表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/19

『5』

「ねえ、ゆかり。」


返事はない。まるですべてを決めつけたように、覚悟に満ちた瞳を燃やして…。


「お願い。私も一緒に行かせて!」

「だめだってば。」

「なにがあっても?」

「なにがあっても。」

「私じゃ、だめなの?」

「そういう意味じゃー!」


ゆかりに怒られた…。嘘でしょ、絶対。信じられないもん。驚いたのは私なのに、どうしてそんな辛そうな顔するの…?


「今のあかりんは家で休むべきだわ。」

「どうしても、だめなの?」

「ごめんね。」


おかしい、胸が痛い。突然『酷い』って感じてしまうのは、なぜなの?


「なら、一つだけ教えて。先の私、なぜオカルト部にいたの?突然放課後だなんて、おかしいじゃない…?」

「…長くなるから、先に寝てて。」


閉じたドアは開かないまま。部屋の中の全てが私より先に眠ってしまったような、一人残された感情。これって、『酷い』なの?じゃなければ、『寂しい』気持ち?


「ああ、もう!」


枕に頭を埋めて目を閉じた。 本当、おかしいな一日だった。昼休みにオカルト部の部長を追いかけたことは覚えているけど。その後の記憶が曖昧で…。


「ゆかり、なにも言ってくれないし…。」


でもゆかり、私のこと探してたみたいだし、きっとびっくりしたはず。記憶のない私よりずっと驚いたかも。


「ふうっ…。」


気配を隠すのは簡単だけど、このまま忍んでもゆかりが困るだけ。毎日ちゃんと学校も行ってるし、閉じ込められてるわけじゃないけど、心が空っぽになってる感じ。


一人悩んでもしょうがない。ゆかりの言う通り私なぜかすごく疲れてるし。寝ちゃおっか。そうすればきっとまた、過去から待ってるあなたがいる。私を笑顔で迎えてくれる。私の、かけがえのない人…。


でもごめん、あなたの名前を思い出せない。だから教えて。あなたは誰だっけ。


「本当に名前がないの?」

「そう作られたから。」

「作られる?」

「戦いの果て沈む命。それが俺たち、少年兵だ。」

「へえ、末期の中二病ですね。先輩、こんな人でよろしいですか?」

「てめぇー。」


また始まった。二人っていつも喧嘩するし。はやく止めないと私が困る。だって、大切な人たちの喧嘩は見たくないもん。


「やめなさい、二人とも!『   』、落ち着いて!空も、それは言わない約束でしょう?」

「約束までしたのか…?」


ああ、ショック受けた顔してる。でも、あなたはいつも変なところで真面目だから。もちろん、そのすべてを含んで愛してるけど。あなたの過去も、未来も。私の知らないたくさんのあなたを、私は愛している。


「とにかく今度は空が悪い!」

「申し訳ございません、先輩!」

「よしよし、いい子だね。」

「へへっ。」


頭をなでるだけですぐ笑顔になる後輩もすごく大事にしてるよ。私のたっだ一人の後輩だもの。だから、あなたもはやく仲直りして。


「もう、空ったら。『   』には謝らないの?」

「ああ、まだいたのですか。しつこいですね。」

「おいおい。」

「まあ、ごめんなさい、多分。」

「多分だと?」

「それ、気のせい。」

「言方が微妙に違うと思うが。」

「聞き間違い。」


愛してるみんなのために、はやく元の姿を取り戻したい。いつかきっと起こること。でも、おこってはいかないこと。なぜなら、今までの私はー。


「あれ…?」


なんで泣いてるのだろう、私。いい夢だったのに、幸せな想い出だったのに。


ごめんなさい、私。あなたのこと、思い出せない…。


「ふう…。」


時間の流れは抑えきれなくて、また新たな朝を迎える。鏡に映る私の姿ははたして過去と繋がってるかしら。


「あかりさん、大丈夫ですか?」

「え?」

「今のあかりさんはいつもより元気がないようです。」

「だっ、大丈夫だよ。平気!平気!」


アハハ、と笑って見せたが、その下手な作り笑いは四人の笑顔を奪ってしまった。一時間目になって、みんなバラバラになるまで、みんなずっと黙ってて。結局私もなにも言えなかった。


「黒羽さん?」


いったい誰なのかな、あの夢の人。確かに優しい笑顔の持ち主、ってことは覚えているけど。どうしても名前がわからなくて。


「ねえ、あかりさん!」

「え。」


思い込みに夢中になって、気配に全然気づかなかった。いつのまにかみんな、私を取り囲んで、変な顔していて。


「お着替え。」

「オキ…?」


オキガエ、置き換え、お気が絵、大っき変え…。


「次、体育。」


ああ、思い出した。体育の授業って、着替えなきゃいけなかった。それを『お着替え』って言うんだね。『お着替え』の時、友達に呼ばれたのは初めてだからすっかり忘れてた。では、昨日AIから教わった通り。


