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目を開けてみると、ひいさまの首根っこををつかんで持ち上げているヴォジアさんがいた。
「ちょっと、何してるんですか」
起き上がってひいさまに両手を伸ばす。返して、という意味だったのだが、ヴォジアさんには伝わらなかったのか、伝わった上で無視されたのかは分からないが、返ってきたのは言葉だけだった。
「お、襲われてるかと思った……」
「襲われてるって……」
まあ、確かに首元にいたけれども。ひいさまは、ほとんど肉を食べない菜食主義である。ショドーにちょっかいをかけるためにショドーのご飯である魚をひったくることは何度かあったけど、それだって満足に食べやしない。ひったくって満足するので、すんすん、と匂いを嗅ぐだけにとどまったり、食べても一口だけだったりする。
猫に野菜をあげすぎるのって駄目なんじゃなかったっけ、と思いながらも、葉野菜を中心に食べるひいさまを見て、異世界の猫ってそういう品種もいるんだなあ、と思ったくらいだ。
だから、人間の肉を食べる、なんてことはないだろうし、ひいさまがわたしを襲う理由はない。
――でも、ヴォジアさんからしたらそうは見えないんだよな、きっと。
彼にはただの魔物の子供にしか見えなくて、ひいさまの性格は知らない。わたしはひいさまが襲ってこないと思っているけれど、ヴォジアさんはその確信を得られるだけ、ひいさまとの時間があるわけじゃない。
……まあ、だからって、大事なひいさまをそんな風に持ち上げられてムッとしないわけじゃないけど!
「いいから返してください。ほら、ひいさま、おいで」
わたしがそういうと、ヴォジアさんは、しぶしぶ、という風にわたしの方へひいさまを返してくれる。
でも、ひいさまの方はすっかりご機嫌斜めになったようで、わたしの膝の上に着地したかと思うと、すぐに、わたしにはもう興味ない、とばかりに、枕の上で丸まって寝始めてしまった。
もう、折角ひいさまが珍しく甘えてきてくれたのに!
「ひいさまは人を襲うタイプの魔物なんですか?」
ヴォジアさんがわたしを心配してくれたというのは、彼の表情を見れば分かるから、強く責めることはしないけど、でも、文句の一つくらい言いたくもなってしまう。
「ウルトピアは草食だから食べるために襲うことはないが……。い、いやでも、首元にいたら、勘違いもするだろ!」
「猫は懐いたら首元で寝てくれますよ」
「だから猫じゃないって……」
ヴォジアさんは納得いっていない表情だったけど、あまり強くは言ってこない。わたしがちょっと怒ったの、伝わったのかな。
……それにしても、ひいさまって草食だったんだ。どうりで野菜や果物しか食べないはずだ。




