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6 珍客

 屋敷に戻ると、すぐに侍女のヘニーに連れ帰った子を引き渡した。

 テオールは彼女の身につけていた小さな袋を手にしていて、僕の目の前で中身を確認した。

 まず目を引いたのは王家の紋の入った指環だ。僕が父から預かった宝石箱に入っていた、船と一緒に沈んだはずの物だ。そこそこ重さもあり、数日で岸まで流されてくるとは思えない。

 更に、粒の揃った美しい真珠が数個。鞘に入ったナイフは、鞘には薄く削った貝で装飾が施され、そっと鞘から出した刃も貝の内側のような虹色の輝きを見せ、軽く紙を切ってみると鋭い切れ味を持っていた。こんな刃先を見たことがなかった。そして、掌ほどの二枚貝が二枚、糸でつながっているが、何に使う物なんだろう。

「この指環、王家の紋のようにお見受けしますが…」

「僕が父に頼まれ、運んでいた物だ」

 テオールが息をのんだ。

「拾った物だとしたら、どこで拾ったのか…。あれだけが転がってたとは思えないんだが。他の物は周りになかったんだろうか」

「あの娘、溺れてましたよね。海底から拾うのは無理かと思われますが…」

「そう、溺れていた。…だが、どこから海に入ったんだろう。僕はずっと海を見ていたけど、あの辺りで泳いでいた人はいなかったんだけどな」

 全く不思議だった。あの子が海に入っていくのを見た者は誰もいない。それなのに溺れていた。そして、海底にあったとしか思えない指環を持っている。

「…本人に聞くしかないだろうな」


 そうしないうちに、ヘニーが入ってきた。

「失礼します。殿下、間もなくお医者様の診察が終わるかと」

 丁度いい頃合いだ。椅子から立ち上がり、彼女の荷物を持って一緒に来るよう、周りの者に指示をした。

「殿下、少しよろしいですか?」

 普段あまり話したことのないヘニーが、珍しく自ら話しかけてきた。

「どうした?」

「今日のお客様は、…どちらか異国の方でしょうか」

「どうしてそう思う?」

「あの…。あまりお湯に慣れていらっしゃらないようです。石けんにも驚いていらっしゃいました。それに、あの…」

 少し躊躇しながらも、ヘニーは言葉を続けた。

「上のシャツは男物で、腰に巻き付けてましたのはスカートではなく、一枚の布を巻いた物で、その、テーブルクロスかシーツのような物でした。それに、…下着を着けておらず、ご用意しても戸惑っておられるようでした。胸には布を巻いただけで、下は何も…」

 なるほど。言いにくいだろうが、報告すべき内容だ。

「襲われたような様子はなかったか?」

「それはございませんでした。ただ…、あまりうまく歩けないご様子です」

「歩けない…?」

 歩けないならなおさら、どうしてあんな海の中にいたのか。飛び込みができるような崖も遠く、船が通った訳でもなかった。

 怪しむべきでありながら、気がついたら面白がっている自分がいた。

「話を聞いてみるしかないか」

 思わず浮かんだうす笑いに、テオールが咳払いをして睨み付けた。


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