勧誘
バカがアホの家族に襲われたらしい。
二週間ほど前の話だ。
アホこと呉宮湊斗くんは無事にご消失遊ばされた訳だが、残念ながら、残った家族の方はこれからも生きていくしかない。
アホの遺した被害が未だ続いていたとしても、アホの醜聞が今更ご近所で話題に上ったとしても、だ。
ご立派なご家族としては、それなりな三男が、それなりな上に死んだ後にまで自分たちに迷惑をかけているだなんて、信じられないのだろう。
『優しいだけが取り柄の息子』がそんなことするはずがないのだから、バカこと留石蛍が何かしでかしたのだと思う方がよっぽど精神衛生上よろしいに違いない。
まあ、全くよろしくなかったので、バカは道端で轢かれそうになった訳だが。
精神の安定を保つための方法が狂ってんだから、そりゃそうなるわな。
狭い一本道だったので車の方が引っかかったんだと。
バカは間一髪避けて、電信柱に頭をぶつけただけで済んだそうだ。
警察沙汰になってるもんだから、色々と面倒らしい。
母にも心配をかけてしまうのでしばらく来れません、と申し訳なさそうに言われた。
は? 別に呼んでないが? 何を謝ってんだ。
頭にガーゼをはっつけたまま説明するバカの周りを、生肉がうろちょろしていた。
お前ほんとにそいつ好きだな。ひとんちで肝試ししたバカだぞ。
まあ、肝試しさせられた、とも言えるだろうが。
二重くらいの意味で。
もしかしたら引っ越すかもしれません、とも言われた。
やけにしょぼくれた顔だった。
何を残念そうにしてんだ。
生肉なんぞ友達にしてる場合じゃねえだろ。
人間の友達を作れ。人間の。
いないの? いないんか。ああ、そう。
それは、まあ、
そういうこともあるよね。うん。
まあ、あと、
ある意味では人間の友達か。
さて。
留石家の母が心配しているのは、この先も呉宮家の人間がこのアホを恨んで危害を加えないかどうかである。
だったら、その動機を消してやれば良いのである。
俺は三村さんに連絡した。
なんか連絡先置いてったから。
そうして三村さんからなんとか様を紹介してもらった。
そんでなんとか様に呉宮家を紹介した。
おすすめ! 入れ食い! 今が旬!
大特価! 呉宮家お買い得パック!
いやあ。
まさか。
勧誘する側になる日が来るとはね。
全部忘れちゃうから大丈夫ですよ。




