くま好き令嬢の出逢い 1
あれから四年の月日が流れた。
四歳になった私は、くまのぬいぐるみを抱きしめる。十歳年の離れたアレクセイお兄様が、王立学園から戻ってくるのを待っていた。
「アレクお兄さま、まだかな?」
遊んでくれる約束をしているので、キリンみたいに首を長くして待つ。
「ただいま、アリー! これを見てみてごらん」
嬉しそうに帰宅したお兄様は、一冊の絵本を見せてくれた。勢いよく見せられた絵本に驚いて、目をぱちぱちさせる。それから、本の表紙に描かれた『くまさん』と、抱きしめているくまのぬいぐるみを何回も見比べた。
「アリーのくまさんと同じだわ……っ!」
絵本の表紙のくまさんは、もふもふのこげ茶色、緑色の瞳。色だけでなく見た目や雰囲気もそっくり。あまりに嬉しくて、お兄様を見上げると、同じように嬉しそうなお兄様がにっこり微笑んでくれた。
「アリーが喜ぶと思って、急いで帰ってきたんだよ」
「アレクお兄様、ありがとう! ──もり、いちばん、の、くまさん……?」
「もう文字が読めるようになって、すごいね」
題名を読みあげると、お兄様が頭を撫でて褒めてくれる。そのまま抱きあげられて居間に移動する。お兄様の膝の上に私が乗って、私の膝の上にくまのぬいぐるみを乗せた。これが、いつもの絵本の読み聞かせする定位置。
お兄様が絵本を広げると読み聞かせをはじめてくれた。
森でいちばん大きなくまさんは、森でいちばん強い動物でした。だけど、森でいちばんお友達のいない動物でもありました。
ある日、のっしのっしと、くまさんが森を歩いていると、うさぎさんが罠にはまって困っていました。くまさんは力持ちなので、うさぎさんの罠を外してあげました。くまさんは強くて森のみんなに怖がられていましたが、本当は森でいちばんやさしい動物だったのです。
二匹はすぐに仲良しになって、一緒に暮らすことにしました。
「ねえ、くまさん」「ねえ、うさぎさん」と一緒に呼びかけ合うと、一緒に笑い、「お先にどうぞ」と二匹はまた一緒に言いました。
「ぼくたちに名前があったら、すてきじゃないかな?」
「私たちに名前があったら、すてきじゃないかしら?」
二匹はお互いの名前を付けることにしました。
うさぎさんは、くまさんの名前を「カイ」と名付けました。さわやかな名前は、カイにぴったりでした。くまさんはうさぎさんの名前を「アリー」と決めました。かわいくて優しい名前は、アリーにぴったりでした。
こうして、くまのカイとうさぎのアリーはいつまでも幸せに暮らしましたとさ———。
「これで、おしまい」
「——アレクお兄さま……っ」
どうしよう。胸がどきどきしてしまう。くまのぬいぐるみを抱きしめながらお兄様を見上げる。
「うん。アリー、どうしたの?」
お兄様は目を細めて、優しく聞いてくれた。
「アリーのくまさんの名前は、カイなのね!」
勢いよく答えたら、お兄様にぎゅうぎゅうに抱きしめられる。しばらくしてから離れたお兄様は大きくうなずいた。
「そうだね! それに、うさぎはアリーと同じ名前で、瞳の色もピンク色でそっくりだね」
絵本のうさぎと同じことが嬉しくて、お兄様の膝の上から飛び降りた。
「あなたの名前はカイよ! 私はうさぎのアリーよ!」
カイを抱きあげて、くるくる回って踊り始める。お兄様がにこにこ笑っているのが、ますます嬉しくなってカイとワルツをいつまでも踊った。
この日から私の大好きなくまのぬいぐるみは、『カイ』になった。
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