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スキルなしにも需要があって、顔が広いザムさんが一緒に職を探してくれるのならば、きっとすぐに仕事が見つかると思っていた時期がわたしにもありました。ぴえん。
いや、ザムさんの顔は、わたしが想像しているよりも広かった。
道行く人のほとんどに声をかけられ、仕事を探しているといえば、誰それが働き手を探していた、あっちの店で求人の張り紙を見た、と、いろんな情報を教えてもらって、それこそ、いろんな場所を巡った。
でも、条件に合う場所が、見事になかったのだ。
女のわたしが、ショドーとひいさまを養えるくらいの給料をもらえる場所で働きたい、絶対条件じゃないけど住み込みだったらなおうれしい。わたしが提示する条件は、たったこれだけなはずなのに。
力仕事だから筋力と体力のない奴はいらない、男ばかりの職場だから女がいると浮ついて困る、というのも。
動物が苦手だから、赤ん坊がいるからテイム契約を結んでいても魔物は一緒に置いておけない、というのも。
理解はできる。でも、そんな綺麗に、どこもかしこも、NGくらうことある!? というレベルで駄目だった。
条件が合いそうなところは、既に一歩遅く、別の人を雇っていて、今は人が足りている、とかもあったなあ……。
あれ、これなんてデジャブ? スキル鑑定所での仕事探しとあんまり変わらないような。
ザムさんのためなら、と、なんとかねじ込んでもらえそうな場所も数か所あったが、そこまでして、と、つい、尻込みしてしまった。そういう場所は、最初に回った場所が多く、きっとまだ見つかるだろうと思って断った、というのもあるが。
でも、そうでもして始めた仕事は、きっとやりにくいと思う。過剰な人材って扱いに困るだろうし、無理を言ったのだから、と、必要以上に結果を残さないといけないような気がするし。最終手段としては、仕方ないところもあるのかもしれないけど……。
「……元気出せよ。ここから遠くなるが、範囲を広げればまだ候補は少しあるから。休憩が終わったらそっちに行ってみよう」
街の中央広場に設置されたベンチに座ってうなだれるわたしに、隣に座ったザムさんが励ますように言ってくれる。言ってくれるが……ここまで惨敗続きだと、次も駄目なんじゃないかと思ってしまう。
わたしはおもむろに、一緒に連れてきたショドーを抱きかかえ、彼の腹に顔をうずめる。疲れたときは猫吸いに限る。前世ではかなえられなかった夢は、わたしにとってかなりメンタルを回復させてくれる。まごうことなき現実逃避。
ひいさまはやらせてくれないから、ショドーにお願いするしかないんだけど。
「……本当に猫族、好きなんだな」
少し呆れたようなザムさんの声を聞きながら、ショドーの毛並みと温かさを堪能していると――ひやり、と首筋に暴力的な冷たさを感じ、わたしは思わず、ショドーを引き離して「つめった!」と叫んでしまった。




