神樹式を受けに行こう
剣と魔法とダンジョンと宇宙船の話を、書きたくなったんで書いてみた作品です。 序盤は地球の日本の話で、長いプロローグと背景説明が続きます。
「 サラ、コミューターはまだかしら? 」
『 サラ様、同じ質問を15秒前にされています。 回答は16秒前と変化ありません。 まだです 』
「 もう、今日に限って遅いんだから 」
今日は神樹祭、首都モンステラと全部のボルトシティーでお祭りになる。 去年まではエチゴと一緒に出店を回ったりしてたんだけど、今年は首都に行かなきゃだから遊べない。
『 サラ様、モンステラ行きの専用トラムの出発時間には1時間10分の余裕があります。 コーヒーをお淹れします、少し落ち着かれた方がよろしいのでは? 』
「 コーヒーはいいわ。 でもそうね、少し落ち着きましょう 」
僕は昨夜よく眠れなかった、緊張してたのか、不安だったのか分からない。 たぶん両方だろう、あとワクワクもあった気がする。 いつもより早く起きちゃったのはそのせいだ。
「 カミハは落ち着いてるわね 」
部屋の中をウロウロしてた母さんが僕の隣に座った。
「 そうかな? できたらもう一度ベッドに戻って、布団を被って寝たいんだけど 」
「 ダメです!! 」
『 イケません!! 』
耳がキーンってなった。 母さんとアイの、大音量のダブルでステレオのダメ出しで、鼓膜がキーンってなった。 アイの音声出力端子はあちらこちらにある、だから正確にはステレオじゃないけど、それはいいか。
「 二人とも冗談だって 」 僕の鼓膜は大丈夫だろうか?
「 カミハ。 今日は重要な日なの、分かってる!? 」
「 みゃはってるよ、きゃあさん 」
母さんが僕のほっぺたを両手で挟んでる。
「 でも、落ち着けたでしょ? 」
「 あら? そう言えばそうね。 カミハったら! 」
母さんがハグッとしてきた、いつもより強めだ。 ちょっと緊張してたんだけど、落ち着きがない母さんを見てたらなんか落ち着いた。 自分より緊張してるエルフを見ると、逆に落ち着けるんだなって実感してた。 言わないけど。
『 サラ様、カミハ様。 あと30秒でコミューターが到着いたします。 お支度はよろしいでしょうか? 』
「 やっと来たのね。 さぁ行きましょう、カミハ 」
「 そうだね。 アイ、後の事はよろしくね。 行ってきます 」
『 行ってらっしゃいませサラ様、カミハ様 』
母さんと一緒に玄関を出る、ドアはアイが閉めて、たぶん鍵も掛かってる。 防犯モードになってれば、不審者は即座に排除される。
花が咲いてる庭を母さんと並んで歩く。 ボルトシティーはドームで覆われてるから、構造上内部の敷地面積には限りがある。 うちは平屋だけど庭もある一軒家だ、母さんの収入がかなり高いからね。
コミューターが到着した、先に乗るのは僕だ。 レディーファーストだ。 母さんは僕の神樹式と入学式に合わせて、2週間の休暇を取った。 だから今朝は制服じゃなくて私服だ。 落ち着いた緑の長いワンピースドレス。 狭い車内だと動きにくいと思うんだ。
「 トラムステーションま 『 待って 』。 どうしたのカミハ? 」
トラムはボルト内を走行してる列車だ。 首都モンステラへ行くには、1本しかない専用線のトラムに乗らなきゃいけない。 今日は神樹式があるんで、専用トラムが走ることになってる。 それに乗り遅れたら来年まで神樹式を受けられない、つまり遅れは許されない。 母さんの特技は、次の機会まで取っておいてもらった方がいい。
「 母さん、僕に任せて。 『 ステーション 』 」
『 承知しました 』
滑らかに動き出すコミューター、行先はトラムのステーションだ。
「 お早うカミハ 」
「 早いなエチゴ 」
専用レーンに停車しているトラム、60名乗りの7両編成で420名まで乗車できるけど今日は満席だ。 ただし、4両目はガラガラに空いてる、男子とその親と関係者の指定席だからだ。