「ほら、はやく。」

「わかりました。少し待ってくれませんか?」


え、忙しいんだね。この前はゆかりと一緒に着替えたけど、今は忙しいから、はやく着替えないと…。


「キャーッ、あかりさん!」

「もう、なにしてんのよ!」

「ご覧の通り着替えていますが。」

「だめでしょ、ここじゃ!」

「そう…なんですか?」

「当たり前のこと!ほら、更衣室、更衣室!」


背を押されて更衣室に向かう時間。なんだかとても騒がしいけど、嫌いじゃない。むしろ、懐かしい感じ。


「B組とドッジなんて。」

「ああ、私パス。どうせ負けちゃうだろう?」

「でも、黒羽さんにはラッキーだね。」

「私ですか?」

「そう、そう。彼氏との授業だし。」

「彼氏って…。」


彼氏は確かに女の子のデートのパートナで、恋人で…。


(って、もしかしてー。)


夢の中で会ったあの人のこと!?


「わっ、私の彼氏、ご存じですか?」

「もちろんだよ?だってあかりさん、いっつも彼氏に夢中で、メロメロしてたんじゃん。」

「ちょっと、ともえ!」

「本当だもん。だってあかりさん、いつも隣のクラスの友達とくっついて、まるで『他の子には興味ありません!』って感じで、どうしても近づけなかくて!」

「それは、その…。」


昔の私はゆかりたちと一緒だったそうね。嘘みたい。こんなに優しいのに。だからみんなに興味なかったって誤解だよね。うん、きっと偶然だよね。


(今の私、過去の私の出来事、壊しているのではないよ…ね?)


いや、確かに『友達ができた』って言った時、祝ってくれたけど。あの日のゆかり、微妙な空気纏っていたし。特に空は悔しい顔して、涙も見せて…。


(友達ってこんなに難しいものなんだね。)


ああ、なんだか、頭が痛い…。


「あの頃のあかりさんはいつも『リョウガ、リョウガ』って彼氏から離れなくて。」

「リョウ、ガ…?」


そうか。『彼』だったんだ。私の恋人は、あの人。ってことは、私の夢の中の人も、たぶんー。


「とにかく、もっとみんなに近づけさせて。」


私の彼氏を私は覚えてない。むしろ、クラスのみんなは知っている。私の知らない私なんて、かなり辛いだね。


でも、私より彼の方が苦しかったはず。目の前の彼氏から私は目をそらしていた。きっと辛い思いをさせてしまった。


「ほら、あかりさん、答えは?」

「は、はい…?」

「よしよし、たいへんよくやりました。」


どうしよう、撫でられてもうれしくない…。


「今日集まってもらったのは、校内ドッジボール大会のためだ。大会はクラス対抗のトーナメント戦になる。」


そういえば、リョウガは隣のクラスだったね。ああ、大変。どんな顔して会えばいいのかわからない。


「大会は点呼後始まる。」

「あかりさん。ほら、あかりさん…!」


困るけど、今のままじゃいられない。でも笑顔で向き合う自信がない。


「黒羽あかり!」

「え…?」

「『え』じゃないだろ!点呼はどうした!」

「天子…?」

「もう忘れたのか?この前ー。」

「先生。」


この聞き慣れた声は、確かに…。


「点呼、B組から始めてもいいですか。」

「わかった。まったく、かばってばかりじゃお互い前に進めないんだが。」


今、かばってくれた…よね。それって、つまり、本当に…。


(いやいや、まずはリョウガの天子を見て学ばないとー。)


天子って『人を数えること』か。うん、いける。クラスのみんなの顔も名前も癖もちゃんと覚えているから。


「ねえ、あかりさん。先、どうして点呼しなかったの?」

「うっかりしていました…。」

「そうなの?でもむかしのあかりさん、自ら『体育の当番になりたい』って手をあげたんじゃない?」

「わたしが、ですか?」

「そうそう、確かに覚えている。あの日は最初の授業で、2年生のみんな集まって、そこで彼氏と一緒に『ぜひやらせてください』って。」

「えー。」


私の知らない私の出来事はいつも私を困らせる。それでも笑えなくちゃ。


「そ、そうでしたね!」

「こら、そこ!なにしてる!」

「す、すみません!今テンコするので…!」


ドタバタの体育時間が始まった。緊張していたのに、何も起きなかったのが意外。この前の『やりすぎ』から学んだように、今度は自らアウトになった。


「もう、なんでこんな時だけ下手なんですの?わたくしは勝ちたいのです!」


なぜか長山さんに怒られた。頑張っても結果は変わらないし、私が悪かったかも…。


(でもこれでトウバンも見事にやりぬいたし、『一見落着』だよね。)


でも、試練は始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