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ヴォジアさんに教えられるがまま、わたしはテイム契約とやらを進めていく。その間、ショドーは実に大人しかった。座ってわたしを見上げたまま。ごろごろと機嫌良さそうに喉が鳴っているのが聞こえてくるくらいだ。
書ける、という謎の自信が嘘じゃないように、すらすらと、どこにどう線を引けばいいのかが分かる。契約紙が特殊なのか、はたまた針筆は見た目だけで実際はちゃんと筆記用具としての役割を果たすように設計されているのか、紙にペン先が引っかかったり、破けてしまったり、ということは一切ない。
とはいえ、随分と複雑な魔法陣なので、なかなか書きあがらない。
その様子をを見てか、ヴォジアさんは「流石、加護持ち」と呟いた。
「……加護持ちじゃないと、違うんですか?」
わたしは、半分以上魔法陣に気を取られながらも、ヴォジアさんに問う。
「テイムしようとしている魔物が希少なほど、書く魔法陣が複雑になる。そして、普通は魔法陣を書いている間、大人しくしてる、なんてことはない。いかに無抵抗に持ち込んで手早く書くかがテイム契約には重要なんだ」
スキルランクが上がれば上がるほど、魔物は魔法陣を書いている間、抵抗しなくなり、同時に、細かい魔法陣を書くのもたやすくなる、らしい。わたしからしたら、どちらも実感がないため、よくわからないのだが。
魔法陣を全て書き終えると、契約紙がすっと消えてしまった。
「えっ!」
わたしは思わず驚愕の声を上げるが、ヴォジアさんが驚いた様子はない。それどころか、安堵したかのように息を吐いている。
「これで終わりだ。契約紙が消えた、ってことはちゃんとテイム契約がなされた、ってことだ。失敗したのなら、燃えたり崩れたりする。……ほら、見てみろ」
ヴォジアさんが、ショドーの目の辺りを指さしている。そのまま見て見ると、ショドーの黒い瞳が、右目だけ、わたしと同じエメラルドグリーンになっている。そのエメラルドグリーン側の瞳には、先ほど書いた契約の魔法陣が写っている。小さくて分かりにくいが、さっき書いた、と直感で、そう思った。
「えっ、えっ、痛くない? 大丈夫?」
わたしはびっくりしてショドーの顔の辺りに手を伸ばすが、ショドーはけろっとしていて、わたしの伸ばした手に額をこすりつけていた。……全然、大丈夫そう?
「やり方は覚えたな? なら、もう一匹の方にもテイム契約しておいてくれ。切実に、頼む」
そう言って、ヴォジアさんはもう一枚、わたしに契約紙を渡してきた。
断る理由もないので、わたしは大人しく契約紙を貰い、ひいさまが寝ているであろう部屋へと戻った。
ひいさまもショドーのように目に魔法陣が写るのかと思ったけれど、ひいさまは左の後ろ足の肉球に魔法陣ができた。
こんなに小さくても、契約の魔法陣だと分かるのって不思議だなあ、と思いながらも、わたしはひいさまの肉球の感触を堪能したのだった。




