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5 救助

 事故から二日後、礼を述べにノルデン子爵家を訪れた。王家の者が子爵家を訪れるのは異例だが、だからこそ礼としての意味がある。

 子爵と令嬢は歓迎してくれた。

 令嬢はプリスカ・ノルデンと名乗った。僕の訪問が遅いと言って頬を膨らませていたが、

「でもこうしてきてくださったのですから、許して差し上げますわ」

と言い、腕を掴んで応接室へと引っ張っていった。城でも時々見かける図太…いや、果敢な令嬢の典型だ。よほど王家とつながりのある「良縁」が欲しいらしい。

 どういう説明を受けているのか、ノルデン子爵も恩人の父という立場に満足気な様子だ。こちらももちろん「馬車を貸してくれた恩人」として丁寧に接する。例え1時間も2時間も自慢話ばかりされようと、無礼にも隣に座ってすり寄ってこようと、「私がお助けした殿下」と恩着せがましい形容をつけて繰り返し呼ばれようと、ただひたすら我慢した。

 馬車の内装を救助で汚してしまったことも、「とんでもない、殿下ご一行をお救いできて大変光栄に思っているのです」と言いながら、新しい馬車を用意すると言うと

「そこまでおっしゃるのなら…」

とにやつきながら即座に受け入れた。まだそこまで言っていないんだが。

 補償については父からも許可が出ている。一ヶ月もあれば手配できるだろう。


 船を調べるために、どの辺りで船が沈んだのか確認しなければいけない。

 浜や近くの磯の岩場から大体の場所を割り出そうと試みた。漂着物は今のところ木片に布、積んでいたと思われる果実もあった。ここからそう離れていないのは間違いない。


 しばらくすると、件の令嬢が海岸にやって来た。日傘を差し出すタイミングが悪いと同行する侍女を叱っている。そんなに日差しを浴びたくないなら、海辺には来ない方が賢明だろうに、

「殿下、こちらにいらっしゃいましたのね」

と、ご機嫌な様子で近づいてくる。もしかしたら、別荘に訪ねていき、体よく追い返されたのかも知れない。仮にも王家の別荘だ。「恩人」の冠を着けたからと言って、そう簡単に中には入れない。

 やむを得ず周囲の調査はテオール達に任せ、令嬢の相手をすることにした。

 ある程度距離を取って相手をしたが、じわりじわりと追い詰めるように寄ってくる。しかし木陰からは出たくないらしい。


 今日の海は嵐の日とは打って変わって穏やかだった。荒れ狂った日のことなどなかったかのように、優しい波音を立て、時にカニが横切る。

 そんな中、にわかに海が泡だった。

 よく見ると、何かがもがいているような…、人の手だ。

 すぐに上着を脱ぎ捨て、海に走った。

 足が着くか着かないかの所で、人が溺れていた。しがみつこうとする手をはじき、首に手を回して足の着くところまで引っ張って泳ぎ、やがて砂の感触を足先に感じると、ジタバタしなくなった遭難者を抱えて浜辺まで運んだ。

 軽く頬を叩いても反応がなく、心臓は動いているものの息をしていない。すぐに息を吹き込むと、数回で口から水を吐き出し、呼吸を取り戻した。

「気がついたか…。よかった…」

 目を開けた姿は、まだ幼いようにも思えた。茶色にも、深い緑にも見える髪、深い海のような青い瞳…。何故だか、初めて会ったのではないような気がした。かといって、どこで会った記憶もない。

 溺れた恐怖からか、口もきけずに身をすくめている姿に、テオールが持ってきた布で体を包み、急ぎ屋敷に連れ帰ることにした。

 ノルデン令嬢にもこれで失礼することを告げた。

「その方が早くお元気になられますように」

 形式的な言葉に、作った笑顔と冷たい視線を向け、礼を済ませると早々に馬車に乗り込み、遭難した者のいる僕らよりも先に馬車を走らせ、家へと戻っていった。

 僕へのご機嫌取りは終わったらしい。いなくなってほっとした。面倒だが、無碍には扱えない。どうしたものだろう…。

 今はこの子を連れ帰ることを優先しよう。


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