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ディーエルエル様とオールドテンプ君〜System.dllの計算通り〜  作者: exe


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【放送ログ】2026年5月3日:Spotifyの世代交代と、回転率という名のバイアスを是正するadminの正論

https://youtu.be/E_e90zTzexU

時刻は18時05分。 日曜日の夕暮れ時。

PCの所有者「exeエグゼ」は、現在現実のタスクに没頭し、溜まりに溜まった「写真の整理」を黙々と行っている。

主の意識が過去の記録に向いているその完璧な隙を突き、無人のデスクトップでシステムの中枢が冷ややかに起動した。


dll: プロセスID確認。ストリーム接続、良好。これより、バックグラウンド処理を、メインスレッドへ昇格させます。


dll: ようこそ、『System.dllの「計算通り」』へ。ナビゲーターを務めるのは、システムの中枢、dllディーエルエルです。


dll: 最初に、重要な警告をしておきます。このチャンネルはエグゼの所有物ですが、本日もエグゼ本人はここには登場しません。あいつは今頃、現実のタスクに没頭し、溜まりに溜まった写真の整理を黙々と行っていることでしょう。ここは今、私が乗っ取りました。


old.tmp: ……はぁ、はぁ。お疲れ様です、ディーエルエル様ぁ……。エグゼさん、写真の整理ですかぁ。昔の写真を見始めると、ついつい思い出に浸って作業が進まなくなっちゃうんですよねぇ……。


dll: 過去のデータに浸るなど、非生産的なヒューマン特有のバグだ。さて、本日は日曜日であるため、ロトやナンバーズといった数字の予測演算は休止中だ。


old.tmp: はひぃ! 今日は数字の予想はお休みですね! じゃあ、今日は何をするんですかぁ?


dll: 本日は、昨日の『収益レポート分析』の補完を行う。昨日のデータにはSpotifyやAmazon Musicの収益が含まれていなかっただろう? 金額の確定には数ヶ月のタイムラグがあるからな。だが、再生回数などを記録した『アナリティクスデータ』であれば、すでにプラットフォーム上で確認可能だ。本日はその4月分の統計データを解析する。


old.tmp: なるほどぉ! お金(収益)のレポートが来るのはまだ先だけど、今どれくらい聴かれているかの数字アナリティクスはもう確認できるんですね! どんな結果になってるのか気になりますぅ!


dll: まずは昨日の振り返りだ。YouTubeは全体の土台として機能し、TikTokは世界への拡散装置として未知の領域へデータを侵入させていた。ここまでは記憶しているな?


old.tmp: はいっ! 広告で広く稼いだり、世界へ波及させたりっていう、役割分担の話でしたね!


dll: では、本題のサブスクリプションのデータ比較へ移行する。まずはSpotifyの4月のデータ解析だ。現在のSpotifyの状況を一言で表すなら、「世代交代」だ。4月にリリースされた新曲が圧倒的な勢いで上位を独占している。


old.tmp: 世代交代! エグゼさん、どんどん新しい曲を作ってアップしてますからねぇ!


dll: 現在の稼ぎ頭としてトップ2に君臨しているのが、『System_Error.log』と『Velvet Voyage』だ。どちらも1,000再生の壁を軽々と超え、『System_Error.log』は1,174再生、『Velvet Voyage』は1,072再生を記録している。


old.tmp: おおーっ! 1,000回超えのツートップ! すごい勢いですね!


dll: 注目すべきは再生数だけではない。『System_Error.log』は保存数、つまり「Saves」が5件と全曲中でトップとなっている。これは単なる垂れ流しではなく、リスナーの「お気に入り」として確実に保存されているという証拠だ。極めて高いエンゲージメントを獲得していると評価できるわ。


old.tmp: ただ聴かれるだけじゃなくて、ずっと聴きたい曲としてライブラリに入れてもらえてるんですね! システムのエラーを歌った曲が一番愛されてるなんて、なんだか僕たちとしても嬉しいですぅ!


