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エーリングさんはザムさん探しに乗り気だったけれど、アビィさんはどうみてもその逆。最終的にはついてきてくれることになったけれど、本当に良かったのだろうか。……彼女が嫌がったところで、エーリングさんが引きずってでも連れて行きそうな雰囲気があるけども。
「アビィさんは……ザムさんが見つかると思いますか?」
黙って待つのもなんだか気まずくて、間を持たせるためにわたしはアビィさんに話しかける。彼女は座ったまま、わたしを見上げた。
「師匠がやると言ったので、見つかると思いますよ。……生きて見つかるかどうかは知りませんけ――ぐわあ」
アビィさんが最後まで言うのを阻止するように、アルベアちゃんが彼女にのしかかった。そのままアビィさんの頭を噛んでいる。不満を現すような甘噛みで、全然牙が食い込んではいないものの、アビィさんの髪はぐちゃぐちゃだ。
噛むのはともかく、勢いだけはアルベアちゃんは結構本気で行ったみたいだけれど、アビィさんは怖がっていないのか、それともこのくらいのことはじゃれつきで済ませられるのか、随分と悲鳴が演技がかっていた。
「アルベアちゃん、やめてあげて」
わたしが言うと、アルベアちゃんは不満そうにしながらも、わたしの足元に戻ってきた。
「うわ、べちょべちょ……きたな……」
崩れた髪を触って、アビィさんが悲壮感たっぷりな表情を見せている。ヴォジアさんだったら相当慌てているだろうことを考えると、結構な強さの人なのかもしれない。
ハンカチでも貸した方がいいだろうか、とポケットを探っていると、アビィさんが地面を撫でる。正確には――地面に落ちた、彼女の影を。
すると、影からにゅっと、魔法使いの杖のような、大きな杖が姿を現した。それをアビィさんは当たり前のように引っ張り出し、その杖の先で、軽く地面をつつく。
その瞬間、パッと彼女の髪が元に戻った。べったべたになった髪も、崩れてしまった縛り目も、完璧に元通り。
「……凄い! 魔法ですか?」
わたしがそういうと、アビィさんは、さっきまでの不機嫌そうな表情が一転して、一気にドヤ顔になった。
「ふふん。まあ、それほどでもありますね」
……チョロ……いや、なんでもない。自堕落そうな人、というのが第一印象だったけど、結構自信家なのかもしれない。
城を買える程の値段で売れるものを作れるのだから、実力はかなりあるのかも、とアビィさんのことを観察していると、わたしの視界の端で何かが横切る。
「まあ、少しくらいなら魔法を見せてあげても――」
「――あ、猫! ……すみません、何か言いました?」
完全に言葉が被ってしまった。しかも、野良猫に気を取られて話も聞いてなかった。やば、わたしから話を振ったのに、可愛い猫がいたから、つい。
ドヤ顔だったアビィさんは、一気に再び不機嫌そうな顔に逆戻り。なんなら、頬も膨らませている。子供っぽい仕草だが、妙にハマッていた。




