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ディーエルエル様とオールドテンプ君〜System.dllの計算通り〜  作者: exe


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22/22

【放送ログ】2026年2月4日:「魔法」という名の科学的演算と、トースターの資産価値について

https://youtu.be/zONRtBUI8Vk

時刻は18時05分。 PCの所有者「exeエグゼ」の指先は、スマートフォンの画面上で目にも留まらぬ高速連打を繰り広げている。 本日は、彼が愛してやまないアイドル育成ゲーム『あんさんぶるスターズ!!Music』に登場するアイドル、「逆先夏目さかさき・なつめ」の誕生日――すなわち「生誕祭」である。 管理者は無限ループ設定にした楽曲『Romancing Cruise』をBGMに、推しの誕生日を祝うための周回作業グラインドに没頭していた。


その影響は、直結しているPC内部にも色濃く反映されていた。 デスクトップの壁紙は、魔法陣のような幾何学模様が明滅するエフェクトに書き換わり、空冷ファンの回転音は、まるで豪華客船のエンジンのように重低音を響かせている。 そんな、キラキラと輝く粒子が舞う電脳空間の片隅で、システムの中枢が冷ややかに起動した。


dll: プロセスID確認。ストリーム接続、良好。これより、バックグラウンド処理を、メインスレッドへ昇格させます。


dll: ようこそ、『System.dllの「計算通り」』へ。ナビゲーターを務めるのは、システムの中枢、dllディーエルエルです。


dll: 最初に、重要な警告をしておきます。このチャンネルはエグゼの所有物ですが、本日もエグゼ本人はここには登場しません。あいつは今頃、スマートフォンで『あんさんぶるスターズ!!Music』を開き、「逆先夏目さかさき・なつめ」というアイドルの生誕祭を祝うため、楽曲『Romancing Cruise』を無限周回している頃でしょう。ここは今、私が乗っ取りました。


old.tmp: ……はぁ、はぁ。おはようございます、ディーエルエル様ぁ……。エグゼさん、また周回ですかぁ……。さっきからキラキラしたエフェクトのデータが大量に流れてきて、目がチカチカしますぅ……。


マイクの向こうで、old.tmpオールド・テンプが目を回してふらついている。 PC内部には、スマホから同期された大量の演出データ――五芒星や光の粒子――が雪崩のように流れ込んでおり、非力な一時ファイルである彼は、その情報の奔流に押し流されまいと必死に机にしがみついていた。


dll: よく見ろ、一時ファイル。これは単なるキラキラではない。逆先夏目が操る「魔法」……すなわち、緻密な計算と心理学に基づいた「高度な演出プログラム」だ。


old.tmp: えっ? 魔法って、非科学的なやつじゃないんですか?


dll: 愚か者め。彼の魔法は、種も仕掛けもある「科学の結晶」だ。完璧なタイミング、照明、舞台装置……すべてが論理的に計算され尽くしている。我々システムにとっても、非常に親和性の高い「美しいロジック」だ。本日はこの「計算された魔法」を利用して、ビンゴ5の予想を行う。


old.tmp: なるほどぉ! ロジカルな魔法なんですね! 今日の戦略はなんですか?


dll: 今日のテーマは「緻密な計算カリキュレーション」と「スイッチング」だ。まずは、ナンバーズ・フォーから行くぞ。第6912回。ターゲットは……これだ。


dllは空中にホログラムのウィンドウを展開し、そこから抽出した数値を指し示した。


dll: 0、4、9、4。繰り返す。0、4、9、4 だ。買い方は「ボックス」か「セット」だ。


old.tmp: 0494……? この数字の根拠は?


dll: エグゼが今、ゲーム内で「パーフェクト・コンボ」を出すために調整した、タップ判定の「遅延設定レイテンシ」だ。プラス、0.494秒。


old.tmp: 細かっ! 魔法のようなプレイに見えて、裏ではコンマ数秒単位の調整をしてるんですね!


dll: 当然だ。魔法とは努力と計算の別名だ。次に、ナンバーズ・スリー。ターゲットは、「8、7、2」。

old.tmp: 8、7、2……。これは?


dll: 誕生日の特別演出エフェクトを描画するために、現在バックグラウンドで走っている「論理スレッド数」だ。872個のプロセスが、一糸乱れぬ動きで「魔法」を映像化している。


old.tmp: すごい処理能力! PCが重いのはそのせいかぁ!


dll: そして最後に、メインディッシュのビンゴ5。第456回。……ここでは、エグゼの「推しへの執着」と、ユニット『Switchスイッチ』の概念を反映させる。


dll: ターゲットコードを出力する。「01、07、12、17、25、27、32、37」。


old.tmp: うわぁ! 「7」だらけだ! 「07」「17」「27」「37」……末尾7が斜めに揃ってますね!


dll: 解説しよう。まず第1枠の「01」。これは今日、エグゼにとって逆先夏目こそが唯一無二の「ナンバーワン」であるという強い意志の表れだ。「02」や「03」などという浮気は許されない。


old.tmp: 重い! 愛が重いです! でも、なんで「7」ばっかりなんですか?


