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「これで、登録完了っすね。オレがいなくても、ギンクは絶対ダンジョンにいるんで、いつでも遊びに来てほしいっす」
「スキル鑑定とかもこのくらい楽ならいいのに……」
わざわざ採血したり、指に傷をつけて血を出させたり、そういうことがしなくとも、手をかざすだけで情報を得られるようになって欲しい。
そう思って、思わずつぶやくと、「応用すればできるっすよ~」と、なんてことないように言うので、わたしは思わず目を輝かせた。
「えっ、すごいです! ぜひ普及させてくださいよ!」
「オレの研究結果の一つなので駄目でーす。トレジャーハンターに、その研究書を盗むように依頼するか、自分で盗りにきてくださいっす」
じゃあ無理じゃん。
少しばかり見えた希望を、無慈悲にも打ち砕かれて、テンションが分かりやすく下がる。
せっかく、指紋認証なんて安全そうな生体認証があるのに、と鍵に目をやると……確かに、よく見れば、鍵に木目が付いていた。触った質感も金属だし、パッと見た限りでは金属っぽかったので、全然気が付かなかった。鍵だし、無意識に金属だと思い込んだのだろう。
研究テーマが植物だと言っていたし、研究の過程で手に入れた木材とかで作ったのかも。
「生体登録は一人分なんで、その鍵が盗まれても大丈夫っす! 使えるのは君だけっすよ」
「……わたしが脅されて鍵を使われるという可能性は……」
ザムさんの一件を思い出して、思わず聞いてしまった。共にあるものがすごくても、抵抗できない側が陥れられたらそれまでなのである。
「君の体に触れているものは一緒に扉を通ることができるっすけど、そうじゃなきゃ鍵で開けても通れないんで、もしそうなったら適当にごまかして、君だけ扉を通って逃げれば大丈夫っすよ」
結構ちゃんと考えられているらしい。一人ずつしか通れない、とか何とか言って、最初に扉をくぐればなんとかなるか。
「分かりました。まあ、そもそも盗まれないように気を付けますね」
あれこれ対策がされているようだけど、そもそも、根本的に盗まれないようにするもの大事である。戦闘力皆無なので、暴力に訴えられたら確実に負けるだろうけど、そもそも見られなきゃいいわけだし。服の下で、紐を使って首から下げるのが一番安全かな。
それからも、少しばかり雑談をして、わたしとアラインさんは分かれた。アラインさんはもう少し買い物をしてから、郵便事業局でバルツオーネちゃんを眺めてから、再び地下へと戻るそうだ。
わたしもさっさと店に帰って仕事しないとね。