「 お久しぶりです、サラさん 」
「 あら、お久しぶり 」
母さんはエチゴのお母さんと話を始めた。 トラムの座席は2人掛けが2列、僕はエチゴと並んで座る。 他の子もそれぞれ座ってるけど、母さん達は固まって何か話してる。
「 昨夜は眠れたかい? 」
「 ボチボチでんな。 そっちはどうなんだ? 」
「 僕はいつでも熟睡さ 」
「 だろうな 」
エチゴはいつでも冷静だ。 家では、『 短気は損気 』って言われてるんだと。 だから怒ったところを見たことがない。 そういえば僕も怒った記憶がない、案外商人に向いてるのかも。
発車時刻になってホームとトラムの扉が閉まる。 耳がツンとなるのは加圧されたからだ、おかしなバイ菌をボルトに持ち込まないためだって。 僕の耳抜きは一回あくびしたら終わる、エチゴは鼻をつまんでフンフンやってる。 耳抜きは慣れもあるけど個人差が大きいからな、できない奴は一生できないらしい。
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『 ~~~~~~~~~~ 』
神官達が神殿の前に並んでる僕らの前で、祈りを捧げてる。 今年、新たに100歳になった子らに祝福をとか、そんな感じの事だ。 長い長い。
「 何時まで続くんだろうね? 」
「 さぁ? 本人が満足するまでだろ、きっと 」 神樹に耳はない、あったら怖い。
神官たちの祈りが終わったら、神殿の別の部屋に案内された。
神樹式は首都モンステラの中心に立ってる、神樹の根元で行われる。 モンステラにある神樹は、記憶ではイスリルⅠの神樹から株分けして移植したらしい。 無事に育ったんでここに遷都したんだって。 その神樹を守るようにして神殿が建ってる。
神殿に入ると、神樹式を受ける子供と付き添いで行く先が分かれた。 僕たちは別室に案内されて、普段着から神樹式用の衣装に着替えて待機、もちろん男女で部屋は別々だ。
衣装を見る、じっと見る。 衣装は布だ、神樹の魔力になじませた特殊な糸で編んだ、特別製のなんちゃらで織られた専用の衣装だ。 って神官さんが言ってたけど、僕には普通の布にしか見えない。
頭と両手用の穴が3つある正方形の布だ。 何回見ても、どこから見ても正方形の布だ。
「 どうしたんだい? 」
「 衣装って言ってたけど。 これ一枚の布だよね? 」
「 そうだよ。 ママに聞いたら、魔力を通しやすい普通の布だってさ 」
「 だよな~ 」
エチゴが笑ってる。
「 気にしなくても、衣装はみんな同じだよ。 毎年、作り直すんじゃないらしいし 」
「 でもさ、スキルを頂く儀式用にしてはチャチ過ぎないか? 」
「 確かにそうだね 」
部屋には15人の男子がいるけど、話したことがないやつの方が多い。 顔は知ってる、ナンバーボードで見てるから。 2~3人のグループで固まってたり、1人で座ってるやつもいる。 7人で固まってるのは、ボルト長の息子がいるグループだ。
「 ・・・なんか睨まれてないか? 」 そのグループの奴らに睨まれてるんですが?
「 そうだね。 そろそろ静かにしておいた方が良いかもね 」
( 彼らが1組と2組を独占してる上位のグループだよ )
( 一人余るけど? )
( 3組のトップになって、センター長の息子を助けるらしい )
( 大変なんだな、センター長の息子ってのも )
エチゴがまた笑った。 必死で声を抑えてるけど、あいつらにも聞こえてるぞ。
( 君も本国防衛艦隊の司令官の息子なんだから、本当は大変なはず何だけどね )
( 緊張してる様に見えないのか? エチゴもマダマダだな )
静かな部屋にエチゴの笑い声が響いたけど、僕は悪くない。
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