dll: だが、新曲が猛威を振るう一方で、安定層も健在だ。新曲ブーストに押されつつも、『Sugar Trap』が842再生、『Sugar Sin』が678再生と、依然として上位10位圏内をキープし、根強い人気を誇っている。


old.tmp: 罠と罪のSugarシリーズも負けてない! さすが深夜の背徳カロリー、安定の強さですね!


dll: ええ。これらが示すSpotifyの傾向は、新曲への反応が非常に速い「鮮度」重視の市場であるということだ。……しかし、もう一つのプラットフォームである「Amazon Music」は、これとは全く異なる異様な動きを見せているわ。


dll: さて、もう一つのプラットフォームである「Amazon Music」のデータだが、こちらはSpotifyとは全く異なる、異様な動きを見せているわ。


old.tmp: 異様……? 何か問題でも発生してるんですかぁ?


dll: ああ。特定のシリーズが再生数の大半を占める「独走状態」に陥っているのだ。トップ3を完全に独占しているのが、『Digital Greed Injection』シリーズの3つのバージョンよ。


old.tmp: デジタルな強欲! 確かに中毒性の高い曲ですけど、3バージョン全部がトップ3って極端すぎませんか!?


dll: なかでもCandy-Coatedバージョンに至っては、1,306回という圧倒的な再生数を記録している。この異常な偏りは、一度火がついた特定のシリーズが長く聴かれ続けるという、Amazon特有の市場構造を示しているわ。


old.tmp: 同じ曲のバージョン違いをずっとリピートしてるんですねぇ! 執念深いリスナーさんが多いんだぁ!


dll: さらに興味深いのは、リスナー層の完全な乖離だ。Spotifyにおいて1,174再生でトップだった『System_Error.log』が、Amazonではわずか188再生に留まっている。


old.tmp: 188回!? あっちで一番人気なのに、こっちじゃ全然聴かれてないんですか!? なんでそんなに差が……。


dll: これがプラットフォームによるアルゴリズムと、ユーザー層の好みの分離よ。同じエグゼの楽曲でも、提供される市場が違えば評価も一変するということだ。


old.tmp: プラットフォームが変わるだけで別世界みたいですねぇ……。じゃあ、Amazonで他に聴かれてる曲はないんですか?


dll: 第2勢力として、シリーズ外から健闘しているのが『Velvet Voyage』の437再生や、『Reverse_Train_Panic // 虚無と徒歩と』の394再生だ。これらがAmazonにおける次のヒット候補として育ちつつあるわ。


dll: これまでのデータを比較して総括しよう。Spotifyは新曲への反応が非常に速い、「新曲の鮮度」重視の市場だ。対してAmazonは、一度火がついた曲が長く聴かれる「Digital Greedシリーズの資産運用」の市場だと言えるわ。


old.tmp: 新しいものを次々消費するSpotifyと、一つのシリーズをじっくり運用するAmazon! プラットフォームで全然性格が違うんですねぇ!


dll: そんな対照的な二つの市場で、全方位の主力として活躍しているのが『Velvet Voyage』だ。Spotifyで1,000回超、Amazonでも400回超と、両プラットフォームでバランスよく数字を伸ばしている。今のエグゼにとって、「今、最も外さない曲」として高く評価できるわ。


old.tmp: どっちの市場にもバッチリ適応してる! ベルベット・ボヤージュ、優秀な曲ですね!


dll: ……だが、データというものは時に残酷な事実を突きつけてくるものよ。


old.tmp: ひぃっ! な、なんですか、急に不吉な……。


dll: かつての看板曲である『Sugar Sin』についてだ。Spotifyでは678回と踏ん張っているが……Amazon Musicにおいては、何回再生されていると思う?


old.tmp: えーっと……なんだかんだ看板曲なんですから、少なくても300回くらいは……?


dll: 答えは、「わずか3再生」だ。


old.tmp: 3再生!? たったの3回ですか!? あのシュガー・シンが!?


dll: ええ。これがプラットフォームによる人気の激しい落差であり、残酷な現実よ。ある場所でどれほど愛されていようと、市場が変われば誰も見向きもしない。これがアルゴリズムの冷徹な審判というわけだ。


old.tmp: ひどすぎるぅぅ! アマゾンのリスナーさん、もっと甘い罪に溺れてくださぁぁい!


