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【3話】順調に進む復讐と面倒なイベント


 それから三か月が経ち、季節は夏を迎えていた。

 

 ギラギラとした太陽が、天から王都を照らしている。

 ルーブルの窓際テーブル席に座りながら、シルフィはその様子を眺めていた。

 

「今日も暑いね、ルリル」


 シルフィの対面に座っているグレイが、アイスコーヒーを口に含んだ。

 

 ルーブルでグレイとお茶するのも、これで十回目くらいだろうか。

 ルリルとして接近したあの日から、週一日の休日はこうして彼と会っている。毎週欠かさずだ。

 

 やることはいつも同じ。

 とりとめのない話を、夕方まで続ける。

 そして最後に『また来週』と言って、分かれるのだ。

 

 シルフィは飽き飽きしているのだが、グレイは毎回楽しそうにしている。

 それほどまでに、ルリルという女性に入れ込んでいるのだろう。

 復讐は順調だ。

 


 そうして、いつもみたくつまらない雑談を続け、正午過ぎになった時。

 

「ごめん、今日は先に帰らせてもらうよ」


 そう言ってきたグレイは、とても申し訳なさそうな顔をしている。

 婚約破棄してきた時より、百倍くらい申し訳なさそうだ。

 

(なんだか無性に腹が立つわね)


 イライラするシルフィだったが、顔に出ないよう頑張って抑える。

 

「どうされたのですか?」

「ちょっと予定がね」


 理由を尋ねてみたシルフィだったが、早く帰る理由は既に知っていた。

 この後グレイは、シアンとデートする予定があるのだ。

 

 

 それは昨日のこと。

 学園の庭園でシアンとグレイが話していたので、シルフィはそれを隠れ見ていた。

 

「グレイ様、明日はデートに出かけませんか?」

「前にも言ったと思うけど、休日はいつも予定が入っているんだ。デートなら放課後でいいじゃないか」

「婚約者の私より優先しなくちゃいけない予定って何ですか!」


 シアンの怒鳴り声が庭園に響く。

 

 ビクッと体を震わせたグレイは、「お、落ち着いて」と声をかける。

 しかし、シアンは止まらなかった。


「明日は絶対に私とデートしてもらいます!」

「いや、だから予定が――」

「これは絶対です!」


 そう言って、シアンは庭園を去って行った。

 

 

 あれだけ強く言われてしまった以上、仕方なくデートに行くことにしたのだろう。

 

 しかしシルフィは、グレイをこのままデートへ行かせる気はなかった。

 身を乗り出し、グレイの両手をぎゅっと握る。

 

「行かないでください……!」


 押し出すような切ない声を上げる。

 

 大きく目を見開いたグレイは、ただただ驚いていた。

 

「ご、ごめんなさい!」


 急いで手を引っ込め、座り直すシルフィ。

 バツが悪そうに下を向く。

 

「グレイ様と離れるのが寂しくて、私、つい……。本当にごめんなさい。迷惑でしたよね」

「いいや、そんなことはないよ!」


 今度はグレイが身を乗り出して、シルフィの両手を握った。

 

「たった今、僕の予定は無くなった。だから、今日もいつも通りだ。夕方まで、ルリルと話をする」

「よろしいのですか?」

「あぁ。僕の予定よりも、ルリルと過ごすこの時間の方が大事だからね」


 キメ顔でそう言ってから、グレイは恥ずかしそうに笑った。

 

(婚約者とのデートをすっぽかすとか、最低な男ね)


 心底呆れているシルフィだったが、満面の笑みで「ありがとうございます!」とお礼を言った。

 

 それからは、いつも通りの会話が始まっていく。

 

 

 時刻は夕方になる。

 

「本日もありがとうございました。それでは、また来週お会いしましょう」

「ちょっと待って」


 帰ろうとしたところを、グレイに呼び止められる。

 

「来週はルーブルじゃなくて、外へ買い物しに行こうよ」


 なんとも面倒なことを言ってきた。

 

 復讐相手との買い物なんて楽しめるはずがないし、断ってしまいたくなる。

 

 しかしその誘いを断れば、親密度が下がってしまう可能性がある。

 せっかくここまで順調に来ているのに、マイナスなことをしたくない。

 

「良いですね! グレイ様とのショッピング、とっても楽しみです!」

「ルリルならそう言ってくれると思ったよ!」


 こうして、来週のデート内容が決まってしまった。

 面倒なことこの上ないイベントに、シルフィは心の中でため息を吐いた。

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