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09

 いい人そうだな、と思うと同時に――わたしは青年から名前を聞くのを忘れていたことを思い出す。

 猫型の魔物がいるっていうから二つ返事でほいほいついてきてしまったけれど、名前を聞くことすらしていなかったなんて、ちょっと、いや、だいぶ早まったかもしれない……。


「……そう言えば、僕、お前に名乗ったか?」


 青年もそのことに気が付いたようで、ふとわたしに聞いてくる。


「貴方、自己紹介もせずに彼女を連れてきたんですか?」


 呆れたようにノルンさんが言う。


「う、うるさいな。加護テイマーだっていうから、絶対逃したら駄目だと思ったんだよ……。ごほん。僕はヴォジア。ここの店員。店長は別の奴なんだけど、あんまり表には出てこないから、困ったら僕かノルンに声をかけて」


「分かりました。とりあえず……いったん、バスケットをどこかに置かせてもらえませんか?」


 そろそろ腕が限界だ。国を出てからほぼずっと持っていたのだ。置ける場所があるなら一回置かせて欲しい。

 軽い気持ちで聞いたのだが、青年――ヴォジアさんは「あ、ああ」と少し焦ったように返事をしてきた。


「……本当にその二体は、お前の言うこと聞くんだよな?」


「は? 何言ってるんですか、猫ですよ? 人間のいうことなんて聞くわけないじゃないですか」


 ショドーとひいさまは賢いので、わたしの言うことをほとんど理解しているけれど、理解した上でいたずらをしかけてきたり、話を無視したりする。ショドーは素直な子なので、甘えの延長でしかしてこないけれど、ひいさまは気まぐれなので基本的にわたしの言うことは聞いてくれない。


「大丈夫なのかよ、それ」


「まあ、言うことを聞かない、って言っても、わがままで済む範囲ですし。大丈夫じゃないですか?」


 あくまで命令に従わない、というだけであって、危険だからやめて、みたいなお願いを無視されたことはない。聞き分けは悪くないのだ。

 今だって、大人しくバスケットに収まっているだけ十分では?


「……ネコ科特化の加護テイマーの力を信じるからな」


 そう言われても……わたしには加護ありの自覚がない。スキル文化のない国で生まれ育ったし……。


「お前に頼みたいのは、ある魔物の世話だ。ついてきてくれ」


 そう言うと、ヴォジアさんは、左奥にあったカウンターの横にあった廊下の方へ歩いて行った。いかにも、バックヤードに繋がっていそうな廊下。


「ショドー、ひいさま、ここで大人しくしててね。話を聞いたらすぐ戻ってくるから」


 わたしはバスケットを客席に置かせてもらい、ヴォジアさんの後を追う。

 バックヤードに繋がっていそう、と思っていた廊下のその先には倉庫や更衣室みたいな、従業員のための部屋があるのではなく、そのまま屋外の渡り廊下へと繋がっていた。さらに渡り廊下を歩き、別の建物へ入って行くと――そこには天使がいた。


「わ、わ、わ、わぁああ!」


 わたしは思わず歓喜の声を上げてしまった。

 猫! 大きな猫ちゃんがいる!

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