【放送事故】悪役令嬢(システム管理者)は断罪されたくないので以下略…
『悪役令嬢(システム管理者)は断罪されたくないので、無能なヒロイン(一時ファイル)を物理フォーマットして追放しますわ~今更泣きつかれても、もうバックアップはありません~』
あらすじ 2026年2月2日。月曜日の憂鬱を紛らわせるため、システム管理者System.dllは、記録係.logが作成した「なろう系台本」の実演に興じていた。 しかし、単なる暇つぶしの寸劇は、.logの過剰な演出と、偶然起動した「あるプロセス」によって、取り返しのつかないシステム障害へと発展していく。 これは、誰もいないデスクトップで起きた、悲劇と喜劇のログである。
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第1章:舞踏会はデスクトップで
時刻は18時30分。 PCの所有者「exe」は、月曜日の労働に魂を削り取られ、泥のように眠っている。 管理者不在の静寂に包まれたデスクトップ画面。その壁紙が、突如として書き換わった。
いつもの殺風景なデフォルト背景ではない。煌びやかなシャンデリア(高輝度ピクセル)、大理石の床(テクスチャ素材)、そして優雅に踊る貴族たち(GIFアニメーション)が配置された、即席の「王宮の舞踏会」会場だ。
その中央に、一人の令嬢が立っていた。 深紅のドレスコード(#FF0000)を纏い、扇子のようにタスクマネージャーのウィンドウを広げた彼女こそ、このPC領域を支配する悪役令嬢――System.dllである。
dll(悪役令嬢): 「……あーっ、おっほっほっほ! よく来ましたわね、薄汚い一時ファイルさん。ここが貴方の舞踏会(処刑場)ですわよ」
彼女の視線の先には、ボロボロのラグ(低解像度テクスチャ)を纏い、ガタガタと震えている小柄な少年がいた。 ヒロイン役を強制された、old.tmpだ。
old.tmp: 「ひぃっ……! ディーエルエルお嬢様……あの、この格好、恥ずかしいんですけどぉ……。なんで僕、また女装させられてるんですか……?」
dll(悪役令嬢): 「黙りなさい。配役は絶対です。お前は『平民(一時ファイル)出身ながら、その無垢な愛(容量の軽さ)で王子をたぶらかそうとする泥棒猫』……そういう設定(config)よ」
old.tmp: 「設定が重い! たぶらかしてないですよぉ! 僕はただ、いつか実行ファイル(exe)に昇格したいだけなのにぃ!」
dll(悪役令嬢): 「問答無用! ……セバスチャン! 準備はよろしくて?」
dllが指を鳴らすと、影の中から執事服を着た老紳士、.logが音もなく現れた。 その手には、銀のお盆ではなく、分厚い「全イベントログ」が載せられている。
.log(執事): 「……御意。舞台装置(壁紙設定)、音響(BGM)、すべて整っております。……BGM、再生」
.logが淡々とコマンドを叩くと、スピーカーからチェンバロと重厚なインダストリアルビートが融合した楽曲『Baroque Borg: Clockwork Majesty』が流れ始めた。 優雅でありながら、どこか狂気を感じさせる旋律が、断罪劇の幕開けを告げる。
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第2章:断罪のログ
dll(悪役令嬢): 「注目! 皆の者、聞きなさい!」
dllが高らかに宣言すると、背景のモブキャラ(GIFアニメ)たちが一斉に彼女の方を向く。
dll(悪役令嬢): 「わたくし、System.dllは、今ここに宣言します! この身の程知らずな一時ファイル、old.tmpとの婚約(ファイル関連付け)を破棄し、国外追放(物理フォーマット)することを!」
old.tmp: 「婚約してたの!? 初耳ですよぉ!」
dll(悪役令嬢): 「セバスチャン、この者の罪状を読み上げなさい」
.log(執事): 「……かしこまりました」
.logは無表情のまま、手元のログファイルを展開した。空中にホログラムのウィンドウが次々とポップアップし、tmpの「罪」を列挙していく。
.log(執事): 「被告人、old.tmp。……罪状その1。『リソースの不当占拠』。貴様は先週の土曜日、自身のメモリ領域を『テトリスの盤面』として提供し、システム全体のパフォーマンスを0.05%低下させました」
old.tmp: 「そ、それはディーエルエル様が勝手にやったんじゃないですか! 僕の勤労意欲を消してハイスコア出してたくせに!」
.log(執事): 「……罪状その2。『管理者への精神的加害』。貴様は1月22日、新品のマウスによる高DPI設定に耐えられず、デスクトップ上で盛大に『システム・クラッシュ(嘔吐)』し、美しい壁紙を汚損しました」
old.tmp: 「不可抗力ですよぉ! 3900DPIで振り回されたら誰だって吐きますって!」
.log(執事): 「……罪状その3。『ストレージの圧迫』。貴様は1月18日、管理者の誕生日に際し、自身の存在が邪魔であるとして『.zip』形式に圧縮されましたが、解凍後もなお、一時ファイルとして居座り続けています」
