第11章 最後の戦い
アルヴェオン王国歴一五二年、冬。
サンクタス城の執務室に、静寂が満ちていた。
夜の帳が降り、窓の外には白く染まった王都の街並みが広がる。街灯の光がぼんやりと雪の結晶を照らし、穏やかな冬の景色を生み出していた。だが、城内に響くのは、ただ燭台の火が揺れる微かな音と、紙を捲る冷ややかな音だけだった。
部屋の中央に広げられた巨大な円卓の上には、王国全土の詳細な地図が置かれ、その上には赤い印がいくつも刻まれている。その地図を、ルクスは鋭い金色の瞳で見つめていた。
その前に立つのは宰相ヴァルター。彼の指先が、次々と赤い印をなぞる。
「国内の各地で再び教団の暗躍が確認されています。」
低く、冷静な声が室内に響く。
「特に西部と北部では、光魔法を邪悪なものとする動きが活発化しており、都市部では密かに『王の光魔法は世界を滅ぼす』といった噂が流布されているようです。」
ルクスは沈黙したまま、机上の報告書をめくる。
——王国の小都市で、光魔法を使う旅人が暴漢に襲われた。
——市場で、王の光魔法が災厄を招くと叫ぶ者が現れた。
——とある貴族の屋敷で、教団の残党と思われる者が密談を行っていた。
「教団が、再びこの国に手を伸ばしている……。」
ルクスの呟きには、冷たい怒りが滲んでいた。
「ヴァイオレット襲撃事件に関与していた時点で、やつらがまだこの国を狙っていることはわかっていたが……思った以上に根深いな。」
ヴァルターは静かに頷く。
「捕らえた教団関係者によると、新たに強大な闇の力を有する最高指導者が誕生したとのことです。そして——世界から光魔法を排除するように、信者たちに行動を強く促していると。」
「それは許さない。」
ルクスの声が低く響き、部屋の空気を凍らせる。
燭台の火が揺れ、彼の金の瞳に映る。
「教団の実情を徹底的に洗い出せ。それと同時に——奴らの主張が誤っていると、改めて国内外に知らしめる必要がある。」
彼の声には、かつての冷たい復讐の炎ではなく、国を照らす確かな光が宿っていた。
「光魔法は人を照らし、救う力であることを示す。」
静かな決意の声が、城の夜闇へと溶けていく。
ヴァルターは微かに目を細めると、深く頭を下げた。
冬の冷たい風が、窓の向こうで静かに吹き抜けていった。
*
アルヴェオン王国歴一五三年、春。
西の空に春霞がたなびく頃、アルヴェオン王国の王宮には緊迫した空気が漂っていた。
サンクタス城の大広間。高窓に嵌め込まれたステンドグラスを通して、虹色の光が降り注ぐ。しかし、その華やかな光とは対照的に、室内の雰囲気は張り詰めたものだった。
アルヴェオン王国の招きに応じ、隣国レクスティアの使節団が到着したのだ。
かつてロマス帝国の自治都市であったレクスティアは、独立を勝ち取り、軍事力ではなく高度な外科医療技術を武器に中立を維持する特異な国家である。一度戦争が勃発すれば、負傷者の治療を担う代わりに「レクスティアの独立を保証させる」という立場を確立し、諸国の戦略に深く関わることなく、独自の発展を遂げてきた。
そのレクスティアへ、アルヴェオン王国は光魔法の医療応用に関する技術交流を持ちかけた。そして、交渉のために派遣されたのが——
分厚い絨毯の上を、整然とした足音が響く。
純白の法衣に身を包み、長いプラチナブロンドの髪を結い上げた女性が、堂々とした歩みで王座へと進む。その後ろには、医療都市レクスティアの学者や魔法医師たちが続いていた。
彼女の名は、クラリス・ヴァンレーヴェン。
レクスティアで「聖女」と称される最高位の魔法医師。冷たい青の瞳が、玉座に座るルクスを一瞥し、わずかに眉を寄せる。
「お招きに感謝いたします。」
凛とした声が大広間に響く。
「……アルヴェオン王国の光魔法技術が、医療に応用できるというお話でしたが。一体、光魔法はベッドを照らす以外に、どのように使ったらよろしいのでしょう?」
挑発するような言葉。
