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街を出たのは少し早い夕方頃。まだまだ陽が沈みそうにはないものの、行けるところまで言ってしまいたいらしい。舗装はされていないものの、人通りが多いことが分かる道は、歩くのも苦ではない。
先頭にアルベアちゃんが歩き、わたしたちがその後を追う。アルベアちゃんは歩くべき道が分かっているようで、その足取りに迷いはなかった。
むしろ、そのすぐ後ろを歩くわたしの方が、周りの風景が珍しく、きょろきょろと辺りを見回しているくらいである。
いかにも冒険者が街から出て歩く道、という、漫画で何度も見たような風景が気になって仕方がないのだ。この国に来るまでは馬車での移動が基本。この国の国境関門の付近までも馬車でやってきたので、実質、この世界に生まれて初めて、こういう道を歩くのだ。珍しいものがあるわけではないけど、なんとなく、周りを見てしまう。
「――お前、この街を出るの、初めてなのか?」
あまりにも周囲を気にしすぎていたらしい。笑われてはいないけれど、そうわたしに尋ねるエーリングさんは少し珍しそうなものを見る表情をしている。そんなに交通手段が発展している世界でもないから、街を出るほうのが珍しいと思うんだけど。
そう思っていると、「普通の人はそんなものですよ」と、わたしの代わりにアビィさんが答えた。
「あちこち旅をして歩く方のが珍しいのです、師匠。私だって本当はこんなに色々なところへ足を運ぶ予定はなかったのに」
……後半はなんだかエーリングさんへの文句のように聞こえるけれど……。
「街、というか、この国に来たのもつい最近のことなので」
言ってから、旅をしないのが普通であるなら、国を超えることはもっとしないものなのでは、と思った。……変な印象を与えたかな。
しかし、エーリングさんはそれ以上深堀りしてこなかった。逆に、何か深い事情があって、わたしがここにいるのだと思われたかもしれない。口減らしとか、そういうことではないんだよなあ……。
猫を愛しすぎた故の結果なので、別に後悔はしていないし、ゼインラーム王国にいたから罪になっただけで、この国だったら犯罪者でもなんでもないんだから、わたしがこの国に来ることになった理由を知られても慌てることでもないのだが。
ただ、猫のためだけに、ゼインラームという世界一恵まれている国と言われる王国から出ることを選んだと思われるのは……もったいないと言われることが分かり切っているので、積極的に言いたいことでもない。わたしは猫を取ったことを誇れるけれど、それを他人から馬鹿にされて平静を保てるほど人間ができているわけでもないのだ。




