食べにくいんだよこれ
家から二駅くらい離れたショッピングモールに来た。
イチカはまず、服を買いたいと言った。
年頃の女の子というのはなんで買い物が好きなんだろう。買い物はすればするほどお金が減っていくものなのにね。
お金を使うのが好きなのかな。
だとしたら浪費癖は直すべきだ。無駄遣いはいいこと無いからね。
「見て! お兄ちゃん! 似合うかな?」
ピンクのパジャマを肩に合わせながら言ってくる。
「あぁ、似合うと思うよ」
「やったー! じゃあ、買って!」
弾けるような笑顔で、くるくると回りながら嬉しそうに言う。
あざといな。
服は結局買ってしまった。あれだけ押されたら、さすがに断るのが億劫になる。まぁ、父方の祖父が大企業の部長をやってるからお金はたんまりとあるし、特に困ることもないからいいんだけどね。
昼食は服屋の隣のスイーツ店で食べることになった。
「おいひーねー」
すごく食べにくそうなでかいパフェを頬張りながら、同意を求めるようにこちらを見てくる。
「うん、おいひいね」
このパフェがやたらと食べにくいせいで、テンションが下がる。
美味しいけどね。味と食べにくさが釣り合わないっていうかね。
「ねぇ、ちゃんと聞いてるの?」
イチカが不機嫌に言う。
まぁ、聞いてはいるよ。多分。
「というか、そんなでかい物、食べにくくないのか?」
さっきから気になっていたことについてイチカに質問する。
「全然! 食べにくくなんかない……」
イチカが嘘をついていることは見ればわかる。
スプーンでパフェをつつくたびに、パフェの上のでかいクリームがぐらぐら揺れて、今にも机の上に落ちそうだからだ。それに、少しでもクリームが揺れるたびに妹は動揺している。
俺は大きなため息をついた。
それと同時に事故が起こった。
「「あ……」」
クリームが机に落ちた。すごくもったいない。
イチカが持ち合わせたハンカチでクリームを拭い、パフェの残りを食べ終わった彼女と店をあとにする。
しばらく歩くとイチカが俺の手をぎゅっと握った。
そして、俺のことを見据える。俺もまた彼女の目を見つめる。多分何かしらの考え事をしているんだと思う。やっぱりさっきの親父の話を聞いてたんだろうな。この時、疑念が確信に変わった。
特に何を言うわけでもなく二人で歩く。しかし、その間に割って入る不届き者がいた。
「おい! イチカ! 誰だよその男!」
声の聞こえた先には、大衆の目の前で無神経に大声を出す高校生くらいのガキがいた。
俺は心のなかで舌打ちをする。なんだかよくわからないが、とにかく不快だ。
「あ、エイジくん!」
イチカが言う。
そのエイジとかいうガキは、偉そうにズカズカと歩いてくる。
「エイジくんとか言ったか? 『誰だよその男!』はこっちのセリフだ! あと、恥ずかしいからでかい声を出すな!」
ムカつくガキに言い放つ。
それを聞いたムカつくガキは顔をしかめた。
俺は俺とムカつくガキの間で舞う火花を幻視した。
クソガキは憎しみ、俺は苛立ちを互いにぶつけ合う。
憎まれるようなことをした覚えは無いんだけどね。不思議だな。
突然のことで困惑していたイチカがやっと口を開く。
「待って! エイジくん! この男の人は、私のお兄ちゃんだから! なんか、そういう関係じゃないから!」
そういう関係ってなんだよ。まさかとは思うけど『そういうエロい関係』か?
だとしたらとんだ勘違いをしてくれたもんだ。
「えっ! お兄さん……!?」
ガキが懐疑の目を俺に向ける。
顔が似ていないし、何よりも明らかに歳が離れすぎているからだと思う。しかし、それは当たり前だ。なぜなら血がつながっていないのだから。
「おう、お兄さんだ。なにか悪いか?」
俺は牽制も兼ねて、苛立ちを一切隠さずに言う。
「……えぇと…… し、失礼しました……」
とりあえず言っているだけだと思う。そういう適当なやつは嫌いだ。
「あ! お兄ちゃん、紹介するね! この人は、私の彼氏のエイジくん! 他のみんなには秘密にしてるんだー!」
「ふーん……」
はっきり言って俺はショックを受けた。
俺は彼女ができたことなんて一度もないのに。こうやって俺はおいていかれるのか。なんとも言えない悲しい気持ちになるよね。こういうの。
「で! エイジくん! これが、私のお兄ちゃんの『シゲル』です!」
「え……? 本当に……?」
未だに懐疑の目を俺に向けるエイジにキツめの言葉をぶつける。
「なんだ? 文句でもあるのか?」
「いいえ……」
そのうちに、『本当に血がつながっているのか』とかイチカに訊き出しそうな気がする。つながってたら失礼に当たるぞ。まぁ、血はつながっていないんだけど。
とか考えているうちに、エイジはこっそりとイチカに耳打ちをしようとする。
イチカもそれに応じる。
「本当に、イチカちゃんとお兄さんは血がつながっているのか? 顔もぜんぜん違うし…
…歳も……」
丸聞こえだし、俺がさっき考えた通りのことを言った。それも目の前で。本当に血がつながっていたなら、失礼になるかもしれないとは考えなかったのか?
イチカの答えを待つエイジとは裏腹に、イチカはただ、黙り込んだ。
ということは、やっぱり聞いていたんだ。
空気も大分悪くなってしまったので、俺はイチカの手を取る。
「よし、帰るか!」
気まずくなったのでイチカを連れて帰ることにした。エイジがこちらを睨んでいるが、ほうっておく。関わったっていいこと無いもんね。
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