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バルツオーネちゃんともっと仲良くなりたいけど、流石に飲食店もやっている店の従業員が、虫や小鳥、鼠なんかの死骸を持ってくる可能性が高い相手と一緒にいるのは衛生的にまずいよなあ。
……イベリスさんはあんまり気にしなさそうだけど。でも、あそこで実質的に仕事を仕切っているのはヴォジアさんで、そのヴォジアさんが駄目と言うのなら従う他ないのだろう。
うう……猫ちゃん……。
「……まあ、ヴォジアも、ノルンの代わりに怒ったんだろうから、あまり悪く言わないでやって」
しょんぼりと落ち込むわたしに言って聞かせるような、イベリスさんの言葉に、わたしは思わず目を瞬かせてしまう。イベリスさんがすごくまともな人みたいなことを言っているのに対してもそうだが、ここでノルンさんの名前が出てくると思わなかったのである。
「ノルン、魔物が苦手みたいなんだよね。テイム契約している魔物なら、ある程度克服したみたいだけど。だから、ヴォジアも、ノルンのことをかばったんじゃない? あの二人、仲がいいし」
「そう、なんですか?」
……言われてみれば、ショドーとひいさまがテイム契約していない、って知られたときのノルンさん、カウンターの下に素早く隠れるくらいだったもんね。それに、わたしがショドーとひいさまを連れているときはあまり近づいてこなかった気がする。ヴォジアさんも、特段、ショドーやひいさまと仲良くするつもりはないようだったけれど、テイム契約を結んでからは、特段、意識してふたりを避けている様子はなかった。
「何かあったんですか?」
本人のいないところで理由を聞くのは良くないかな、と思いながらも、一応イベリスさんに尋ねてみる。流石のこの人だって、言わない方がいいことか、そうじゃないかの区別くらいはつくだろう。
とはいえ、何か強い理由があってのことならば、ショドーとひいさまのテイム契約者として気をつけねばならない。
それなりの大人ならば、ふんわりとぼかして教えてくれるに違いない。
そう、思ったのだが――。
「え、知らない。そこまで興味ないし」
「…………」
イベリスさんは、どこまでもイベリスさんだった。
そりゃあ、仲良くもなるよな、ヴォジアさんとノルンさん。いや、仲良くならざるを得なかった、と言うべきか。
だって、こんな人が上司なんだから……。
イベリスさんはあてにならないな、と思いながら、とりあえず、今後はショドーとひいさまをノルンさんに近づけないように注意しよう、と決めたのだった。




