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ネコ科に愛される加護を貰って侯爵令嬢に転生しましたが、獣人も魔物も聖獣もまとめてネコ科らしいです。  作者: ゴルゴンゾーラ三国
第一部

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 ギンクちゃんの部屋はびっくりするくらい片付いていた。物は結構ある方なんだけど、アラインさんの部屋の惨状を見てきたばかりだからか、すっきりとしているように見える。


 壁の際にベッドがあり、少し離れた場所に小さいテーブル。そのテーブルの傍らに椅子とキャンバスが。何かを飲みながら絵を描いていたようだ。テーブルの上には油絵用の画材一式と、湯気が立つマグカップがある。キッチンのようなものは見当たらないけれど、どこかにあるのだろう。


 他人の生活スペースをまじまじと見るのは、はしたないことだと分かっているけれど、つい、なんの絵を描いているのか気になってしまった。あの手で筆が持てるのだろうか? 

 描き始めたばかりなのか、人物画なのは分かるが、ほとんど下絵の状態だ。特徴的な画風で、写真のようなリアルさはないけれど、それぞれのパーツの位置が整っていて、下手には見えない。……というか、普通にわたしより上手だと思う。


 でも、この顔、どこかで見たような……。


「にゃに見てるんだ」


「ぅ、わっ! ごめんなさいっ」


 背後から声をかけられて、わたしは思わず肩をはねさせる。振り返ると、誰もいない――いや、目線を下げればギンクちゃんがいた。人間と比べて表情が読み取りにくいけど、多分、呆れている。


「こっちはかまわにゃいけど、向こうはそうでもないぜ」


「向こう……?」


 ギンクちゃんが、手を向けた先には、頬を膨らませているアビィさんがいた。確かに、向こうはご立腹のようで。


「すみません……」


 わたしはおとなしくアビィさんの方へ向かう。彼女の元へたどり着くと、再び杖で頭を殴られた。さっきといい、結構本気で叩いてくるので頭が痛い。


「遅いです」


「口で言ってくださいよぉ……」


 わたしは頭を押さえながら言うが、アビィさんにひと睨みされるだけで終わってしまった。


「……さて、と」


 ギンクちゃんが壁を触ると、ぶわ、と一気に壁へと光が走る。その、縦横無尽に走っていたと思われた光は、最終的に魔法人のような形へと終結する。


「ここが出口だ」


 ギンクちゃんが言うと、アビィさんはためらいなく壁へと歩く。そして、ぶつかることなく、にゅ、と壁の中へと吸い込まれていった。魔法だとは思うんだけど……なんかちょっと、抵抗あるな。普通に怖い。

 しかし、ビビっているのはわたしだけのようで、ザムさんもアルベアちゃんも普通に『出口』へと入っていく。


「……帰らにゃいのか?」


 ギンクちゃんに言われて、わたしは唾を飲み込んだ。そうだよね、わたしが帰らないと出口を閉められないし、絵を描くのに戻れないもんね。


 ええい、やけくそ!


 わたしは息を止め、なんなら目もつむって、壁へと軽く走った。

 体に膜がまとわりつくような違和感が気持ち悪くて、正直、二度とこの魔法は味わいたくないな、と思ったのだった。

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