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13 再依頼

 父が掌を払うように振ると、城の衛兵がノルデン親子を連れ去った。

 後で事実確認が行われるだろう。ここから先は兄の仕事だ。

 二人の兄や護衛騎士、側近達も退出し、数名の側近を残してその場には父と僕、そしてマリーナがいた。


 密輸事件に巻き込まれただけにしてはかなりしっかりと関わってしまった。兄からも報告があっただろうが、僕からもわかっている範囲で父に報告しておく。

「目的はやはり、密輸品の証拠隠滅でしょう。沈んだ船の積荷から大量の武器が見つかっています。差出人は商会を名乗っていましたが、実体はありませんでした。積荷を手配したのは子爵家の息のかかった者で、既に騎士団によって捕らえられています。ライバル領の支援する船会社を使い、沈めるのも躊躇なかったでしょうね」

 それを聞いた父は

「たまたまでもそんな船に乗り込もうとは。おまえも運がないな」

と言って笑った。よく笑えるもんだ。

「急な仕事で予定していた客船に乗り遅れたのです。その仕事を入れたのはどなたでしたっけね」

 まあ、こき使ったのは兄で、父のせいとも言いがたいところはあるが、あの兄に使いに出して令状を渡すだけで終わるわけがない。

「馴染みの船長に会って、好意で乗せてもらえた貨物船を沈められるなんて…。おかげで武器密輸事件は解決しそうですが、まさか命をかけることになるとは思いもしませんでしたよ」

 思わず溜息が漏れた。下手すれば、あの海で僕は命を落としていたかも知れない。今こうして生きていられるのはたまたま、運良く海岸に流れ着いたからだ。


 隣で黙って話を聞いていたマリーナに、父が話しかけた。

「マリーナ殿だったかな。茶番に付き合わせてしまったな。許せ。指環だけでなく、宝石箱も探し出してくれたと聞いた。あれは大事な物でな。改めて礼を言う」

 父はマリーナに丁寧に礼をした後、側近に合図し、先に父の手元に戻した宝石箱を持って来させた。

「王子よ、あんな目に遭った後で申し訳ないが、今一度メルクヴェグまで行ってもらえるか」

 メルクヴェグ。

 結局ふり出しに戻った訳だ。今、宝石箱は王都にあり、僕はそれを届けにメルクヴェグに行く。

 初めに頼まれ、果たせなかった任務だ。引き受けない訳にはいかない。

「…承知しました」

「アンシェラがおまえを待ってる。おまえも会えて嬉しいだろう?」

 からかうように言う父に、子供じゃあるまいし、と思いつつも、嬉しくない訳でもない。

 メルクヴェグは好きな場所だし、船旅も好きだ。今まで忍んで一人旅を楽しんだのも一度や二度じゃない。

 溺れたマリーナがそれでもまだ海を好きなように、僕もまた、溺れてもなお海を嫌いにはなれない。

 願わくは、今度の海路は穏やかであることを。


 別荘から王都までの馬車の旅はマリーナにはきつすぎたようなので、帰りはツィーブラウまで船で戻ることにした。半島を大回りするため少々時間はかかるが、この季節なら夕方に出る便に乗れば寝ている間にツィーブラウに着ける。

 まずは、ツィーブラウで降りて、マリーナの今後を考えよう。メルクヴェグへはそれが決まってからでいいだろう。すっかり事件に巻き込んでしまい、王都にまで連れ出してしまった。充分な礼をしなければ。


 出発前に、もう一度父に呼び出された。人払いをした上での私室への呼び出しだ。

「もう戻るのか? 少しは休んでいけばいいだろう」

「ここにいても休まりませんからね。それに、彼女もここは落ち着かないようですし、ツィーブラウへ戻した方がいいかと」

「マリーナと言ったか…。あの娘、どうするつもりだ?」

 不思議なことに、父はマリーナのことを気にかけている。普段なら家名も持たない者を気にかけることなどないだろうに、わざわざ王城にまで呼び出した位だ。

「故郷に帰りたいなら、戻してやりたいと思っています。ただ、場所がはっきりしないので、どれくらいかかるかはわかりませんが」

「うむ…。もし、故郷が見つからなかった場合は、面倒を見るのか?」

 テオールと似たことを言う。父も僕があの子を囲うつもりかと聞きたいんだろうか。

「ずいぶん気にされてるんですね。…何か?」

「いや。おまえが気に入ったと聞いたものでな。どんな娘かと思ったが、よりによって…」

 よりによって? 続く言葉はまた身分の差がどうとか気を回しすぎた発言かと思っていたが、それ以上はなかった。

「まあ、親より先に死ぬのは一番の親不孝だ。そう度々遭難することはないだろうが、気をつけて行くがいい」

 少しごまかされた気もしないではなかったが、道行きを心配する父の言葉に、

「ありがとうございます」

と礼を言い、旅の準備を進めた。


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