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生首
冷蔵庫を開けたら生首がいた。
笑顔である。寒いのにご機嫌なことだな、と思っていたら死の勧誘が始まった。
生首曰く、死とはとても良いもののようである。
一瞬の苦しみを乗り越えれば、あとは何一つ苦痛のない、穏やかで澄んだ世界に居られるんだそうだ。
確かにね。
苦痛が思考と記憶によって生まれているなら、これほどに最適な方法はない。
全ての悩みって対人関係で生じてるらしいしね。
全部を消せる訳だからね。
そこにあるのってやっぱり幸福なんだろうね。
幸福なお前は人んちの冷蔵庫で何をしてるんだろうね。
幸福って冷蔵庫にあったんだな。
つまりは青い鳥みたいなもんかもしれない。
三日後。
やや腐臭を発し始めた生首の声は、徐々に焦りを帯びていた。
熱心に死の勧誘をしている。
ご苦労なことである。
幸福に近づいているんだからもっと喜べばいいのに。




