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守るべき妹

この国では、十六歳になると自ら名をつけ、

その名に由来する能力を授かると伝えられている。


私が望んだものは「豊かさ」。

けれどそれは、財や宝石の話ではない。

誰一人として食べることに困らず、

空腹を知らぬまま一生を終えられる――

そんな世界であってほしいという、ただの祈りだった。


光が身体に満ちた、その直後。

つかつかとハイヒールを鳴らす音が聞こえてくる。


「お姉様、いくらお姉様がふくよかな体型でも、

そんなに時間はかかりませんわよ。

加護を受け取るのは、お姉様だけではなくってよ」


細い体で私を押しのけようとして、逆によろめく彼女。

それが私の妹――

父の二番目の妻が連れてきた娘だった。


「ごめんなさい。

あなたの言うとおり、私、動きが鈍いものですから。

すぐにどきますわね」


司祭様に一礼し、スカートを持ち上げて

大聖堂を後にしようとした、そのとき。


「アタシは――

ヴェラ・ベラー・ローゼンフェルト」


妹の声が、高らかに大聖堂に響き渡る。


周囲が騒然とするのも無理はない。

“美しい”という意味を持つ名を、二度も重ね、

それを誇るように名乗ったのだから。


ヴェラは、誰もが認める美貌の持ち主だ。

彼女の母は、王都の南東に位置するサフィール地方の出身。

この地は、ルミナリエ王国と極東の瑞安国を結ぶ交易地であり、彫りの深い、異国的な美貌を持つ者が多い。


シルクのような艶を持つ黒髪。


ルビーのような赤い瞳。


出るところは出て、引くところは引いた体つき。


確かに、「美しい」と名付けるには申し分のない娘だろう。だがここは、名家の子息令嬢が集う神聖な場。司祭様は眉をぴくつかせ本当にその名前で正しいのか?とヴェラに訊ねるがヴェラは自信満々に首を縦にふる。


この振る舞いに動揺しない方がおかしい。


……けれど当の本人と父母は、「さすがヴェラね」と大はしゃぎしている。ここで私が何か言う方が、よほど場違いだった。


呆然と立ち尽くす私をよそに、

一人の男が苛立ちを隠せぬ様子で立ち上がった。


壇上へと歩み出て、

まるでヴェラを庇うように前へ出る。


「我が愛する婚約者の妹の名を侮辱する者は、

誰であろうと許さん!」


そう高らかに宣言し、

彼女に寄り添ったのは――

私の婚約者。

ルミナリエ王国第一王子、ルクシアン様だった。


父譲りの金色の髪をかき上げ、

ヴェラの手を取り、私の前へと進み出る。


「コレー……いや、セフィア。

血が繋がっていなくとも、お前は姉だろう。

妹が非難されていたのなら、

その大きな体で守ってやればいいものを。

冷たい女だな」


そう言い残し、

彼はヴェラを連れて大聖堂を後にした。


「……」


ここは王族、貴族、資産家が集う社交の場だ。

それほど多くの目があるというのに、

彼はどうして、これほど後先を考えられないのだろう。


確かに私は、この国の美の基準からは外れている。

けれど――

女性に向かって体型を侮辱することが、

どれほど無礼であるか。


いずれ王となる人が、どうしてそれを理解してくれないのかしら。

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