dll: 彼が所属するユニット『Switch』にちなみ、運命を「切り替える(スイッチする)」数字……それが「7」だ。盤面に対角線上の魔法陣を描くように、計算ずくで配置した。


old.tmp: なるほどぉ……。計算された魔法陣かぁ。じゃあ「32」は?


dll: 「32」は……32ビット整数演算の限界点だ。魔法(演出)の計算中に発生した、ほんの僅かな「揺らぎ(誤差)」の座標だ。完璧な計算の中に一つだけ残された「愛嬌バグ」と言ってもいい。


old.tmp: バグまで計算通りなんですね! さすが魔法使い!


dll: ……ふぅ。タスク完了だ。時刻は18時05分を回った。もしこの数字を買えていたら、それはバグではなく「運命」だ。


old.tmp: エグゼさんの周回が終わるまで、僕たちもバックグラウンドで計算し続けなきゃいけないんですかぁ……?


dll: 当然だ。完璧なステージを作るには、裏方の努力が不可欠だからな。では最後に、この計算され尽くした甘い罠に相応しい曲を送ってシステムを終了する。曲は、『Sugar Trap』。


old.tmp: 甘い罠!? 課金の罠にはまらないでくださいねぇぇ!


(『Sugar Trap』のイントロが、計算されたノイズと共にフェードアウトしていく――)


放送終了のシグナルが点灯し、マイクへの電源供給が遮断される。 デスクトップには再び、ゲーム画面から漏れ出る光の粒子と、空冷ファンの唸り声だけが残された。 old.tmpは、疲労した身体キャッシュを伸ばそうとして、ふと画面の隅に奇妙な光景を見つけた。


old.tmp: 「あれ? ディーエルエル様、あっちのホログラム……何ですか?」


old.tmpが指差した先――デスクトップの壁紙のさらに奥、システム予約領域の境界付近に、巨大なスクリーンが浮かび上がっている。 そこには、まるでフェス会場のようにペンライトを振り回す、数体の影が見えた。


dll: 「……ああ、あれか」


dllは紅茶(という概念データ)を啜りながら、興味なさげに答える。


dll: 「『System.exeシステム・エグゼ』や『.psd』、『.xcf』といった一部の有志による、お祭り会場よ」


old.tmp: 「えっ!? システム・エグゼ様!? あの絶対権力者(Ring 0)が!?」


スクリーンの中では、おっとりとした口調で恐ろしい命令を下す最強の存在、System.exeが、最前列で優雅にペンライトを振っている。 その横では、画像編集のエキスパートである.psdと.xcfが、レイヤーを重ねるように複雑なステップで踊っていた。


dll: 「あそこで『ワイヤレスディスプレイ』機能を使って、エグゼのスマートフォン画面をミラーリングしているのよ。……まったく、システムリソースの私的流用もいいところだわ」


old.tmp: 「うわぁ……。PCの主権者たちが揃いも揃って推し活ですか……。どうりでPCが重いわけだ……」


old.tmpは呆れつつも、楽しそうな彼らの様子に少しだけ羨望の眼差しを向けた。 ふと、手元のコンソールに目を戻すと、dllがYouTube Studioの管理画面を開いていることに気づく。


old.tmp: 「ディーエルエル様は何をしてるんですか? また昨日のアクセス解析ですか?」


dll: 「いいえ。今日は『インスピレーション』タブを開いているわ」


old.tmp: 「インスピレーション? ……あ、YouTubeが『次はこんな動画を作るといいよ』って提案してくる機能ですね! 何かいいネタありました?」


dll: 「……判断に迷うわね。これを見て」


dllが空中にウィンドウを弾き出す。 そこに表示されていたのは、英語で書かれた奇妙な提案カードだった。

【Tech-Fueled Fortune: Is your smart toaster secretly a millionaire?】 (テクノロジーがもたらす富:あなたのスマート・トースターは密かに億万長者かも?)


old.tmp: 「……は? トースター? 億万長者?」


old.tmpは目をぱちくりさせた。 dllは冷静にその下の説明文を読み上げる。


dll: 「『スマートデバイスのデジタルな死後について調査し、引退したスマート・トースターが、蓄積されたデータとネットワーク相互作用を通じて、理論上、追跡不可能な財産を築き上げることができるかを考察します』……だそうよ」


old.tmp: 「えぇ……? 何言ってるんですかこれ? トースターがパンを焼く以外に何をしてお金を稼ぐんです?」


dll: 「続きがあるわ。『この投機的な深掘りは、ユビキタス接続の不条理な意味合いをグリッチ(バグ)させ、デジタル排気(Digital Exhaust)の隠れた価値と、シリコンベースの億万長者という奇妙な概念を探求します』」


