〇〇ババア-夢で見た怪談‐
気が付くと家の近くの路地裏にいる。直前の記憶を掘り起こすと、両親と共に車に乗っていたはずで、自分の隣には見知らぬ老婆がまるで親しい家族のように座っているにも関わらず、違和感を感じていなかった。
何故車から降りているのかは分からないが、猛烈な焦燥感に襲われる。
老婆に心当たりがあった。〇〇ババア(〇〇の部分の正式名称が思い出せない)と呼ばれる都市伝説上の存在で、遭遇した人を殺してしまう。
車が家に戻るまでに、家に戻らなければならない。でなければ脱落したとみなされて、死んでしまう。
今車は何処にいるのか、急げ…急げ…。焦りが足を急がせるが、緊張と恐怖からもつれてしまい上手く走れない。
夜道を必死に走って全身に酷い汗をかき、ようやく家が見えてきた頃、道路の反対側から明かりが近付いてきた。
車だ。両親の乗った車。あれが辿り着くまでに、家の敷地内に入らなければならない。
もつれる足を必死に動かして、家へと向かう。どんどん迫る車。呼吸が苦しいが、止まったら終わってしまう。
お願いだ。間に合ってくれ。まだ死にたくない。
…なんとか、本当にギリギリで、車より先に敷地に入れた。
直後に自宅の敷地内に入った車は一度車庫に止まり、数分後にまたエンジンをかけて出ていく。
自分は助かったのだろうか?わからない…。
…でも、このままでは両親がまずい。
見慣れたはずの家の前の道は、心なしか何時もより細く感じる。
…確か記憶が正しければ、老婆は直接的な危害は加えてこず、むしろ非常にフレンドリーなはずだ。
しかし何故か家の周りの道を延々と車で回らされる。一定時間内に戻ってこれなければゲームオーバー。老婆は牙を剥き、車に乗っている人は全員死んでしまう。
車が戻ってきて、車庫へと入る。
ガリッっという音が響いた。車の側面が、車庫と擦った音だ。
車庫の幅が狭くなっている。まだ余裕はあるが、普段より狭い幅に間隔が狂ったのだろう。
老婆の恐ろしい点はここだ。今自分のいる場所は、厳密には自宅ではない。精巧に再現され、現し世から隔離された異界。
一周回る毎に、少しずつ…少しずつ…道幅が狭くなってゆく。
何れは車の通れぬ程に道は細くなり、走る事が出来なくなる。
そうして時間が来たら、ぐちゃり…と、この世からお別れすることになる。
記憶が正しければ、そういう怪談だったはずだ。
タイムリミットが来る前に、老婆を何とかしなければいけない。
幸い何故か電波は通じているようで、スマホで検索する事はできる。しかしどうしても、〇〇ババアの〇〇の部分が思い出せない。
思い出せ。自分は記憶に自信があったはずだろう。
必死に頭を捻る。関係ありそうなキーワードを何度も打ち込んで、検索する。しかし一向に、それらしき内容の掲載されたページは見つからない。
…あれから車は何周しただろう?道は目に見えて細くなり、あちこちぶつけた車体は擦り傷まみれになっている。
しかし両親は何の疑問も持たないかのように、老婆と談笑をしながら再び出てゆく。
時間がない。焦りばかりが募り、無情にも時は過ぎてゆく。止まらない冷や汗が全身をびっしりと濡らし気持ち悪い。でも、そんな事を気にしている場合じゃない。
ふと、頭の中を一つの単語が過った。
スマホに〇〇ババアと打ち込んで検索する。ヒットした。都市伝説や怪談をまとめたサイトにアクセスし、食い入る様にその説明を読む。
老婆には物理的な対処方法が有効…これだ。
次に車が戻ってきた時、自分は車庫の中の僅かな隙間を通って後部座席のドアを開いた。そうして親しげに自分の名を呼ぶ老婆の首に、自分は何かを刺した。
老婆はびくりと震え、その後手足を振り回して暴れた。しかし、それだけだった。
首から夥しい血を噴き出しながら、
「〇〇ちゃん、どうしたの?」
と、老婆は優しく自分の名を呼んだ。
そうして再び時間が来たのか、車は家を出ていった。
何故?なんで?どうして?これで解決するのではなかったのか?
自分は再び紹介ページに目を落とし、そうして見つけた。
※この対処方法は、20〇〇年✕月以降効かなくなったらしい。原因は人々が、弱い化け物を望まなかったからか。
…都市伝説は変化するものだ。より恐ろしく、より面白おかしく、人々が噂をすればするほど強くなっていく。
普段楽しんでいた存在を、自分は呪った。そして続きを読んだ。
代わりにこの日以降、老婆には呪文が有効です。以下の三つの呪文を唱える事で、老婆を倒すことができます。
書かれている呪文は、小難しい言葉を逆さから読むものだった。
唱えようとしても、うまく口が回らない。恐怖からくる緊張と震えが、自分から滑舌を奪っていた。
不味い不味い不味い。
指が画面の上で滑ると、呪文の下には続きがあった。
※三体のうさぎの人形に、呪文を書いた紙を一枚ずつ持たせて老婆に渡す事でも効果がある。
これだ。これならなんとかなるかもしれない。
自分は家の中に入り、有名なうさぎの家族人形を三体手に取り、ノートを破った。
震える手で、紙片に呪文を書いてゆく。蚯蚓ののたくった様な文字で、普段なら思わず笑っていただろう。
二回書き直して、なんとか読める呪文の書かれた紙が一枚できた。それをうさぎ人形に、セロテープでぐるぐる巻きに固定していく。
車のエンジン音がする。また戻ってきたのだろう。
なんとか完成した一体を手に持ち、再び車庫へと向かった。
老婆は変わらず首から血を噴き出しながら、ニコニコと笑っていた。
恐怖を押し殺し、自分は話しかけた。
「お婆ちゃん、これ持ってて」
老婆はうさぎ人形を受け取った。
ぼこりぼこりと、老婆の身体が歪に歪み、その姿にノイズが走った。どうやら、効いているらしい。
老婆はうさぎ人形を、まるで雑巾を絞ったかのように握りつぶしたが、手を離すことはなく、ニコニコとしたままだった。
そうして再び、車は車庫を出ていった。
早く残り二体のうさぎ人形を作ろう。そう思って家の中に戻ろうとした時…
ヤエノ「ここで電話が来て目が覚めたんだ><心臓がバクバクしていて、身体がうまく動かなくて、10分ぐらいお布団から出られなかった〜…」
ヤエノ「夢の中だと検索に成功した後は〇〇ババアの名前を覚えていたし、呪文もはっきり認識できていたんだけど、目が覚めたら忘れちゃった〜><実在する都市伝説或いはSCPなのか、それとも夢の中だけの存在だったのかはわからないや。もしこの内容になんとなく覚えのある方がいたら、教えてほしいなぁ」