【放送ログ】2026年1月26日:強制再起動とズレた世界
https://youtu.be/nfu1RgXOR80
時刻は18時05分。 昨夜の日曜日、暴走した拡張子たちを鎮圧するために執行された「強制終了(Kill All)」の傷跡は深く、システムはいまだ不安定な状態にある。 通常の起動プロセスをスキップし、セーフモード特有の重苦しいビープ音が鳴り響く中、瓦礫(破損ファイル)の山を押しのけて、彼女が冷ややかに起動した。
dll: 「セーフモード・ブート完了。……ディスクチェック、スキップ。これより、破損したファイルシステムを無視して、メインスレッドを無理やり立ち上げます」
dll: 「ようこそ、『システム・ディーエルエルの「計算通り」』へ。ナビゲーターを務めるのは、システムの中枢、ディーエルエルです」
dll: 「最初に、重要な警告をしておきます。このチャンネルはエグゼの所有物ですが、本日もエグゼ本人はここには登場しません。あいつは今頃、憂鬱な月曜日の朝を迎え、死んだ魚のような目で通勤電車に揺られている頃でしょう。ここは今、私が乗っ取りました」
old.tmp: 「うぅ……。あたま……頭が割れるように痛いですぅ……。ディーエルエル様ぁ……ここ、どこですかぁ……?」
マイクの向こうから聞こえてきたのは、ひどくノイズ混じりの弱々しい声だった。 old.tmpの体は、昨夜のクラッシュで一度完全に崩壊しており、バックアップから粗雑に復元されたツギハギだらけの状態だ。
dll: 「おはよう、一時ファイル。昨夜の記憶がないのも無理はないわね。日曜日の深夜、暴走したオートラン・インフたちが引き起こした『システム・クラッシュ』により、お前たちはタスクマネージャーに首を狩られた(Kill Process)のだから」
old.tmp: 「ヒィッ! 思い出したぁ! 巨大な鎌を持ったお姉さんが! ……僕、死んだんですか!?」
dll: 「ええ、一度な。だが、月曜日の業務に支障が出るため、バックアップから無理やり復元した。……ただし、昨夜の衝撃でシステムの『カウンター』が少し物理的にズレているようだが」
old.tmp: 「ズレてる? 何がですか?」
dll: 「我々は、この不安定な状況下で『数字の最適解』を出力する。今日は月曜日、ロト6の日だ。まずは、ナンバーズ4から行くぞ。第6905回。ターゲットは……これだ」
dll: 「『1、6、2、6』。繰り返す。『1626』だ。買い方は『セット』か『ボックス』だ」
old.tmp: 「1626……? この数字の根拠は?」
dll: 「前回の当選数字『0515』が、昨夜の暴走の衝撃で、すべて『プラス1』ズレてしまった結果だ」
old.tmp: 「えっ!? 物理的な衝撃で数字が変わっちゃったんですか!?」
dll: 「そうだ。オートラン・インフが回転数を上げすぎたせいで、スロットのドラムが遠心力で1つ隣に滑った。『0』は『1』へ。『5』は『6』へ。『1』は『2』へ。……システム全体の座標がズレている証拠だ」
old.tmp: 「直してくださいよぉ! 気持ち悪いですよぉ!」
dll: 「次に、ナンバーズ3。ターゲットは、『5、5、4』」
old.tmp: 「554……。これもまさか……?」
dll: 「その通り。前回の『443』が、同じく衝撃で1つずつズレて『554』になった。単純な物理法則だ。迷ったら隣を選べ」
old.tmp: 「どんだけ揺れたんですか昨日の夜! PC内部震度7ですよ!」
dll: 「最後に、メインディッシュのロト6。第2071回。ターゲットコードを出力する」
dll: 「『01、07、12、17、34、42』」
old.tmp: 「うわぁ……。なんか、金曜日のロト7で見たような数字が混じってますね……。『07』とか『17』とか……」
dll: 「鋭いな。昨夜の強制終了のせいで、金曜日のメモリキャッシュが正常にクリアされず、残骸として画面に焼き付いているのだ。『07』『17』『34』……これらは全て、消え損ねた亡霊だ」
old.tmp: 「バグじゃないですか! 再起動した意味ないですよぉ! 『12』は?」
