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「別に売れってわけじゃない。テイムしたままの状態でも、聖獣の力を使ってシャンドンなら楽に生きられるって話だ。あいつの世話が終わったら、シャンドンに行くのも悪くないんじゃないか?」
あいつ――ああ、アルベアちゃんのことか。
シャンドン公国。このアトリング王国よりは治安が良かったはず。少なくとも、国境関門を超えた瞬間手荷物を盗まれる、なんて心配はない。
ただなあ……結構自由がない国だった記憶があるんだよな。
シャンドン公国はわたしが生まれたゼインラーム王国の隣り合わせではない。今いるアトリング公国が間に挟まっているので、アトリング王国よりはそこまで詳しく学んでいない。……学ぶ前に家から追い出された可能性もあるけど。
報道規制とか出版物の検閲とかガチガチにやってる国だったはず。
今の君主がいい政治をしているみたいだからまだいいけど、暴君がトップになった瞬間恐ろしいことになりそうで嫌なんだよな。三家の公爵家が一代ごとに交代で国を治めるらしいけど、次がいつ代替わりするかは分からないし。
あんまり魅力的じゃないなあ、と思っていると、ヴォジアさんは「まあ、ヴィルドシャッテは連れてけないだろうけどな」という言葉に、わたしの中で一気にシャンドンはなし、という方向に振り切る。
「うちの国はスキル主義だから、スキルランクに見合っていて、しっかりテイム契約が結ばれてればどんな魔物でも文句は言われないけど、シャンドンは聖獣至上主義だからな。聖獣と呼ばれる魔物以外は、皆、殺処分対象だ」
「わたし、一生シャンドン公国には行きません」
なんのために侯爵家令嬢という立場と生まれ育った国を捨てたと思っているのだ。ショドーとひいさまを養って幸せにするためだ。いくら生きるのが楽とはいえ、ショドーが殺されてしまうような国は絶対ダメ。
それに、ひいさまの能力を使って楽するって言うのもなあ。ネコ科の魔物を相棒に戦う、っていうは格好いいと思うけれど、それはあくまで共に戦場に行くから憧れるのだ。能力を利用するだけ利用して、自分は美味しいとこだけもらう、っていうのはなんか違う。
そう考えると、このままこの国にとどまるのも悪くないかな。治安がいいとは言えないけれど、ショドーとひいさまと一緒にいられて、文句も言われない。折角異世界転生して、猫吸いできる体になったのだから猫と共に旅って言うのも憧れるけど……国によって結構スキルや魔物の扱いが違うみたいだから、軽率にはあちこち行けないかも。
とりあえず、今はアルベアちゃんの世話をしつつ、この国やゼインラーム王国以外の周辺国の情報を集めて……ん? アルベアちゃんの世話?




