水没
スマホが水没した。
書きかけの日記があったので大分萎えている。
あんなもん何百字程度なんだから秒で書けんだろと言えばそうだが、書きかけがなくなると何も書いてない時より五倍くらい萎えるだろ。
さっそく貰った金が役に立つ気がしたが、連絡を合法的に全無視できる理由になると思うとちょっと迷った。
まあ、明日買いに行くけど。
ちなみに、日記は紙でもいい。
なんなら壁でもいい。誰かに見せる必要もない。
維持したいだけなら、ただ有ったことを書いていればいい。なんとも楽な解決法だ。
日記をやめてみたらどうなるのか考えたことはある。
別に、単にあれに琴浪█という形が与えられないままもっとずっと得体の知れないものになって、色んな人間を引き寄せて取り殺すようになるだけである。
別に、あれは同じ名前と同じ魂を持つだけの別人で、俺の思い出の中の█は何も変わらないままなので良しとすればいいだけである。
それが出来るならこんなアホなことはしていない。
魂が同じだけの存在に救われるなんてことはないのに、魂が同じだけの存在は救わなければならない。そういうもんだ。意味が分からんよな。
警察官になりたかったんだと。
目が悪くなり始めてから心配して変に落ち込んでたりしたな。
コンタクトすりゃ目が悪くてもなれるらしいぜと教えてやったらほっとしてたけど。
それより運動音痴のがやばいんじゃねとも言ったら泣き出したので普通に怒られたけども。
どいつもこいつも、あれを間違いなく琴浪█として認識する。
夢で会っただけで。そう名乗ったからというだけで。姿形がそうであるというだけで。魂がそうであるというだけで。
俺もそうだと思うよ。
でもそうでもないよ。
俺の弟は警察官になりたかったんだよ。
空き家の幽霊じゃなくてさ。
久々に紙に書いたから文字が汚ねえ。
「こんな簡単なことでいいんすか」
「簡単? これが簡単に思えるのは君が君だからだ。そして彼が琴浪█くんだから、という話でもある」
「………………」
「嫌になったらいつでも辞めていい。今に何者でもない何かになるだけだし、その時は俺を呼んでもいい。まあ、君のことだから、きっと呼ばないだろうが」




