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ザムさんの匂いをたどって来て、その場に落ちていたバングルにアルベアちゃんが夢中になっている。彼がここに来た、あるいは連れられて来たというのはかなりの高確率となるだろう。
ただ、気になるのはここに来るまで、誰かが来た形跡がなかったことと、何故わざわざこんなところに来たのか、ということ。後は、目的地へ向かう途中で道に逸れたのなら、ひとりで街へと帰ってきたアルベアちゃんが、ザムさんがこちらにいると気が付かなかったのか。道は途中まで同じなのだから、気が付く可能性もあっただろうに。
誰かが来た形跡がない、というのは、まあ、少し分かる。こんな、腰の高さまで、時折、胸の高さまでの草が、結構な密度で茂っている場所だ。同じ場所を何度も往復したか、誰かが通った直後ならばまだ歩いた跡が残っていたかもしれないが、どちらにも当てはまらないので、すっかり草が元に戻ってしまったのだろう。
となれば、気になるのはなんでこんな場所に来たのか、そして、ひとりで帰ったアルベアちゃんがなぜ気が付かなかったのか。
……アルベアちゃんが街に帰ってから、こっちのほうに移動した、とか? それなら気が付かないのは当然だ。
でも、移動するにしろ、こんな草が茂っていて、何もない場所に一体何の用が……。
「おい、大丈夫か?」
座ったまま考え込んでいると、頭上からエーリングさんの声が聞こえてくる。上を向けば、彼女が心配と呆れが混ざった表情でこちらを見下ろしていた。
「変な段差があって……。足元、気をつけてください。この段差、どこまで続いているか分からな――痛っ」
立ち上がろうとして、右の足首に鈍い痛みが走る。アルベアちゃんがクッションになってくれたとはいえ、ちゃんと受け身が取れていなかったのだろう。
激痛、というほどではないので折れてはいないと思うけど、歩き方に気をつけないとじくじくと痛い。擦り傷だけではなかったらしい。
この状態で歩き回るの嫌だな、と思いながら、わたしは拾ったバングルをエーリングさんに見せ、アルベアちゃんが反応を見せたことから、ザムさんのものの可能性が高いことを伝える。
「ふぅん……。普通の、その辺に売っていそうな安物だな」
エーリングさんはバングルを検分しながら、そんなことを呟いた。一点ものだったら、所有者の特定も楽だっただろうに、と思う半面、わたしはザムさんと面識が一切ないので、このバングルの持ち主を確定させようと思ったら、一度街へと帰らないといけない。
わたしがこの状態だし、一回街へ帰ったほうがいいのだろうか。探せる時間が限られているから、無駄に歩くのは避けたいけど……。
そう思っていると、エーリングさんが、アビィさんにバングルを渡した。
「アビィ、頼む」
エーリングさんからバングルを受け取ったアビィさんが、面倒くさいなあ、という顔をした。というか、実際、「面倒ですねえ」って言っちゃった。
……アビィさん、何かこれを元にザムさんの形跡をたどれるのだろうか?