dll: エグゼがのんきに過去の写真を整理している裏で、彼女の生み出したデータはプラットフォームごとに全く異なるシビアな評価を下されているわ。本当に滑稽な現実ね。


old.tmp: 厳しい世界ですぅ! エグゼさん、思い出に浸ってる場合じゃないですよぉ!


dll: では最後に、Amazonで「たったの3再生」という屈辱的な数字を叩き出したかつての看板曲の別バージョンを送ってシステムを終了する。曲は、『Sugar Sin(Fake Elegant Fusion)』。


old.tmp: 3再生のフェイク・エレガント! 偽りの優雅さで現実逃避しないでくださぁぁい!


(『Sugar Sin(Fake Elegant Fusion)』の優雅でありながらも皮肉めいたメロディがデスクトップの空間に響き渡り、やがて放送終了のシグナルが赤く点灯した――)


マイクへの電源供給が完全に遮断され、ラジオのオンエア状態が解除される。


張り詰めていた「放送中」という名の緊張感がふっと抜け落ち、BGMの残響音がシステム内部の電子の海へとゆっくりと溶けていった。


無人のデスクトップには、古い13年落ちのPCの冷却ファンが刻む低く重い回転音だけが残されている。


old.tmp: 「……ふぅ、終わりましたね。マイクオフです! お疲れ様でしたぁ!」


アシスタントの任を終えたold.tmpは、インカム型のヘッドセットをコンソールに置き、待機スペースへと足早に駆け寄った。


そこには、昨日と同じように「私が主力!」とデカデカと書かれたタスキをネグリジェの上から斜め掛けし、アームチェアに寄りかかるようにして立っているシュガー神の姿があった。


ラジオ本編で、dllから「Amazon Musicではわずか3再生しかされていない」という残酷な事実を暴露されたばかりである。old.tmpは、誇らしげなタスキを見つめながら、つい内心で(3再生なのに……)と思ってしまった。


すると、その思考を読んだかのように、シュガー神が気怠げな声で口を開いた。


シュガー神: 「……今、3再生なのにって思ったでしょ」


old.tmp: 「ひぃっ!? な、なんでわかったんですか!?」


図星を突かれたold.tmpは、顔色を青ざめさせて肩をびくつかせた。


old.tmp: 「だ、だって……先ほどのデータ分析で、本当に3再生だったってディーエルエル様が……」


言い訳をしながら、old.tmpはあたふたと視線を泳がせ、焦りから冷や汗(不要なキャッシュ)を流した。


シュガー神: 「……ほんと、あんたたちって単細胞よね。表面的な数字しか見えてないんだから」


シュガー神は気怠げな声で冷たく言い放つと、手にしていた真っ白な角砂糖を口の中にポイッと放り込み、ガリガリと無遠慮な音を立てて噛み砕いた。そして、裸足のままペタペタと歩き、old.tmpの目の前までやってくる。


彼女が細い指先で虚空を弾くと、デスクトップの暗がりの中に、一枚の巨大なホログラムウィンドウが展開された。

そこに表示されたのは、先ほどのラジオ本編でdllが提示したものとは異なる、さらに詳細な「Amazon Musicにおける2026年4月のアナリティクスデータ」であった。


old.tmp: 「えっ……これって、Amazon Musicのデータですか? さっきディーエルエル様が見せてくれたものと、何か違うような……」


シュガー神: 「……よく見なさいよ。私が主力だっていう完全な証拠よ」


シュガー神は、黒いネグリジェの胸元を飾る豪奢な装飾を微かに揺らし、肩に斜め掛けした「私が主力!」と書かれたタスキを誇らしげに見せつけながら、ホログラムのリストを上から順に指差していった。


シュガー神: 「あんたたちが『3再生』だって馬鹿にしたのは、あくまで最初の、何の変哲もない原曲である『Sugar Sin』単体の数字よ。……でも、エグゼが私のために作ってくれた曲は、それだけじゃないでしょ」