だが、ルクスは微動だにしなかった。
「今から、その目で確かめてもらおう。」
指示を受けた王立工学院研究員が前に進み、腕に抱えた魔道具を示す。
「こちらは、光魔法を利用し、身体に負担をかけずに血液中の酸素濃度を測定できる装置です。」
研究員が装置に指を入れると、淡い光が灯り、即座に数値が表示された。
クラリスは興味深げにそれを覗き込む。
「……つまり、患者の酸素状態を即座に把握できると?」
「その通りです。」
次に、別の研究員が何枚かの用紙を差し出す。そこには——
人間の骨格を鮮明に映し出したX線画像が並んでいた。
「これは?」
クラリスが僅かに眉をひそめる。
「光魔法を用いた体内診断技術によって撮影したものです。」
その言葉に、レクスティアの使節団がざわめいた。
「……光魔法で、生きたまま骨を視認できると?」
「そうです。骨折の診断や内臓の異常の早期発見に役立ちます。」
驚愕と感嘆が広がる。
長らく「照明」としてしか認識されてこなかった光魔法が、ここまでの医療技術に結びつくとは——。
クラリスはしばらく黙考した後、ようやく静かに口を開く。
「……これほどの応用ができるとは、驚きました。」
ルクスの金の瞳が微かに光る。
「まだ納得できないか?」
クラリスは一瞬口をつぐみ、そしてゆっくりと頭を下げた。
「ルクス陛下。先ほどは大変失礼いたしました。」
青い瞳が真っ直ぐにルクスを見つめる。
「我が国レクスティアとアルヴェオン王国の間で、光魔法の医療応用の共同研究を正式に進めさせていただければと存じます。」
その言葉と共に、大広間の空気が和らぐ。
ルクスは静かに頷いた。
——こうして、アルヴェオン王国の光魔法研究は、国際的な舞台で新たな一歩を踏み出した。
*
サンクタス城の一室。大理石の床に敷かれた深紅の絨毯が、柔らかな灯火に照らされている。分厚いカーテンの隙間から、夜の風が微かに入り込み、静謐な空気を揺らしていた。
王宮での公式な会談を終えた後、アルヴェオンとレクスティアの技術者たちは、より踏み込んだ技術交流の場を設けることになった。そこには、ルクス、ヴァイオレット、宰相ヴァルター、ガイゼル、そして聖女クラリスの姿があった。
クラリスは、ゆっくりとテーブルの上に手を置き、深い青の瞳でルクスを見つめる。
「この国が、教団に狙われていることは存じ上げています。」
その一言に、場の空気が引き締まる。
「それについて、お伝えしたいことがあります。」
ルクスがわずかに眉をひそめた。クラリスは一度、息を整え、慎重に言葉を紡ぐ。
「……私は、今の教団の最高指導者、闇影の司祭であるアルヴァという少年と、かつて会ったことがあります。」
その名が発せられた瞬間、部屋の温度が下がったように感じられた。
「治療を試みたのです。ですが——失敗しました。」
ルクスは腕を組み、沈んだ視線をクラリスに向けた。
「……どういうことだ?」
クラリスの指先が、僅かに震える。それを悟られまいと、彼女は静かに続けた。
「彼は、生まれつき、太陽光や光魔法によって全身が焼け爛れる病を持っていたのです。」
クラリスの声には、治療の道を閉ざされた医師の無力感が滲んでいた。
「私も、幼い彼を救おうと、あらゆる手を尽くしました。ですが、レクスティアの医療技術をもってしても、彼を光の下で生きられるようにはできなかった。」
「それで……?」
ルクスが促すように言葉を投げる。
クラリスは瞳を伏せた。
「彼は、それを”光の呪い”だと考えるようになったのです。」
その瞬間、沈黙が落ちた。
「彼は、最初こそレクスティアで生きる道を模索していました。彼の強い闇の力を活かせる術を探していた。しかし、光に隔絶された彼を受け入れられるところはほとんどいなかった……。」
「そのとき、彼に手を差し伸べたのが——教団だった。」
静かな告白が、重くのしかかる。
ルクスは目を閉じ、低く呟いた。
「……光そのものが、彼にとっての苦痛だった、ということか。」
