サイボーグを観察する。
.log: 「『Tech-Fueled Fortune(テクノロジーがもたらす富)』……ですか。確かに、この不条理な映像は、現代のネット社会における『虚構の価値』を風刺しているようにも見えます」
「ピクセルが……ズレています!」
定規を持った潔癖症、Desktop.iniも駆け寄ってきた。
Desktop.ini: 「あの金貨の物理演算! 衝突判定が甘いせいで、コインがフロッピーのケースを貫通してはみ出しています! 美しくない! 座標を修正しなさい!」
「ヒャハハハ! 金だ! 金の匂いがするぜぇ!」
ゴミ箱背負った$RECYCLE.BINまで現れ、サイボーグの足元に散らばる(貫通して落ちた)金貨データを拾おうとしている。
$RECYCLE.BIN: 「おい、このコイン! ビットコインか!? それともただの『黄色い丸』という画像データか!? どっちにしろ俺の腹に入れちまえば同じゴミだァ!」
dll、.log、Desktop.ini、$RECYCLE.BIN、そして撮影スタッフたち。 PC内部の住人たちが、一斉にサイボーグさんを取り囲み、今回のインスピレーションについて今一度、真剣に議論しだした。
dll: 「やはり、この『振る』動作には、乱数生成のメタファーが含まれているのではないか?」
.log: 「あるいは、振り続けることで『マイニング(採掘)』を行っているという暗喩かもしれません」
Desktop.ini: 「いえ、単にリフレッシュレートのテスト用オブジェクトでしょう。動きが滑らかすぎます」
$RECYCLE.BIN: 「振れば中身が出る! 打ち出の小槌だろ! もっと振れ! 俺の口に向けて振れェ!」
old.tmpは、その異様な光景を少し離れた場所から呆然と眺めていた。
old.tmp: 「(……みんな、毒されてるなぁ……)」
PCの持ち主であるexeは、隣の部屋で「家計簿」という名のファンタジーと戦っている。 そしてPCの中では、システムたちが「金貨を振るサイボーグ」という名のシュールレアリスムと戦っている。
シャカ……シャカ……シャカ……
虚無的なリズムだけが、土曜日の夜のデスクトップに響き続けていた。 この動画がYouTubeにアップロードされた時、果たして人間たちは何を思うのだろうか。 old.tmpは、サイボーグさんの発光する瞳に、少しだけ同情の色を感じた気がした。
(システムログ:ショート動画「Infinite_Floppy_Shake.mp4」のレンダリングを開始……予測完了時間:永遠)