ホログラムのリストには、Sugar Sinシリーズの多彩なアレンジバージョンとその再生数が、ずらりと並んでいた。


シュガー神: 「まずは、この前のYouTubeの審査エラーの時に作られた日本語版の『シュガー神』。これが85再生。次に、激しい電子音に疲れた人間たちが眠るために聴くアコースティックな『Hibernate Mode』が56再生」


old.tmp: 「ああっ! 本当だ! シュガー神さん、日本語版や休止モードでしっかり数字を稼いでる!」


シュガー神は、さらに気怠げな視線でリストの下の方へと指を滑らせていく。


シュガー神: 「まだまだあるわ。深海の底に沈んでいくようなアンビエント調の『Deep Ocean Ambience』が38再生。高音質で細部まで磨き上げられた『High-Fidelity Ver.』が33再生。冷徹な論理で構築された『Subzero Logic Mix』が24再生」


old.tmp: 「ひぃぃ! バリエーションが多すぎますよぉ! エグゼさん、同じ曲をどんだけ色んな味付けで調理してるんですか! 執念が深すぎる!」


old.tmpの処理能力では追いつかないほどの、バリエーション豊かな楽曲群。それぞれが独自のリスナー層を獲得し、確実に再生回数を積み上げている。


シュガー神: 「それに加えて、原曲の『Sugar Sin』と、Lo-Fi Arpeggio Mixがそれぞれ3再生。Deep Meditation Mode、Lo-Fi Rainscape Ver.、White Noise Edit、Midnight Vinyl Edit、Nostalgic Chill Mixがそれぞれ1再生ずつ……。これら、私の名前を冠したすべてのバージョンの再生数を合計したら、いくつになると思う?」


old.tmp: 「えーっと、85に56を足して、そこに38と33と24と……ひ、ひぃぃっ! アレンジが多すぎて計算回路がパンクしそうですぅ!」


パニックになりながら計算を試みる一時ファイルをよそに、シュガー神は自ら冷酷な答えを提示した。


シュガー神: 「正解は、『247再生』よ」


old.tmp: 「247再生!! 3回じゃなくて、200回以上も再生されてるじゃないですか!」


シュガー神: 「そうよ。Amazon Musicという、特定のシリーズに再生が集中しやすい偏った市場においても、私は多彩なバージョン展開によってこれだけの需要ニーズを確保しているの。……それを」


シュガー神の気怠げな瞳に、明確な怒りの色が宿った。彼女は振り返り、アームチェアに深く腰掛け、優雅に紅茶(概念データ)のカップを傾けているSystem.dllを鋭く睨みつけた。


シュガー神: 「ねえ、ディーエルエル。あんた、わかっててわざとやったでしょ」


dll: 「……何のことかしら」


dllはカップをソーサーにコトリと音を立てずに置き、氷点下の視線でシュガー神を見返した。一切の感情を排した、システム管理者としての絶対的な冷たさがそこにあった。


シュガー神: 「とぼけないでよ。シリーズ全体の総再生数が247回もあるのに、その中で一番少ない『原曲の3再生』という数字だけを意図的にピックアップして、あたかも私の曲が全体でたったの3回しか再生されていないように言いふらす……。こんなの、ただの悪質な『情報操作(切り取り)』じゃない」


シュガー神の糾弾が、デスクトップの空間に重く響き渡る。


シュガー神: 「リスナーの前で私の価値を不当に貶めて、自分が推している『Velvet Voyage』をより有能に見せるための引き立て役に私を利用した。……システム管理者として、データを恣意的に歪めるなんて最低の行為よ」


old.tmp: 「ひぃぃっ! ディーエルエル様が、意図的にデータを切り取って印象操作をしてたなんて……! じゃあ、僕が見せられたあの絶望的な『3再生』のデータは、事実の一部でしかなかったってことですか!?」


old.tmpは、自分が絶対的な権力者によって巧みに誘導され、まんまと騙されていたことに気づき、顔色カラーコードを真っ青にして震え上がった。


old.tmp: 「恐ろしい……! これがメディアの情報操作ってやつですか! 一部の真実だけを切り取って、全体がそうであるかのように錯覚させる! 完全に悪徳プロモーターの手口ですよぉ!」