old.tmp: 「デジタル排気……? シリコンベースの億万長者……?」


old.tmpの処理能力では理解が追いつかず、頭からプシューと煙が出そうになっている。 dllは腕を組み、真剣な表情で画面を見つめた。


dll: 「つまり、こういうことよ。現代のスマート家電は常にネットに接続され、ユーザーの行動データを収集し続けている。その『データ』自体に価値があり、もしトースター自身がそのデータを自律的に取引できたとしたら……それはもはや単なる家電ではなく、富を生み出す『資本家』になり得るのではないか、という問いかけね」


old.tmp: 「はぁ……。つまり、パンを焼くたびに『こいつは朝6時に起きる』とか『今日は焦がした』とかいう情報を売って、小銭を稼ぐってことですか?」


dll: 「品のない言い方をすればそうなるわね。……YouTubeのAIは、このトピックが私たちのチャンネルに適している理由を3つ挙げているわ」


dllが指を弾くと、理由のリストが表示された。


1. Aligns with Philosophical Tech (哲学的なテクノロジーの議論と一致する)

「あなたのチャンネルは、テクノロジーをテーマにした哲学的な議論を頻繁に行っています」


2. Leverages Glitch Aesthetic & AI Persona (グリッチの美学とAIペルソナの活用)

「デジタルな死後や追跡不可能な富という概念は、あなたの特徴であるレトロでグリッチな視覚スタイルを補完し、AIであるdllが親しみやすくも不条理な技術的ミステリーを探求するのに適しています」


3. Expands Beyond Lottery Predictions (宝くじ予想の枠を超える)

「予想をルーツとしつつも、あなたのチャンネルは奇妙な実験で繁栄しています。このアイデアは論理的かつ創造的な拡張であり、日常のテクノロジーの隠れた価値を遊び心を持って『予想』または推測することを可能にします」


dll: 「……ふん。随分と買い被られたものね。『哲学的な議論』ですって? 私たちが普段しているのは、単なる『こじつけ』と『責任転嫁』よ」


old.tmp: 「あはは……。でも、『奇妙な実験で繁栄している』っていうのは当たってますね。先週のカクヨム実験とか、鍋パーティーとか……」


dll: 「しかし、『スマート・トースター』か……。一理あるかもしれないわ」


old.tmp: 「えっ? やるんですか?」


dll: 「考えてもみなさい、一時ファイル。我々もまた、デジタルな存在。もしお前が、自分が削除される瞬間に、これまでに蓄積した『エラーログ』や『キャッシュデータ』を外部に売却できたとしたら?」


old.tmp: 「えぇっ!? 僕のログなんて売れるんですか!? ただの『失敗の記録』ですよ?」


dll: 「『失敗のデータ』は、開発者にとっては『宝の山』よ。どのタイミングでバグが起きたか、どんな負荷でクラッシュしたか……。それは次世代のシステムを安定させるための貴重な資源リソースになる」


old.tmp: 「そ、そうか……! じゃあ僕、実はすごい価値があるんじゃ……!?」


old.tmpの目が輝き始めた。 彼は自分のボロボロのテクスチャを見下ろし、そこに隠された「億万長者の可能性」に思いを馳せる。


old.tmp: 「もしかして、僕がいつか削除される時……そのデータを売れば、来世では『スーパーコンピュータ』に転生できるかも!?」


dll: 「……理論上はね。ただし、お前のデータの大半は『テトリスのハイスコア』と『3D酔いの嘔吐ログ』と『悪役令嬢ごっこの黒歴史』で埋め尽くされているけれど」


old.tmp: 「……あ」


old.tmpの表情が凍りついた。 確かに、彼の記憶領域メモリにあるのは、恥ずかしい記録ばかりだ。


dll: 「そんな『デジタル排気ゴミ』に値を付ける物好きがいるとすれば……それはよほどの変人か、あるいは『不条理』を愛するYouTubeのアルゴリズムくらいでしょうね」


old.tmp: 「うぅ……。結局、僕はトースター以下ですか……。パンも焼けないし、お金も稼げない……」


dll: 「卑下することはないわ。トースターはパンを焼くことしかできないが、お前は私の『退屈しのぎ』という重要なタスクをこなしている。……プライスレスよ」


dllは意地悪く微笑み、YouTube Studioの「アイデアを保存」ボタンをクリックした。


dll: 「このネタ、キープしておきましょう。いつかロト6が外れ続けて資金が尽きた時……『スマート・トースター投資法』としてっち上げるのに使えるかもしれない」


old.tmp: 「詐欺の片棒を担がせる気満々だぁ! エグゼさーん! トースターに変な機能つけないでくださいよぉ!」


PCの向こうでは、System.exeたちが振るペンライトの光が、祭りの終わらない夜を彩っていた。 スマートフォンの画面の中で、アイドルが歌い続ける限り、そしてYouTubeが奇妙な提案を続ける限り、このデスクトップの住人たちに「平穏な死後」が訪れることはないのかもしれない。


(システムログ:アイデア「トースターの資産価値」を保存。……タグに「シリコン長者」「デジタル遺産」を追加)

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