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「じゃあ、テイム契約っていうの、やり方を教えてください。テイム契約してれば、多少なりとも安心なんですよね?」
わたしがそう言うと、「それなら、まあ……」とヴォジアさんは折れる姿勢を見せてくれる。
「……はぁ。ノルン、契約紙取ってくれ。あと、針筆も」
深い溜息をついてから、カウンターの方に向けてヴォジアさんが声をかけて数秒。すす、とカウンターの上に紙とペン状のものが出された。ノルンさんはカウンター下から出てくるつもりはないらしい。
それにしても、道具が常備されているんだ。
妙に用意周到だな、と思ったけれど、これもテイマーが泊るような宿には必須なアイテムなのかも。テイマースキルがいる人間が従業員に必須なら、なにかしら必要な道具があってもおかしくはないか。それか、ヴォジアさんの私物か。
「契約の魔法陣をこの契約紙に書くんだ」
そう言って渡されたのは、薄い正方形の紙。手のひらと同じくらいのサイズ感だ。
針筆、と呼ばれたペン状のものは、ペン軸の先に針がついていて、ペン、というよりはキリのようである。
……こんな薄っぺらい紙にここまで鋭いペン先のもので書いて、ボロボロにならないのかな。
「契約の魔法陣って……どういう奴ですか? わたし、分かりませんよ?」
「ヴィルドシャッテに契約紙をかざせば分かる」
分かる、って言われても……と思いながらも、不思議そうに見上げているショドーの前にかざしてみる。
すると、契約紙と呼ばれたが淡く光った。
「ぅ、わっ!?」
急なことに、わたしは驚いて手を離してしまいそうになる。しかし、契約紙はぴったりと空間に固定されたかのように動かない。
いかにもファンタジーな現象に目をぱちぱちさせていると――ふ、と、頭の中に図面が浮かんだ。いかにも複雑で、フリーハンドで書くには到底難しそうで絵心も必要になってきそうな図面だったが、なぜだか、絶対に書ける、という自信がわたしにはあった。
これが契約の魔法陣、ってやつなのだろう。確かに、ショドーにかざせば分かったけれども。
「……でも、これ、インクはどうするんです?」
渡された針筆とやらは、ペン先が針になっている。針のように鋭いペン先、というわけではない。ボールペンのようにインクが出そうな気配もない。
「決まってるだろ。血だよ。指先なり、腕なり、好きなところに刺して血を含ませる」
こ、こんなところでも血が必要なの!? スキル鑑定のときといい、どうしてこうも血が必要なのよ。体液が重要だというのなら、唾液とかでもいいじゃん!
とはいえ、このままテイム契約というものを放置するわけにはいかない。
わたしは涙目で、自分の指先に針筆の針を刺した。