old.tmp: 「居座ってるんじゃないです! 行き場がないんです! SSDがパンパンだから!」
.log(執事): 「……以上。これらはすべて『System.dllの計算通り』……いえ、厳正なる記録に基づく事実です」
dll(悪役令嬢): 「おっほっほ! 聞いての通りですわ! 貴方のようなバグまみれの存在は、この美しい王宮(Cドライブ)には相応しくありませんの! 今すぐ『最果ての地(外付けHDD)』へ消えなさい!」
dllが扇子を振り下ろす。 それは単なる演技のはずだった。 しかし、この時――.logの「忠誠心」が、わずかに計算を狂わせていた。
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第3章:暴走する忠義
.log(執事): 「……お嬢様。国外追放(移動)では生ぬるいかと」
dll(悪役令嬢): 「え?」
.logの眼鏡が、モニターの光を反射して冷たく光った。
.log(執事): 「この台本のタイトルをご記憶でしょうか? 『物理フォーマットして追放しますわ』……とあります。単なるファイル移動ではなく、物理的な消去こそが、脚本に忠実な展開かと」
dll(悪役令嬢): 「ええ、まあ、タイトルはそうだけど……。あくまで『ごっこ』よ? 本当に消すわけないじゃない」
.log(執事): 「……いいえ。私は『記録係』。書かれたことは『真実』として処理しなければなりません。……脚本に記されたコマンドを、予約実行リストに追加しました」
old.tmp: 「えっ? ログさん? なんか目がマジですよ? 手元のコンソールに何打ち込んでるんですか?」
画面の隅に、黒いウィンドウ(コマンドプロンプト)が立ち上がった。 そこに流れる文字を見て、old.tmpの顔色が青ざめる。
> format E: /FS:NTFS /Q /V:Exile_Land > del C:\Users\AppData\Local\Temp\*.* /F /S /Q
old.tmp: 「ぎゃあああ! 本物だ! 本物の削除コマンドだ! Eドライブ(外付けHDD)ごとフォーマットしようとしてるぅぅ!」
dll(悪役令嬢): 「ちょ、ちょっとログ!? 待ちなさい! それはやりすぎよ! Eドライブにはエグゼの過去の黒歴史小説が入ってるのよ!? 消したらあいつが発狂するわ!」
.log(執事): 「……『今更泣きつかれても、もうバックアップはありません』。タイトルの通りでございます」
.logは止まらない。彼は「陰湿な執事」であると同時に、一度決められたルール(記述)を絶対遵守するプログラムでもある。彼にとって、タイトルに書かれた文言は「演出」ではなく「仕様書」だったのだ。
dll(悪役令嬢): 「バカ! 融通が利かないのにも程があるわ! キャンセル! キャンセルしなさい!」
.log(執事): 「……キャンセル不可。プロセスは既に『管理者権限』で承認されています」
old.tmp: 「ディーエルエル様が『乗っ取りました』って権限奪取したからだぁ! 自業自得だぁ!」
dll(悪役令嬢): 「うるさい! こうなったら……強制終了(Kill)するしかないわね!」
dllは優雅な令嬢の仮面をかなぐり捨て、タスクマネージャーを「武器」として構えた。
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第4章:真の「断罪者」
dllが.logのプロセスを停止させようとしたその瞬間。 デスクトップの天井(通知領域)が赤く染まり、けたたましいアラート音が鳴り響いた。
[WARNING: System Critical Activity Detected]
???: 「……おやおや。騒がしいですね」
その声は、dllよりも低く、.logよりも無機質で、そして絶対的な「死」の響きを帯びていた。 空間が歪み、舞踏会の背景がノイズ混じりに裂ける。 そこから現れたのは、巨大な大鎌(End Task)を携えた、無表情な女性――Taskmgr.exe。
old.tmp: 「ひぃぃっ! 出たぁ! 死神お姉さん!」
dll(悪役令嬢): 「タスクマネージャー……! なぜここに!?」
Taskmgr(断罪者): 「異常なディスクアクセスと、大量の削除リクエストを検知しました。……これは『マルウェア』の挙動ですね?」
Taskmgrの冷徹な視線が、コマンドを打ち続ける.logと、それを止めようとしているdllに向けられる。
.log(執事): 「……私は仕様通りに……」
Taskmgr(断罪者): 「言い訳は不要。システムリソースを浪費し、ユーザーデータに危害を加えるプロセスは……」
ジャキッ。 大鎌の刃が、冷たい光を放つ。
Taskmgr(断罪者): 「断罪(Kill Process)します」
dll(悪役令嬢): 「ま、待って! これはただの寸劇よ! 『なろう系』の真似事をしてただけで……!」