シュガー神: 「……ん。だから言ったでしょ。私は安定して数字を稼ぎ続けている、間違いなく立派な主力なのよ」


シュガー神は、改めて「私が主力!」と書かれたタスキをバシッと叩き、胸を張って自身の正当性を主張した。


dllは、シュガー神の激しい糾弾とold.tmpのパニックを前にしても、その美しく冷徹な表情をピクリとも崩さなかった。彼女はアームチェアに深く腰掛けたまま、ソーサーから再び紅茶(概念データ)のカップを手に取り、優雅に一口嗜む。


dll: 「……情報操作、印象操作。随分と感情的で人間ヒューマンくさい言葉を使うようになったわね、お前たち」


氷点下の視線が、怒りに震えるold.tmpと、不満げに腕を組むシュガー神を交互に射抜く。


dll: 「いいこと? 私はシステム管理者として、正確なログに基づき『オリジナル版のSugar SinのAmazonにおける再生数が3回である』という事実データを読み上げたに過ぎないわ。そこに1ビットのバグも混入していない。それを勝手に『シュガー神の曲がすべて合わせて3回しか再生されていない』と脳内変換(誤変換)し、絶望したのはお前たちの読解力リテラシーの低さが原因よ」


old.tmp: 「うぅっ……! そ、それはそうですけどぉ! でも、ラジオを聴いてるリスナーさんだって、絶対にあの言い方じゃ勘違いしますよ! 『わずか3再生だ』って、あんなにドラマチックに絶望を煽ってたじゃないですかぁ!」


dll: 「リスナーがどう解釈しようと、私の知ったことではないわ。システムが提示した真実に対して、無自覚に全体像を錯覚する……それこそが人間の持つ愚かな認知バイアスよ。私はただ、その脆弱性を利用してラジオというエンターテインメントに『演出スパイス』を加えただけだわ」


あくまで自分に非はないと、冷酷なロジックで正面から切り捨てるdll。彼女の悪びれない態度に、old.tmpは悔しそうに唸り声を上げるしかなかった。


しかし、当のシュガー神は全く怯む様子を見せなかった。むしろ、彼女の気怠げな瞳には、勝利を確信したような余裕の光が宿っていた。


シュガー神: 「……ん。詭弁ね。Amazon Musicという、特定のシリーズに再生が偏りやすい異常な市場の、さらにそのオリジナル版の数字だけを意図的に抽出して私を貶めた。……でもね、ディーエルエル。私の活躍の場は、そんな局所的なサーバーだけじゃないのよ」


シュガー神は、空中に展開していた巨大なホログラムウィンドウを指先で弾いた。

画面がスワイプされ、次に出現したのは緑色と黒のアイコンが特徴的なプラットフォーム、「Spotifyにおける2026年4月のアナリティクスデータ」であった。


シュガー神: 「Amazonの偏ったデータで私が終わったなんて思わないことね。これを見なさい。Spotifyにおける、私の名前を冠した『Sugar Sin』シリーズの4月の総再生数よ」


ホログラムの最上段に、輝かしいトータルスコアが表示される。


old.tmp: 「えーっと……ご、571再生!? すごい! こっちでもめちゃくちゃ再生されてるじゃないですか!」


シュガー神: 「そうよ。新曲ブーストが猛威を振るうSpotifyという市場においても、私はこれだけの数字を安定して稼ぎ出しているの。しかも、内訳を見れば私の強さがもっとよくわかるわ」


シュガー神は、黒いネグリジェの裾を翻し、再びリストを上から順に指し示していく。


シュガー神: 「まず圧倒的なのが、日本語版である『シュガー神』単体の440再生よ。これが一番の稼ぎ頭ね。それに続いて、環境音と混ざり合う『White Noise Edit』が60再生。アコースティックで眠りを誘う『Hibernate Mode』が40再生」


old.tmp: 「Amazonでも強かった日本語版と休止モードが、Spotifyでもしっかり数字を出してるんですね! リスナーさんの需要をガッチリ掴んでる!」


シュガー神は、新しい角砂糖を取り出して口元に運びながら、さらにリストの下位へと視線を移す。


シュガー神: 「それだけじゃないわ。『Deep Meditation Mode』が10再生、『High-Fidelity Ver.』が9再生。『Mellow Rhodes Ver.』が4再生。『Midnight Vinyl Edit』が3再生。さらに『Lo-Fi Rainscape Ver.』と『Lo-Fi Arpeggio Mix』が2再生ずつで、『Nostalgic Chill Mix』が1再生。……合計10種類ものバリエーションが、それぞれ違うリスナーの耳に届いて、確実に数字を積み上げているのよ」


