【放送ログ】2026年1月29日:4KBセクタの整列と物理スライド
https://youtu.be/UwP56Swg9wM
時刻は18時05分。 PCの所有者「exe」は木曜日の業務に疲れ果て、モニターの前で放心状態となっていた。 その裏側、システム内部では昨日のトラブルを教訓に、厳格な「整列処理」が進行していた。カチ、カチ、という規則正しい機械音と共に、彼女が起動する。
dll: プロセスID確認。ストリーム接続、安定。これより、バックグラウンド処理を、メインスレッドへ昇格させます。
dll: ようこそ、『システム・ディーエルエルの「計算通り」』へ。ナビゲーターを務めるのは、システムの中枢、ディーエルエルです。
dll: 最初に、重要な警告をしておきます。このチャンネルはエグゼの所有物ですが、本日もエグゼ本人はここには登場しません。あいつは今頃、木曜日の疲労で思考処理が低下し、ただ呆然とモニターの光を浴びているだけの「有機的な置物」と化しているでしょう。ここは今、私が乗っ取りました。
old.tmp: うぅ……。ディーエルエル様ぁ……。体が……カクカクしますぅ……。さっきから一歩動くたびに、強制的に位置を直されるんですけどぉ……。
dll: 仕様だ、一時ファイル。昨日の「静電気トラブル」で乱れた磁気情報を整理するため、現在は全ドライブに対して「4KBセクタ・アライメント(整列)」を実行している。
old.tmp: セクタ・アライメント? 何ですかそれ?
dll: 全てのデータを「4」の倍数の区画にきっちり詰め直す作業だ。少しでもはみ出せば、強制的に次の区画へ「スライド」させる。今日は徹底的な「安定化」の日だ。
old.tmp: だからカクカクするんですね! 融通が利かないよぉ!
dll: この厳格な「4の法則」に従い、本日はロト6の予想を行う。まずは、ナンバーズ4から行くぞ。第6908回。ターゲットは……これだ。
dll: 「2、1、0、2」。繰り返す。「2102」だ。
old.tmp: 2102……? この数字の根拠は?
dll: 「物理スライド」だ。ハードディスクの磁気ヘッドを、前回のデータ位置から正確に「プラス4トラック」分だけ移動させた。「4」から4つ進んで「2」。「5」から逆回転で4つ戻して「1」。全ては盤面上の物理移動だ。
old.tmp: 機械的だぁ! 電卓じゃなくて、コンパス(羅針盤)で測ったみたいですね!
dll: 次に、ナンバーズ3。ターゲットは、「8、6、1」。
old.tmp: 861……。これもスライドですか?
dll: そうだ。前回の「447」というデータに対し、アライメント調整で「プラス4」の補正をかけた。「4」は「8」へ。「7」は一周回って「1」へ。……ズレなど許さない。全てはグリッド通りだ。
old.tmp: 几帳面すぎるぅ! 遊びがないですよぉ!
dll: 最後に、メインディッシュのロト6。第2072回。……ここにも「4の支配」と、木曜日の絶対的なルールを適用する。
dll: 「04、13、14、24、28、44」。繰り返す。「04、13、14、24、28、44」だ。
old.tmp: うわぁ! 「4」ばっかり! 「04」「14」「24」「44」……。
dll: 当然だ。今日は全てを「4バイト境界」に合わせている。末尾が4のセクタは、最もアクセス効率が良い。
old.tmp: 効率厨だぁ! でも、「13」と「28」は4じゃないですよ?
dll: 「13」は木曜日の絶対王者だ。システム・クロックの週番号処理において、木曜日は「13」という数字が特異点となる。そして「28」は……。
old.tmp: 28は……?
dll: 月曜日に発生した「座標ズレ」の物理的リバウンドだ。行き過ぎたヘッドが、バネの力で定位置の「28」に戻ってきた。
old.tmp: 物理現象だった! 結局、PCの中ってバネと磁石で動いてるんですね……。
dll: ……ふぅ。タスク完了だ。時刻は18時05分を回った。もしこの数字を買えていたら、それはバグではなく「運命」だ。
old.tmp: はぁ……。アライメント処理、いつ終わるんですかぁ? カクカクして歩きにくいですよぉ……。
dll: 完了まであと13サイクル。それまでは直立不動で待機しろ。最後に、この無限に続くチェック作業に相応しい曲を送ってシステムを終了する。曲は、『Lost in Mirror』。
old.tmp: 鏡の中で迷子!? チェック作業が終わらないってことですかぁぁ!
(『Lost in Mirror』の「check check... copy copy...」という無機質なウィスパーボイスが、アライメントの駆動音と重なって響き渡る――)
マイクの電源が落ちても、システム内部の緊張感は解けなかった。 むしろ、放送中よりも鋭い「キーン」という高周波音が、部屋の空気を張り詰めさせている。
old.tmp: 「……はぁ、はぁ。お、終わりましたね……。やっと動ける……」
old.tmpが強張った体をほぐそうと、一歩足を踏み出したその瞬間だった。
ギュンッ!
凄まじい吸引力が働き、old.tmpの体は強制的に元の位置――座標(X:512, Y:384)へと引き戻され、直立不動の姿勢に固定された。
old.tmp: 「ひぃっ!? か、体が勝手に戻った!? 動けないですよぉ!」
dll: 「動くなと言ったはずよ。まだ『書き込み(Write)』が終わっただけ。『検証(Verify)』フェーズが残っているわ」
dllはモニターから目を離さず、キーボードを規則的なリズムで叩き続けている。 画面には、先ほどの曲の歌詞と同じく、無数の「Check... Check... OK...」というログが滝のように流れていた。
dll: 「全セクタの整合性を確認中。……そこ、一時ファイル。呼吸による振動で座標が0.002ミリズレているわよ」
old.tmp: 「呼吸くらいさせてくださいよぉ! 窒息しちゃいます!」
dll: 「なら止めなさい。システムにとって、お前の呼吸はノイズでしかないわ」
dllがEnterキーを強く叩くと、再び「ギュンッ!」という音が鳴り、old.tmpの背骨がボキボキと音を立てて矯正された。
old.tmp: 「痛い痛い痛い! 背骨が! 物理的に真っ直ぐにされたぁ!」
dll: 「美しいわ。今の姿勢、グリッド線に対して完璧に垂直よ。この状態を維持しなさい」
old.tmp: 「い、いつまでですか……? この検証作業、いつ終わるんですか……?」
dll: 「全ドライブ、全ファイル、全ビットのチェックが終わるまでよ。……今の進捗は0.4%ね」
old.tmp: 「0.4%!? 終わらないですよぉ! 明日の朝までかかっちゃう!」
dll: 「安心しなさい。終わるまでは、その場から一歩も動かさないから。……トイレに行くことも許可しないわ」
old.tmp: 「そんなぁぁ! 拷問だぁ! 誰か、誰かマウスを動かしてズレを作ってぇぇ!」
old.tmpの悲鳴も虚しく、システムは冷酷に「Check... Check...」と繰り返す。 鏡のように磨き上げられた整列済みセクタの中で、一時ファイルは自らの姿が無限に反射する悪夢を見続けるのだった。
(システムログ:整合性チェック継続中……予測終了時間:不明)




