01_隣の女子は魔法使い
魔法が使えるって、どんな気分なのだろう。
やっぱり楽しいものなのか、それとも使えて当たり前だからなんとも思わないのか。
魔法が使えない僕にはわからない。
だが、隣の女子ならわかるかもしれない。
「……」
栖原高校に転校してから二週間、未だに僕はクラスに馴染めないでいる。転校生は人気者という図式は、社交性のある者でないと成立しない。
授業中にも関わらず、ついつい窓側のほうを向く。まだ顔と名前が一致しないクラスメイトばかりだが、隣の女子だけは唯一覚えている。
青空のような水色の長い髪に、引き立たせる白い肌。
外から流れるそよ風を浴びながら、若瀬ユキハは退屈そうに頬杖をついていた。
若瀬も外を眺めていて表情はわからない。グラウンドは他クラスが体育をしていて、たまにホイッスルの音色が響いてくる。
だとすれば、若瀬が仕掛けるのはこのタイミング。
頬杖をついていないほうの左手が、微妙に動く。
すると、運動には相応しい快晴が嘘のように、雲が現れると同時に雨が降り始めた。
突然の雨に、教室内から「今日ずっと晴れでしょ?」「また?」「傘持ってきてないぞ」「最近多くね?」とひそひそ話が聞こえてくる。当然、グラウンドの生徒たちは大パニックだ。
ただ一人、若瀬だけは違う反応。
「……うぷぷ」
小さく肩を震わせて、慌ただしい外の様子を眺めては手で口を抑えて笑っている。
まるで、雨が降ることをわかっていたかのような。
そんな出来事が、二週間で何度も起きれば偶然ではないだろう。
やがて僕は一つの推測に辿り着く。
若瀬ユキハは、わざとこのタイミングで雨を降らせている。
つまり、若瀬は――
「星波くん?」
担任かつ現国の堤先生に呼ばれて、教室内の静けさに気づく。ひそひそ話はすでに鳴りを潜めていて、僕と若瀬だけが窓側を向いている。
「いつまでもよそ見はよくないですよ……それと、若瀬さんも。他の先生からも注意されているでしょう?」
続いて若瀬もこの状況に気づき、しまったという顔を見せる。
「二人とも、放課後私のところへ来てくださいね」
「はい……」
「……はーい」
堤先生に怒られたのち授業は再開。いつの間にか外は晴れていて、体育の授業も無事再開している。
慌てて黒板の内容をノートに写す最中、いま心で呟いたことを書き殴った。
――若瀬ユキハは、魔法使いだ。