「ええ。そして、彼は教団の思想に染まり、『光を憎み、滅ぼすべきもの』とするようになったのです。」
ヴァイオレットが、ふと視線を鋭くする。
彼女はしばらく考え込み、やがて静かに口を開いた。
「……もしかして、それは色素性乾皮症という病では?」
ルクスが僅かに目を細め、彼女を見つめる。
「色素性乾皮症……?」
ヴァイオレットは、深く息を吸い込み、慎重に言葉を選んだ。
「遺伝子の異常によって、紫外線という特定の波長の光を浴びると皮膚がただれ、水疱ができる病があります。型によりますが、進行すれば、神経系にも影響を及ぼし、運動機能や認知能力にまで障害をもたらすこともある……。アルヴァの症状は、それに酷似しているのではないでしょうか?」
クラリスは息を呑むように、彼女を見つめた。
「……そんな病が……。」
ヴァイオレットは、無意識に指先を握りしめる。
「でも、それならば——光そのものを排除するのではなく、紫外線だけを闇石で吸収し、除去する技術を確立できれば……彼は、光の下で生きられるかもしれない。」
クラリスの瞳が驚きに揺れる。
「そんなことが……可能なのですか?」
「理論上は可能です。」
ヴァイオレットの声は確信に満ちていた。しかし、すぐに表情を曇らせる。
「でも……彼がそれを受け入れるかは、また別の話ですが。」
部屋に沈黙が落ちた。
ルクスは椅子の背にもたれ、目を閉じる。
「それでも……試す価値はある。」
彼の声には、確かな決意が込められていた。
剣を交えるだけが、戦いではない。
光と闇の間に築かれた、この深い隔たり。
——それを乗り越える道が、今、見えかけていた。
*
数日後、聖女クラリスは、アルヴェオン王国の王宮を後にする日を迎えていた。聖女が自国を留守にできる期間は、そう長くない。彼女は共同研究のため使節団を置いて、先に帰るのだった。
朝の光が差し込む大広間。淡く輝くステンドグラスが虹の模様を床に映し出す。その中心に立つクラリスは、ルクスへと静かな視線を向けた。
「もし......アルヴァを止めることができたなら、彼に伝えてください。」
彼女の青い瞳は真っ直ぐだった。
「復讐ではなく、未来を。必ず紫外線を防ぐ方法を開発します。もし彼が望むなら、レクスティアの医療団へ迎え入れます。」
ルクスは微動だにせず、彼女の言葉を聞いていた。そして、しばしの沈黙の後、小さく頷く。
「……わかった。」
クラリスは深く一礼すると、従者たちと共に王宮を後にした。その背中は、医療の未来を切り拓こうとする者の決意を映していた。
*
そこから半年——。
レクスティアの使節団と、アルヴェオン王国工学研究院の研究者たちは、王都ミナスの一角に設けられた臨時研究所で、光魔法の医療応用に関する共同研究を本格的に進めた。
ヴァイオレットは光魔法使いとして中心的な役割を担い、時にはルクスも研究発表に立ち会い、技術開発の指針を示した。
新たに発表された技術は、次々と人々の目を引いた。
——光魔法を利用した小型酸素飽和度測定装置。
患者の酸素飽和度を指先で測定する超小型装置。ベッドサイドの使用を想定。
——紫外線による殺菌技術。
熱で滅菌できない医療機器に対する画期的殺菌方法。
——光魔法を応用したレントゲン写真技術。
生きたまま体内を透見する技術。
学会の場で、研究者が研究成果を発表すると、聴衆の間から歓声とどよめきが広がる。
光魔法は、人を傷つける呪いではなく、人を救う力である——その事実が、確かに証明されつつあった。
「……これもまた、光魔法の可能性か。」
研究発表を静かに見つめながら、ルクスは呟いた。
かつて、光魔法は光ることしかできない、忌み嫌われる存在として扱われてきた。
しかし、今。
それは人々の命を救い、未来を照らすものへと変わろうとしている。
ヴァイオレットが隣で微笑む。
「あなたが作り上げた光は、確かに広がっていますよ。」
