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思ってもみない言葉に、わたしは固まってしまった。ヴォジアさんの腕を振りほどこうとしていた力が、一気に抜けていく。
「死体が見つかってねぇ上に捜索依頼が出てるってこたぁ、まだ行方不明になってから一か月、経ってねえってことだろ?」
「……本当なら、王都からの高ランクテイマーを待っている間に過ぎるはずだった。ラグリス相手に大人しく一か月も開けていられない」
「成程、そりゃあそうだ」
ヴォジアさんと女性は話が通じているが、わたしは何が何だかさっぱりだ。
そんな様子に気が付いたのか、女性がわたしに説明してくれる。
「討伐依頼に向かって行方不明になった奴は、一か月後に正式に死亡扱いになる。それまでは、死体が見つからなきゃ、どれだけ生存が絶望的でも一応生きているって扱いだな。そして、契約主が生きている扱いされているうちはテイム契約を強引に破棄できない。フツーに犯罪だからな。アタシはしょっぴかれたくねえ。……ま、つまりはまだ少し、猶予があるってことだ」
その言葉に希望が見え、気分が上向くのが分かる。「余計なことを」とヴォジアさんは言うけれど。
「で? あとどんくれえ時間が残ってんだ?」
「……十日」
女性の質問に、ヴォジアさんが答える。
人を探すには心もとない日数だが、思ったよりは時間がある。一か月というと――と、逆算して、わたしは気がついた。
あの日、わたしがヴォジアさんとスキル鑑定所で出会ったのが、ちょうどそのくらいだった、と。
おそらくヴォジアさんは、あの日、わたしと会う少し前にテイム契約を破棄できる人間への依頼をしたか、もしくは、予想以上にアルベアちゃんが手におえなくてなんとかできる人間を探しに来たんじゃないだろうか。スキル鑑定所は、仕事の斡旋もしているらしいし。
「――十日か。微妙だな。……なあ、お前」
女性がわたしの方を見る。
「その捜索依頼っていうのはどこで出てる? 暇潰しに探しに行ってやるよ」
「エッ、師匠、何言ってるんですか! サボりましょうよ、遊びましょうよ、観光しましょうよ! 折角時間ができたのに!」
いつの間にか、もう一人の女の子の方もこちらに来ていたようで、反論しては、女性に拳骨を食らっていた。「働きたくないー……」という嘆きは冗談なんかではないようだが、一応、女性には逆らえないようだ。師弟関係みたいだし、そういうものなんだろうか。
「……まあ、それなら僕は止めないけど。アンタも、これでいいな?」
「――いや? その女も連れていくが」
わたしの手を放しかけたヴォジアさんの言葉を、女性は即座に否定した。