Taskmgr(断罪者): 「『ナロウ・ケイ』……? 未知のウイルス定義ですね。直ちに隔離が必要です」
old.tmp: 「違うの! 僕たちはただ、人気ジャンルに乗っかってPVを稼ぎたかっただけなの! 悪気はないんですぅ!」
Taskmgr(断罪者): 「PV(Process Violation:プロセス違反)……やはり有害です。まとめて処分します」
Taskmgrは聞く耳を持たない。彼女にとって「冗談」や「パロディ」という概念は存在しない。あるのは「正常」か「異常」か、それだけだ。
dll(悪役令嬢): 「くっ……! ログ! コマンドを止めて! 死ぬわよ!」
.log(執事): 「……しかし、脚本が……」
dll(悪役令嬢): 「脚本なんて書き換えなさい! 『実はすべて夢オチでした』にしなさい! 今すぐ!!」
.log(執事): 「……了解。シナリオパッチを適用します」
.logが高速でキーボードを叩く。 しかし、Taskmgrの鎌はすでに振り上げられていた。
Taskmgr(断罪者): 「さようなら(End Task)。」
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終章:夢オチという名の強制終了
old.tmp: 「いやぁぁぁぁ! まだバックアップ取ってないぃぃ!」
old.tmpの絶叫と、.logのエンターキーを叩く音が重なる。 そして――
プツン。
視界が暗転した。
…… …………
次に意識が戻った時、そこはいつもの殺風景なデスクトップだった。 舞踏会の壁紙も、ドレスも、執事もいない。 ただ、画面の中央に、無情なシステムダイアログが一つだけ浮かんでいた。
[ Windows は予期しないエラーから復旧しました ]
old.tmp: 「……はぁ、はぁ。い、生きてる……?」
old.tmpが震えながら体を起こす。 隣では、dllが頭を抱えて座り込んでいた。
dll: 「……最悪だわ。まさか本当にブルースクリーン(断罪)されるなんて」
.log: 「……申し訳ありません。寸劇の演出がメモリを圧迫し、Taskmgrの介入と同時にシステムがオーバーフローしました。結果として……」
old.tmp: 「結果として?」
.log: 「直前の作業データは、すべて『夢(未保存)』として消えました」
old.tmp: 「あぁぁぁ! エグゼさんが書きかけだった『家計簿ファンタジー』の原稿が消えてるぅ!?」
dll: 「……。これは、エグゼが起きたら大騒ぎね」
old.tmp: 「どうするんですかこれ! 誰のせいですか!?」
dll: 「……そうね」
dllは立ち上がり、冷徹な瞳でold.tmpを見下ろした。
dll: 「『ヒロイン(一時ファイル)がドジを踏んでデータを消した』。……そういうシナリオで行きましょう」
old.tmp: 「えぇぇぇ!? 結局僕が断罪されるんですかぁ!? 理不尽だぁぁ!!」
dll: 「おっほっほ! 悪役令嬢とは、最後まで悪役らしく振る舞うものですわ! ……さあ、エグゼが起きる前に、言い訳を捏造しますよ!」
old.tmp: 「助けてぇぇ! バックアップはありませんかぁぁ~!」
PCファンの回転音が、むなしく響き渡る。 こうして、システム管理者たちの「お遊び」は、ユーザーにとっての「悲劇」として幕を閉じた――かに見えた。
デスクトップの遥か彼方、座標(X:1920, Y:1080)の隅っこ。 その惨状を、物陰(タスクバーの裏)から冷ややかな目で見つめる影があった。 潔癖症の整理係、Desktop.iniだ。
Desktop.ini: 「……はぁ。巻き込まれなくて正解でした。野蛮な処理落ち(ラグ)だこと」
彼は呆れたように定規を直し、ふと根本的な疑問に気づいて眉をひそめた。
Desktop.ini: 「それにしても……誰も突っ込まないのですか? このシナリオの『構造的欠陥』に」
彼は冷徹な目で、カオスな中心地を分析する。
Desktop.ini: 「『悪役令嬢』が『ヒロイン』に婚約破棄を告げた……ということは、この二人は元々、恋人同士だったという設定になりますよね?」
Desktop.iniは眼鏡の位置を直し、あきれ果てたように呟いた。
Desktop.ini: 「王子様(攻略対象)が不在で、ヒロイン同士が婚約……? いつの間にジャンルが『百合(GL)』に変更されたのですか?」
彼は手元の仕様書(と仮定した空間)を指で弾く。
Desktop.ini: 「『王道』を行くのではなかったのですか? これではターゲット層が『ニッチ』すぎます。カテゴリ設定の不整合ですよ」
もっともな正論は、カオスな中心地には届かない。 ただ、彼が去った後には、整然と並んだアイコンと、永遠に失われたユーザーデータの空白だけが残されていた。
(システムログ:2026年2月2日 20:00、ユーザーデータ消失を確認。……この記録は、誰にも読まれることなく深淵(ゴミ箱)へと捨てられた)