ルクスはふと目を伏せ、静かに息をつく。
「……そうだな。」
彼の胸の奥に、かすかに温かいものが広がるのを感じていた。
*
アルヴェオン王国歴一五五年、春。
陽光が差し込むはずの執務室には、しかし重々しい空気が満ちていた。
黒檀の椅子に腰掛けるルクスは、鋭い視線で集まった軍の要人たちを見渡す。その傍らには、宰相ヴァルターが控え、静かに巻物を広げた。
「ここ数ヶ月、教団がついに本格的な動きを見せ始めました。貴族の暗殺、暴動の扇動、光魔法使いへの襲撃……。」
低く抑えたヴァルターの声が室内に響く。
「先日捕らえた信徒の供述によれば、彼らの本拠地アンブリスでは、大規模な動きが計画されているとのこと。」
ルクスは静かに報告を聞いていたが、やがて低く、しかしはっきりと言い放つ。
「限界だ。」
その一言に、場の空気が張り詰める。
「これ以上、放っておくわけにはいかない。」
長らく続いた教団との攻防——だが、これが決定的な最後の一手になる。
会議の間が静寂に包まれる中、ルクスはゆっくりと立ち上がった。
執務室の高窓へと歩み、差し込む朝の光を背に受けながら、静かに言葉を紡ぐ。
「アンブリスを制圧する。教団の影響を、この国から完全に排除する。」
参謀たちが顔を見合わせ、ヴァルターが淡々と続けた。
「ノルデン皇国との連携が不可欠です。単独ではアンブリスの防御を突破するのに時間がかかる。すでにセレナ皇太子には使者を送ってあります。」
ルクスはわずかに頷いた。
「南北からの挟撃で、一気に制圧する。私も光魔法使いとして出る。」
その言葉に、場の空気が揺れた。
「陛下、自ら戦場へ?」
驚きを隠せない将官たちを前に、ルクスの金の瞳が静かに光を帯びる。
「この戦いを終わらせるのは、俺の役目だ。」
その声には、一切の迷いも、ためらいもなかった。
ルクスの長き戦いが、今、決着を迎えようとしていた。
*
アンブリスを見下ろす丘陵地帯に、アルヴェオン王国軍の陣が広がっていた。無数の軍旗が風にはためき、夜闇を照らす篝火の灯が、揺れる影を幕舎の中へと落としている。
中央の指揮幕の中、ルクスは広げられた地図を見下ろしていた。
「都市全体が闇魔法に覆われている。正面突破は得策ではない。」
指で地図をなぞりながら、彼は静かに続ける。
「ここに、要となる闇魔石が設置されている。これを破壊し、その隙をついて、一気に突入する。」
幕舎の中に、緊迫した沈黙が落ちる。軍の参謀たちは、地図を睨みながら、各自思索を巡らせていた。
「しかし、問題は信徒たちです。」
「教団の狂信者はともかく、多くの者は洗脳されているだけ。戦う意志がない者もいるはず……。」
ルクスは目を伏せた。
「光魔法を使い、精神操作を解除しながら進む。だが、それでも狂信的な者たちは戦いを止めないだろう。」
彼の指が、剣の柄を握りしめる。
「それでも——私はやらなければならない。」
長きに渡る教団との戦いは、いよいよ最終局面を迎えていた。篝火の炎が揺れ、ルクスの金の瞳に決意の光が宿る。
*
黒い霧が街を覆い尽くしていた。
かつての繁栄を思わせる面影はなく、闇魔法の結界が空を閉ざし、光すら呑み込もうとしている。死の静寂が漂う中、その南門前に、アルヴェオン王国軍が整然と並んでいた。兵士たちは剣を握りしめ、兜の下で静かに息を整える。
彼らの指揮を執るのは、王——ルクス・アルヴェオン。
黄金の髪を夜闇に靡かせ、彼は静かに戦場を見据えた。
北側には、ノルデン皇国の軍勢が布陣しているはずだ。南北からの挟撃。これで、一気に教団の本拠を制圧する。
ルクスは、ゆっくりと剣を掲げた。
「突入する——!」
その声が響いた瞬間、彼の剣が眩い閃光を放つ。
純白の光が闇を裂き、空間を震わせながら一直線に結界を貫いた。
瞬間、黒い霧が裂けるように揺らぎ、南門の封印が崩れ落ちる。
その刹那、戦の火蓋が切って落とされた。
*
街の中央まで、信徒たちを切り伏せながら進み、無事に北方からのノルデン皇国軍と合流した。
