21 決意
あの遭難から半年後、僕とマリーナは浜辺にいた。
海の王が姿を現し、海の魔女が海の上に浮かんで立っていた。
マリーナは僕から離れ、浜辺の東にある、少し海へと突き出た岩場へと歩いて行った。
一歩踏み出せば海だ。
王と話をし、魔女から薬を受け取るため、手を伸ばす。
僕は浜辺から、マリーナが魔女の作った二つの薬のうちの一つを選ぶのを見守っていた。
答えを事前に語ることはなかった。僕もまた、教えて欲しいと言わなかった。
薬を飲む前に一度僕の方に振り返り、また魔女の方を向くと、深い青色の瓶を一気に飲み干した。
魔女が僕の血から作った薬はマリーナの体に染みていき、見た目にはほとんど何も変わらなかった。
僕らの言葉をつないでいたペンダントが同じ色のピアスと共にはじけて消え、淡いピンク色の光がマリーナの喉の辺りに集まると、吸い込まれるように消えていった。
もう一度振り返ったマリーナの頬はバラ色に染まり、二本の足でゆっくりと、僕の元へと戻ってきた。
岩場を飛び越え、砂に降りると少しづつ早足になり、速度を上げ、思わず駆け寄った僕に飛びついてきたマリーナを両手で受け止める。
「ヴェス!」
僕の名を呼ぶ、柔らかで優しい声…。
そして人魚は人になった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
1話目の過去の伝説は、前半はアンデルセンの「人魚姫」から取っていますが、海の王が出てからは創作です。




