3 遭難
次の日、ぐずついていた天気が急変し、想定よりも早く波が高くなってきた。
一旦途中の港に立ち寄る予定だったものの、波が高すぎて着岸するのが危険と判断され、沖合で波が収まるのを待つことになった。
船の揺れは激しかったものの、ベテランの船長は波を読み、海岸が見えるほどの距離で嵐が通り過ぎるのを待っていた。
雷も鳴り、天候はますます荒れていたが、岩場もない海域にも関わらず、船底から異様な音が聞こえたかと思うと急に浸水し、船が傾き始めた。
船乗り達は水を汲み出そうと試みたものの、水の流入があまりに早く、船体に穴が開いたと判断し、船が沈みきる前に岸に向かう事を選んだ。
非常用の小舟などなく、かすかに見える岸を目指して自力で泳ぐしかない。
船室には父から預かった大事な物があった。しかし、取りに戻ることはできない。迷いを捨て、少しでも身軽になるため、泳ぎに邪魔な上着を脱ぎ捨てようとしているところにタイミング悪く高波に襲われ、海に飲まれた。
袖が抜けきれず、服が邪魔になって手がうまく動かせない。
波も恐いが、沈む船に巻き込まれるのもまずい。にもかかわらず、波に翻弄され、手の動きが封じられたまま、息がつけない。
何とかしようともがくうちに意識がもうろうとなり、自分が沈んでいくのを感じた。
もうだめか…
死を感じた時、ふと手が自由になった。邪魔だった上着が脱げたようだったが、もはや浮き上がろうともがくこともできず、ゆっくりと沈んでいく。酸素は得られず、息のできない苦しさは続き、更に首を絞められるような感覚を感じながらも、それさえも遠のいていった。
突然、背中に強い力を感じ、気道を塞いでいた水が一気に体の外に出た。咳と同時に忘れていた呼吸が復活し、ひどい息苦しさを感じながらもそれが生きていることを伝えてくれる。
自分がいたのは、砂浜の上だった。
打ち上げられたのか…。あんな沖にいながら、岸までたどり着けたのか?
自分が思っているよりも時間は経っているのかも知れない。
上半身を起こし、ゆっくりと呼吸を整える。
揺れるのは海藻… いや、長い髪…、人だ。目の前に誰かがいる。体についているのは、…貝? 危ないな。皮膚が切れたら…
「君…、ゴミが…」
手を伸ばし、貝を掴んだ途端、怒鳴り声が聞こえて、殴られた様な衝撃を最後に、再度意識を手放した。