市街の信徒たちは全て無力化した。残されたのは、中央の地下に作られた、常闇の地下宮殿。そこに、最高指導者である、闇影の司祭アルヴァがいるという。
地下へと続く石の階段を踏みしめるたび、空気が重くなっていった。
アンブリスの地下宮殿——そこは闇に閉ざされた迷宮だった。壁を這う燭台の火は青白く揺らめき、湿り気を帯びた空気が肌を冷やす。進むにつれ、まるで影そのものが生きているかのように、闇がうごめいていた。
「気を抜くな。」
ルクスの低い声が響く。後方を進む兵士たちが、一斉に武器を握り直した。
やがて、崩れかけた回廊を抜けると、巨大な扉がその姿を現した。
分厚い黒鉄の扉には、教団の紋章——太陽を喰らう闇、日蝕の刻印が刻まれている。それはまるで、光を拒絶する誓いそのものだった。
ルクスは立ち止まり、静かに背後を振り返る。
「セレナ殿下。」
名を呼ばれた少年は、ぴくりと肩を揺らした。
「光魔法を放つとき、決して紫外線を含ませてはならない。」
「えっ?」
セレナの碧い瞳が驚きに揺れる。
「彼にとって、光は死を意味する。だが——今日、その運命を変える。」
ルクスの声は静かだったが、その響きには確かな意志があった。
剣を収め、ゆっくりと手をかざす。
指先から淡い光が零れ、扉を覆い隠す闇の魔法を解いていく。
低く、鈍い軋みとともに、扉がゆっくりと開かれる。
その向こう——果てしない闇の中に、彼らの宿敵が待っていた。
*
その部屋は、闇に閉ざされていた。まるで光が存在しないかのように、闇がすべてを支配している。空気は冷たく、湿り気を帯び、かすかに薬草の匂いが混じっていた。
ルクスはランプを持って前へ進む。
そして——闇の中に、震える人影を見つけた。
「……やめろ、やめてくれ、僕を光魔法で照らすな……!」
かすれた声が響く。
そこにいたのは、幼い少年だった。やせ細った体を黒衣で包み、長い闇色の髪が床に垂れ落ちている。全身が傷跡とただれにおおわれた皮膚がかすかにランプの光を反射した。
黄金の瞳が、怯えと憎しみに満ちていた。
「お前が……アルヴァか。」
ルクスは静かに言った。
少年は睨むように顔を上げる。
「お前も……光の使い手か……ならば、許さない……光魔法は、僕を焼く……太陽の光は、僕を壊す……!」
ルクスは答えず、ゆっくりと手を掲げた。指先に淡い光が灯る。
「……やめろ……!」
アルヴァが叫ぶ。
しかし——
痛みは訪れなかった。
「……?」
少年の目が見開かれる。
光の中で、自分の肌をじっと見つめる。焼け爛れることもなく、苦痛に襲われることもない。
ルクスは、静かに言った。
「お前は、光を憎む必要はない。」
アルヴァの瞳が揺れた。
「嘘だ……僕は……光魔法にあたれば死ぬはず……!」
「違う。お前を苦しめていたのは、光の中のほんの一部だ。俺たちは、その光だけを取り除いた。」
アルヴァの細い手が、震えながら光へと伸ばされる。
温かい光に包まれながら、彼は泣きそうな顔で囁いた。
「……こんな……こんなこと、あるわけ……ないのに……!」
*
ルクスは、ゆっくりと口を開く。
「俺は、光魔法を持つがゆえに捨てられた。」
アルヴァがルクスを見る。
「お前も、光によって苦しめられた。」
ルクスの金の瞳が、まっすぐに少年を見つめる。
「俺にはお前の気持ちが少しわかる。お前は、生きるために光を憎むしかなかったんだろう。」
アルヴァの瞳が、大きく揺れる。
「生きるために……?」
「そうだ。」
ルクスは歩み寄り、そっと手を差し出した。
「お前の病に対する対策が見つかった。医療都市へ行け。聖女がお前を待っている。」
アルヴァは、その手を見つめたまま、何も言えなかった。
ルクスがそっと囁く。
「もう、闇の中で生きなくていい。」
オルヴァスの目から、涙が零れ落ちた。
彼は震えながら、ゆっくりとルクスの手を取った。
こうして——教団は終焉を迎えた。