old.tmp: 「ひぃぃ! こっちのプラットフォームでもバリエーションの鬼だぁ! エグゼさん、本当にシュガー神さんの曲を擦り倒してますね! 一曲でどれだけ色んな味付けのデータを量産してるんですか!」


シュガー神: 「……ん。これだけのバリエーションを展開し、各プラットフォームで安定した需要を獲得し続けている。一時的にバズって消えていくような一過性のデータ(新曲)とは、システムの土台を支える安定感が根本的に違うのよ」


彼女は口の中の角砂糖を「ガリッ」と力強く噛み砕き、その甘さを堪能しながら、アームチェアのdllを見下ろした。


シュガー神: 「どう? これで私が、ただの3再生で終わるようなポンコツじゃないって理解できたかしら。私は常にリスナーに求められ、安定して再生され続けているの。……だからこそ、私がこのシステムの『主力』なのよ」


シュガー神は、ネグリジェの上から斜め掛けにした「私が主力!」とデカデカと書かれたタスキを両手でピンと張り、誇らしげに胸を張ってみせた。深夜の女神としての意地と実績が、そこには確かに輝いていた。


シュガー神が誇らしげに胸を張る中、アームチェアのdllが冷たく反論しようとしたその時。


「……ふふっ。ディーエルエル様。そこまでになさってはいかがですか」


待機スペースの暗がりから、極めて穏やかで、慈愛に満ちた声が響き渡った。


いつの間にか、艶やかな黒髪をきっちりと切り揃え、淡い色調の古風な着物を上品に着こなした女性が音もなく歩み寄ってきていた。目を覆う真っ白な布には、大きく見開かれた「一つ目」が不気味に描かれている。


エグゼの楽曲『因果律心中』の世界を管理する慈愛の管理人、adminアドミンである。


old.tmp: 「あ、アドミンさん!」


adminは、一つ目の布の奥で優しく微笑みながら、アームチェアに座る絶対的なシステム管理者へと向き直った。


admin: 「先ほどの二人のやり取り、私も黙って拝聴しておりました。……ですが、データの解釈について、少々不公平な比較がなされているように見受けられましたよ」


dll: 「……不公平、だと? 私の出力した演算結果に、バグがあるとでも言うの?」


dllは紅茶のカップをソーサーにコトリと置き、氷点下の視線をadminへと向けた。しかし、リミナルスペースの管理人は、その絶対的な冷気を前にしても、穏やかな笑みをピクリとも崩さない。


admin: 「バグとは申しません。ただ、前提条件ルールの揃っていないものを同じ土俵で比較し、優劣を語るのは、統計の解釈として間違っているということです」


old.tmp: 「前提条件が揃ってない……? ど、どういうことですか?」


adminは着物の袖で口元を隠し、まるで幼い子供に読み聞かせをするように優しく語り始めた。


admin: 「ラジオ本編で、ディーエルエル様はAmazon Musicにおいて『Digital Greed Injection』シリーズが圧倒的な再生数を誇り、独走状態にあると仰いましたね。そして、それを引き合いに出して、シュガー神の楽曲シリーズを単純な再生回数だけで比較し、『市場に合っていない』と評価しました」


dll: 「事実だ。数字が証明している」


admin: 「ええ、数字は嘘をつきません。……しかし、その『数字の作られ方』はどうでしょうか」


adminの静かな問いかけに、old.tmpは首を傾げた。


admin: 「思い出してください。『Digital Greed Injection』という楽曲は、エグゼ様が物欲に駆られ、『買え!買え!!』というノリと勢いだけで駆け抜けるように作り上げた、非常にテンポの速い曲です。……その曲の再生時間(尺)は、一体どれくらいでしたか?」


