61
わたしは慌てて男たちがいる部屋の方を見に行く。ここで殺すのが嫌なのであって、じゃあアビィさんがやっちまえばいいという話ではないんだが。
勢いあまって下に落ちないように気を付けながらのぞき込むと――そこには、拘束された男たちがいた。先ほど、食事をしていた男たちのグループが、何かに縛られている。
よくよく見れば、男たちを拘束しているのは、地面から生えているものだった。薄暗いからか、実際に何なのかはよくわからないが、手足はもちろん、顔も鼻以外すべてふさがれている。呼吸はできるように、ってことなんだろう。
「これでゆっくり探せますね? 私はここで待っているので、さっさとしてください」
のぞき込んでいるわたしの背後から、アビィさんがそう言いながらあくびをするのが聞こえた。これはアビィさんの魔法らしい。
「――、ありがとうございます!」
わたしはアビィさんにお礼をいい、アルベアちゃんを連れて階段を下りる。アルベアちゃんは待ちきれない、とばかりに、階段の途中、踊り場まで一気に飛び降りて、その後も、階段を一段も使わず下の階にまで行っていた。
当然、わたしはそんな芸当できないので、一段ずつ降りていく。
「――……アルベア?」
かすれた声。椅子に縛られた男が、ゆっくりと顔を上げた。うわ、すご。上からではよく見えなかったので気が付かなかったが、頬が腫れ、目元に青あざがいくつもでき、口元も切れている。随分と殴られたようだ。
そんな男が座る椅子の周りを、アルベアちゃんがぐるぐると落ち着きなく歩いている。
この、椅子に縛られた男性がザムさん。……ということは、消去法で、拘束されている男たち三人が、シャンシャットちゃんの言う、『へんなおとこ』ということか。
「わたし、ルティシャと言います。ええと……ザム、さんで間違いないですよね?」
わたしの問いに、男が静かにうなずく。
アルベアちゃんの様子からして間違いはないと思うけど、確認は必要だ。何せ、わたしはザムさんの顔を知らないので。
「助けに来ました。……こ、これ、どうしよう……」
わたしは周囲を見渡す。男性の拘束は、男性の足と椅子の脚がそれぞれ縄で縛り付けられていて、その上で、胴体も椅子にくくられている。背もたれの後ろに回された手も、手首どころか肘あたりまでがっちがちに縄で固定されていた。
何か切るものがないと、わたしには絶対ほどけない。
「アルベアちゃん、これ、切れたり――」
わたしが言うよりも早く、アルベアちゃんはザムさんの腕を縛り付けている縄を、爪でひっかいて、いとも簡単にバラバラにしていた。
……思っていた以上に、爪が鋭い。こりゃあ、爪を皮膚に軽く立てられただけで刺さりそう。
思ってもみなかったアルベアちゃんの凶器を目の当たりにして、「あっという間に殺せる」というアビィさんの言葉が、冗談でも嘘でもないことを、思い知らされたのだった。