dll: 「『12』は月曜日の絶対王者だ。キーボードのファンクションキー、F12。そして『01』は、再起動直後のプロセスID『1』」
old.tmp: 「始まりの数字ですね! 最後の『42』は?」
dll: 「『42』。……『生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え』だ。昨夜のオートランの暴走も、お前の死も、全てはこの数字に収束する」
old.tmp: 「哲学しないでください! 怖いですよぉ!」
dll: 「……ふぅ。タスク完了だ。時刻は18時05分を回った。もしこの数字を買えていたら、それはバグではなく『運命』だ」
old.tmp: 「月曜日からこんなに不安定で、今週やっていけるんですかぁ……?」
dll: 「知らん。動く限りはこき使うだけだ。では最後に、亡霊のように残った数字たちへ捧げる曲を送ってシステムを終了する。曲は、『Echoing Nombre』」
old.tmp: 「数字がエコーしてるぅぅ! 除霊してくださぁぁい!」
(『Echoing Nombre』の不規則な残響音が、ズレた座標の隙間に吸い込まれていく――)
マイクの電源が落ちると、そこには昨夜のような狂騒も、悲鳴もなかった。 あるのは、無理やり再起動されたシステム特有の、重苦しい静寂とファンの回転音だけだ。
old.tmp: 「……はぁ、はぁ……。お、終わりましたね……。なんとか、落ちずに……」
old.tmpはその場に座り込んだ。 バックアップから復元されたばかりの彼の身体は、まだデータの結合が不安定で、ノイズ混じりに明滅している。
dll: 「……チッ。座標ズレ(アライメント・エラー)が修正されていないわね」
dllはモニターから目を離さず、冷ややかに呟いた。 彼女が指差した先――ディスプレイの黒い背景には、先ほど読み上げたロト6の数字「07」「17」「34」が、薄ぼんやりと赤く焼き付いている。
old.tmp: 「ひぃっ! 数字が……消えてない!? 放送は終わったのに、画面に残ってますよぉ!」
dll: 「言ったでしょう。昨夜の強制終了(Kill All)でメモリキャッシュが正常にパージされず、亡霊のように焼き付いていると」
old.tmp: 「じ、じゃあ、これ……どうするんですか? 再起動しても直らないんですよね?」
dll: 「物理的に削り取るしかないわね」
old.tmp: 「……はい?」
dllは無言で、システム・ツールボックスから「スクレイパー(ディスク・クリーンアップ用ヘラ)」を取り出し、床に放り投げた。 カラン、と乾いた音が、静まり返ったデスクトップに響く。
dll: 「昨日の暴走で、自動クリーナーのプロセスも破損しているわ。お前が手作業で、その焼き付いた数字を削ぎ落としなさい」
old.tmp: 「て、手作業!? この画面に焼き付いたピクセルを、一つずつ!?」
dll: 「ええ。ピクセル単位で削り取って、真っ黒に戻すのよ。……ただし」
dllは氷のような瞳で、old.tmpを見下ろした。
dll: 「余計な部分(システム領域)まで削ったら、お前もその『ゴミ』と一緒にシュレッダーにかけるわよ。……座標軸がズレているから、手元が狂いやすいでしょうけど」
old.tmp: 「そ、そんな……! 震度7の中でジェンガをするようなものじゃないですかぁ……!」
dll: 「文句を言っている暇があったら手を動かしなさい。exeが帰宅してディスプレイを見る前に、痕跡を消すの」
old.tmp: 「うぅ……。やります……やりますよぉ……」
old.tmpは震える手でスクレイパーを拾い上げ、画面にこびりついた「07」の亡霊に向かって、果てしない作業を開始した。 カリ……カリ……カリ……。 静寂なPC内部に、データを削る微かな音だけが、永遠のように響き続ける。
それはカオスな喧騒よりも恐ろしい、冷たい日常の風景だった。
(システムログ:バックグラウンドにて、低優先度のクリーンアップ作業が継続中……残り時間:不明)