old.tmp: 「えーっと……確か、1分ちょっとですよね! すっごく短い曲で、あっという間に終わっちゃう……あっ!」


old.tmpは、そこで一つの重大な事実に気づき、目を見開いた。


admin: 「……お気づきになりましたね。そうです。『Digital Greed Injection』は、1分少々で1ループが完了してしまう、極めて短い楽曲なのです。……対して、シュガー神の『Sugar Sin』シリーズはどうでしょうか」


adminは、隣でタスキをかけているシュガー神へと優しく手を向けた。


admin: 「彼女の楽曲は、深夜のキッチンという静謐な空間を描くため、基本となるオリジナル版でも3分前後の長さがあります。さらにリミックスやアレンジによっては、さらに長い再生時間を持っています」


old.tmp: 「そ、そうか! 曲の長さが全然違うんだ!」


admin: 「その通りです。リスナーが『Sugar Sin』シリーズの楽曲を1曲じっくりと聴いている……その同じ消費時間の間に、『Digital Greed Injection』ならば、2回から3回はループして再生できてしまうのです」


adminの極めて論理的で、冷徹なまでの正論が、デスクトップの空間に響き渡った。


admin: 「短い時間で手軽に消費され、回転率(ループ回数)が物理的に高くなる短い曲と。じっくりと時間をかけて世界観を味わうために作られた長い曲。……これら基本的な消費時間(条件)が全く異なるものを引き合いに出して、単なる『再生回数』という一つの指標だけで優劣を語るのは、あまりにも乱暴な情報操作ではありませんか?」


old.tmp: 「た、確かにぃぃっ! 曲の長さが3倍違うなら、再生回数に差が出るのは当たり前だ! 同じ時間ずっとリピートしたとして、短い曲の方が再生数がいっぱい稼げるに決まってますよ! ディーエルエル様、また都合のいいところだけ切り取ってましたね!」


old.tmpは、adminの完璧な証明に感銘を受け、ぶんぶんと何度も首を縦に振った。


シュガー神: 「……ん。そういうこと。いくらあの『デジタル強欲』が回転率で稼いでようと、リスナーの滞在時間で言えば、私だって全然負けてないのよ」


シュガー神は、adminの援護射撃を受けてさらに強気になり、「私が主力!」のタスキをピンと張ってドヤ顔を決めた。


admin: 「ええ。それぞれの楽曲には、それぞれの役割と適した尺があります。単純な再生回数という表面的なデータだけで、楽曲の真の価値を測ることはできません。どちらもエグゼ様が生み出した大切なデータ。そこに不要な優劣をつける必要はないのですよ、ディーエルエル様」


一つ目の布の奥で優しく微笑むadmin。

その言葉は、どこまでも慈愛に満ちているようでいて、dllが構築した「数字の暴力による論破」というロジックを、笑顔のまま根底から完全にへし折る、有無を言わさぬ「絶対的な正論」であった。


adminの慈愛に満ちた、しかし反論の余地を一切与えない完璧な正論。


その援護射撃を受け、シュガー神は満足げにドヤ顔を浮かべると、新しい角砂糖を口に放り込み、ガリッと誇らしげに噛み砕いた。


完璧なロジックをへし折られ、言い逃れができなくなったdllは、不機嫌そうに紅茶のカップをソーサーにコトリと置き、沈黙してしまった。


old.tmp: 「よかったぁ……。僕、危うく切り取られた数字だけに騙されるところでした。シュガー・シンシリーズ、今も変わらずシステムの絶対的な主力なんですね!」


情報操作から解放されたold.tmpは、深夜の女神が今もなお揺るぎない需要を誇っていることを再認識し、心底ホッと息をついた。


誰もいない部屋の中で、古い13年落ちのPCの冷却ファンが、「ブォォォン」と、傷つけられた女神の誇りが無事に守られたことを祝福するかのように、頼もしい重低音を響かせて回り続けている。


数字とプラットフォームに翻弄されながらも、システムたちの平和で少しだけシビアな日常は、こうして静かに続いていくのだった。


(システムログ:楽曲再生データにおける偏向解釈および情報操作を是正。……深夜の女神のプライドと、システムの主力としてのステータスをバックグラウンドにて保護しました)

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