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驚いて反射的に声がする方を振り返ると、イベリスさんに対応していたあの女性店員が、すぐ近くにいた。カウンターの中から移動していたことに、全然気が付かなかった。近くにいる、と分かると、体に酒の匂いがしみついているのか、それともすでに一杯飲んでいるのか、ほんのりとアルコールの臭いがする。
「それはザムの捜索依頼だよ」
「ザム?」
言われてみれば、スッと内容が頭に入ってくる。確かに、ザムという人の捜索依頼書だ。理想は保護、でも死んでいたら死体の回収、となっている。どこそこで見かけた、という情報でも場合によっては謝礼が支払われるらしい。
「ザムっていったらあれさ。イベリスの店のとこにいるアルベアの飼い主。たしか引き取ってただろ」
「……生きてるんですか?」
わたしは思わず聞いてしまった。ヴォジアさんの口ぶりからして、てっきり死んだものだと思っていたのに。
しかし、わたしの期待に反して、女性は「さぁね」と答えた。
「ま、状況からしたら死んでる可能性の方が高いと思うよ。魔物の討伐依頼に行って、アルベアだけが帰ってきた。……ただ、ま、諦められない奴がこの街にはいるのさ。襲われた場所に血が残っていない上に、討伐対象は人間を丸のみするような魔物じゃなかった。だから、逃げ伸びてどこかで生きてるんじゃないか、って考えるやつがさ」
「顔が広く情に厚い男だったからね」と、どこか寂しそうに言うのは、彼女もまた、『諦められない』側の人間なのだろうか。
もう一度、依頼書を見てみると、最後に行ったと思われる場所――つまりは、討伐に向かったと言う場所も記載されていた。土地勘が全くないので、ここから近いのか、どのくらい危険な場所なのか、一切見当がつかないが。
まだ生きているかもしれないのに、あと少しで強制的にアルベアちゃんのテイム契約は解除されてしまう。なんだかやるせないな。
ここ半月くらいアルベアちゃんに接していて、すっかり情が移ってしまったわたしとしては、なんとか見つけてあげたい気持ちが強い。
いつでも部屋の隅にいて、わたしが何をしても基本はされるがままなのに、そのくせ、テイム契約の魔法陣を触るのだけはとてつもなく嫌がる。きっと、彼にとって大切なものなのだろう。
どれだけ機嫌が悪くとも、ヴォジアさんやノルンさんからご飯だけ食べたのは、生きるため。――生きて、相棒であるザムさんの帰りを待つため。
わたしはアルベアちゃんの気持ちを完璧に読み解けるわけじゃないから、勝手な思い込みなことは百も承知だけれど、少なくとも、わたしにはそういう風に見えるのだ。
……でも、これといってわたしに捜索できるだけの純粋な『力』がないのが問題なんだよなあ。




