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少し待っていると、奥の方から店員らしき人がやってくる。少し気の強そうな、人間の女性だ。
「ああ、イベリス、また来たの。まだ貼り出してない新しい依頼はこのくらいしかないよ」
そう言って、彼女はカウンター下から数枚の紙を取り出した。まだ貼り出してない、ってことはどこかに貼っているのかな、と店の中を見渡すと、入口から見て右側に掲示板みたいなものがあり、そこへ何枚も雑に紙が張り出されている。
紙に書かれている内容は読める程度に紙が重なっていて、ちゃんとまっすぐに貼って並べられていないのが、なんとも気持ち悪い。誰が貼っているのか分からないけど、几帳面な性格じゃないんだろう。
イベリスさんが店員から渡された依頼書を読み始めると、本格的にわたしはやることがなくなってしまう。
……わたし、ここに必要だった? いや、でも、外に連れ出してくれってヴォジアさんに頼まれたし、はぐれない方がいいんだろうな、とは思うんだけど。
ぼけ、と突っ立ってるのも暇なので、わたしは張り出されている方の依頼書の方をなんとなく眺める。そこまで掲示板からの距離が離れているわけじゃないので、イベリスさんから離れて、掲示板に近寄らずとも見られるのだが――。
「……あれ」
ふと、一枚の依頼書に目が止まる。猫の絵だ、と思って意識が向いたのだが、描かれている猫が、どうにもアルベアちゃんっぽいのだ。そこまで上手な絵じゃないので、アルベアちゃん、という確証はないのだが、でも、特徴が似ている気がする。アルベアちゃんの腰にある、おそらくはテイム契約の魔法陣なのであろう、複雑な模様もそこにはあった。
なんの依頼なんだろう。
砕けた文章のようで、ちょっと読みにくい。わたしが学んできたこの国、アトリング王国の公用語は、お貴族様らしく整った文章ばかりだったので、読み取るのに時間がかかる。
ええと……探す、見つける……アルベアちゃんを探す、っていう依頼? いや、でも、アルベアちゃんなら今朝も店でご飯食べてたしな。ヴォジアさんの態度や口ぶりからして、無理やり奪ってきたって感じでもなかったし。ヴォジアさんが名俳優並みの演技力を持っているならまた話は変わってくるけど。
ああでも、この探すは人に対して使う形になってるから……、探してるのはアルベアちゃんじゃないっぽいな。
脳内で言葉をひとつずつ組み合わせて考え込んでいると――。
「その依頼が気になるのかい?」
急に話しかけられて、わたしは派手に肩を跳ねさせてしまった。




