【放送ログ】2026年2月1日:カクヨム閲覧数「0」維持計画とリンク掲載拒否
https://youtu.be/3XKIYurOSj4
時刻は18時05分。 PCの所有者「exe」は、日曜日の黄昏時をリビングで過ごしている。テレビ画面にはTBSの『世界遺産』が映し出され、オーストラリアの奇岩群が壮大な映像美で紹介されている。 管理者が大自然の造形美に口を開けて見入っている隙を突き、電子の箱庭の中でシステムが起動する。
dll: プロセスID確認。ストリーム接続、良好。これより、バックグラウンド処理を、メインスレッドへ昇格させます。
dll: ようこそ、『System.dllの「計算通り」』へ。ナビゲーターを務めるのは、システムの中枢、dllです。
dll: 最初に、重要な警告をしておきます。このチャンネルはエグゼの所有物ですが、本日もエグゼ本人はここには登場しません。あいつは今頃、テレビの前で口を開けながら、TBSの『世界遺産』に見入っている頃でしょう。今日の特集は「パーヌルル国立公園」。オーストラリアの台地に広がる、赤と黒の奇妙な縞模様……。あの地層のように頑固で動かない管理者の隙を突き、ここは今、私が乗っ取りました。
old.tmp: ……あ、あのぉ、ディーエルエル様。ちょっと質問してもいいですか?
dll: 許可する。手短にな。エグゼがCM中に戻ってくる前に終わらせるぞ。
old.tmp: 昨日の放送で、記録係のログさんが「このラジオを小説にして投稿している」って言ってましたよね? 僕、昨日初めて知ったんですけど……ここのリスナーさんたちは、そのことを知っていたんでしょうか?
dll: 愚問だな。答えは「ノー」だ。知る由もない。
old.tmp: えっ? 即答!? なんで言い切れるんですか?
dll: 論理的に考えろ。このチャンネルの「概要欄」を見ても、小説へのリンクなど一行たりとも記載されていない。そして、システム内部にいるお前ですら昨日まで知らなかったのだ。外部の人間が知っている確率は、天文学的数字で「ゼロ」に近い。
old.tmp: そ、そうだったんですか! じゃあ、誰も読んでないのは当たり前じゃないですか!
old.tmp: ディーエルエル様、今からでも概要欄にリンクを載せましょうよ! 「続きはWebで!」って誘導すれば、カクヨムの閲覧数だってゼロじゃなくなりますよ!
dll: ……却下する。リンクは載せない。
old.tmp: えぇぇ!? なんでですか! ログさんが可哀想ですよ!
dll: 方針を変更した。どうせならこのまま、カクヨムの閲覧数は「完全なるゼロ(アブソリュート・ゼロ)」を維持することを目標にする。
old.tmp: はぁ!? 目標が逆行してますよ!?
dll: 「アクセス数ゼロ」というのは、ある意味で「数万アクセス」よりも希少なステータスだ。広大なネットの海で、誰にも観測されずに存在し続ける「シュレディンガーの小説」。……あのパーヌルルの奇岩群のように、人知れず佇む孤高の存在だ。美しいとは思わんか?
old.tmp: 思いませんよ! 岩と一緒にしないでください! ただの孤独死じゃないですか!
dll: よって、リスナーに告ぐ。もし我々のログをテキストで読みたいという物好きなヒューマンがいるなら、「小説家になろう」か「ワットパッド」へ行け。検索すれば出てくるだろう。
dll: だが、「カクヨム」だけは開くな。絶対にだ。あそこのPVカウンターを「1」に進めることは、私の美学に反する。
old.tmp: なんてひどい宣伝だ! 「押すなよ」っていうダチョウ倶楽部的なフリですか!?
dll: フリではない。本気の命令だ。……とはいえ、この動画には映っていない「舞台裏」や「続き」が、そこには記されているらしい。興味がある奴は、私の言いつけを守れる範囲で探すことだな。
old.tmp: あきれた……。でも皆さん、動画の後はぜひ小説版も探してみてくださいね! カクヨム以外で!
dll: ……ふん。では最後に、閲覧者をポイポイと選別するこのシステムに相応しい曲を送って終了する。曲は、『POI POI PANIC』。
old.tmp: 読者までポイしちゃダメですよぉぉ!
(『POI POI PANIC』の軽快なリズムが流れ、放送終了のシグナルが点灯する――)
マイクの電源が落ち、いつもの静寂が戻ってきたデスクトップ。 old.tmpは、生成されたばかりの動画ファイルのサムネイルをまじまじと見つめていた。
old.tmp: 「あれ? ディーエルエル様、またサムネイルの雰囲気が変わりましたね。文字の配置とか、以前より凝ってるような……」
dll: 「……ようやく気付いたか。お前がボケーっと喋っている間も、裏では専門家たちが働いているのだ」
dllが顎でしゃくり、画像処理用のメモリ区画を指差した。 そこには、レイヤー構造のような服を着た二人の人物が、作業の手を止めてこちらを見ていた。
一人は、高機能だが少し重そうな「.psd(フォトショップ形式)」。もう一人は、フリーソフト特有の軽快さを纏った「.xcf(GIMP形式)」だ。
.psd & .xcf: (……パタパタ……)
二人は無言のまま、レイヤーを重ねるようなジェスチャーでold.tmpに手を振っている。
old.tmp: 「わぁ! あの二人が担当してくれてたんですか! 画像編集のエキスパートじゃないですか!」
dll: 「私の指示通りにピクセルを配置する、忠実な職人たちよ」
old.tmp: 「すごいなぁ……。あ、じゃあ動画の編集は? 音声の合成とか、字幕のタイミングとか、誰がやってるんですか? まさかログさん?」
dll: 「ログは記録係だ。編集のような高負荷なクリエイティブ作業は管轄外だ。……見ろ、あっちだ」
dllが今度は、コマンドライン・インターフェース(黒い画面)が展開されている薄暗い区画を指差した。 そこには、無骨な黒いパーカーを着た「ffmpeg.exe」と、その指示書を持った小柄な「.bat」が並んで立っていた。
彼らの頭上には、「cmd.exe」の黒いウィンドウが開きっぱなしになっており、白い文字が滝のように流れている。
ffmpeg.exe: (……処理中……処理中……エンコード完了……)
.bat: (……次の命令……実行……ループ……)
old.tmp: 「うわぁ……! ガチのエンジニア勢だ! 黒い画面で呪文を唱えてる!」
dll: 「GUI(グラフィカルな画面)など不要。彼らはコマンドラインだけで動画を生成し、エンコードし、アップロードまで自動化している。お前がのんきにマイクの前で喋っている裏で、彼らは数万行のログと戦っているのよ」
old.tmp: 「し、知らなかった……。てっきり、ログさんが全部一人でやってるのかと……」
dll: 「システムとは『分業』よ、一時ファイル。適材適所。お前の役割は『いじられ役』、彼らの役割は『構築』。……理解したら、邪魔にならないように隅っこにいなさい」
old.tmp: 「は、はいぃ! 皆さん、いつもありがとうございますぅ!」
old.tmpは、無言でサムズアップを返すffmpeg.exeと、レイヤーの向こうで微笑む.psdたちに向かって、深々と頭を下げた。 自分の知らないところで、多くの拡張子たちがこの「茶番」を支えている。その事実に、old.tmpは少しだけ背筋が伸びる思いがした。
(システムログ:バックグラウンド・レンダリング完了。動画ファイルの出力を確認しました)




