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ショドーは家の敷地内で拾った子だ。商人を家に呼びつけた際、荷馬車等を置くスペースの隅っこにうずくまっていたのを、探検、とばかりに敷地内を歩き回っていたわたしが見つけたのである。十中八九、商人の荷物に紛れ込んで我が家にやってきたに違いない。
両親はショドーを頑なに猫畜生と呼び、わたしが飼うことを認めてくれなかったけれど、そこは貴族家。前世のような一般家庭と違い、距離感はそう近くない。一匹くらい、隠して飼うのはさほど難しくなかった。ショドーが病気知らずだった、というのも大きいけれど、こっそりご飯を与えるくらい、わけなかったのだ。
たしかに、ひいさまよりも先に拾ったにもかからわず、なかなか大きくならないな、と思っていたけれど、そういう、体が小さくても大人、という品種だと思っていたのだ。
なにせ、猫を忌み嫌う国。猫自体が国内に少なく、研究も進んでいない。何か、前世とは違う、異世界特有の品種なのだろうとわたしは思い込んでいたのだ。
魔物だというのなら、確かに異世界特有の品種だけれども。
ショドーは人懐っこくて甘えん坊な性格をしている。たまにいたずらをするときもあるけれど、それは単純にわたしの気を引きたいだけなのだ。
わたしはそんなショドーの性格を知っているし、出会ったばかりの頃も弱ってうずくまっていたのだ。か弱い、とまではいかないけれど、ヴォジアさんがビビるような子には思えないのだ。
ヴォジアさんはさりげなく、持っていたほうきの柄を両手で持ち、何かあったときにガードできるようにしている。
「……いいか、まず、ヴィルドシャッテの主食は人だ」
「えっ」
めちゃくちゃ危険じゃん。わたしは思わず声を上げた。
人間食べるの、とショドーの方を見ると、くりっと丸い目をうるうるさせながら小首をかしげていた。
「こんな可愛い子が人間なんて食べませんよ。ショドーの好物は小魚とトルマベリーですよ?」
トルマベリーとは、いちごに似た形をした、酸味の弱いトマトみたいな味の果物である。よく食べるのは小魚の方だけれど、トルマベリーも好きで食べたがるものだから、てっきり、異世界の猫は肉食寄りの雑食だと思っていたのに。
「それは人間の味を覚えてないだけだろ」
そりゃ、確かに人間をごはんとしてあげたことはないからそうかもしれないけど。
「子供でも、赤子くらいなら食べるし、大人になれば集落一つ食い散らかす、なんて話もあるくらいだ。てっきり、アンタとテイム契約してるものだと思っていたから、子供ならそこまで危険じゃないか、と思ってたのに……」
ぎ、とこちらをヴォジアさんが睨んでくる。その瞳の奥には、どことなく恐怖の感情が見えるので、そこまで怖くはないのだが。
「……なあ、野良なら、人里離れたところに逃がしてこないか?」
「嫌ですよ! この子はわたしの家族なんです!」
とんでもない、とわたしがショドーを抱きしめた。強く抱きすぎたのが、ぐぅにゅ、とショドーが抗議の声を上げる。
……とはいえ、危険な魔物なら、野放しにされているのが怖い、っていうヴォジアさんの言葉も、分からなくはないんだよな。ショドーがいい子でかわいいのはわたしだけが知っていることなのだし。




