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15 侍女をつける魔王様

(侍女?)


 侍女というと、一緒に掃除や雑用をしていた人たちだ。それを自分につけるとはどういうことだとセシルが首を軽く傾げた時、ドアが開いて一人の女性が入って来た。髪は水色でポニーテールにしており、目鼻立ちは整っている。緑色の瞳が好奇心で輝いていた。


(うわ~。きれいな人)


 美しい所作でこちらに歩いてきて、ドレスをつまんで礼をする。セシルはどう受けたらよいかわからず、頭を下げ返した。


「お初にお目にかかります。ユリアでございます」


 侍女の制服を身に纏ったユリアは、大人っぽく奥ゆかしい笑みを浮かべている。そしてセシルは顔の下で主張をしている部分に吸い寄せられ、質感の確認およびデッサンをしたくなった。


(何あれうらやましい……あれ、でもこんな目立つ人、お城にいたっけ)


 この一か月で城務めの侍女たちとはほとんど知り合いになったはずだったが、セシルは彼女をみたことがなかった。

 ジルバが軽く咳払いをして説明を引き継ぐ。


「ユリアはレオ様付きの侍女で、この一か月はご実家の方へ帰っておられたのです。つい昨日お帰りになったのですが、セシルさんが城で過ごすにあたって同性の世話役がいたほうがいいと思いましてね。お願いしたわけです」


 セシルは視線をユリアからその主人であるレオへと向けた。つい冷めた視線になってしまう。


(なるほど、こういうのがお好みだったんですね)


 視線を受けたレオが不愉快そうに眉間の皺を濃くし、指で机を叩き始めたから顔に出ていたかもしれない。

 そこにすっとユリアが近づいてきて、突然腕を広げてセシルを抱きしめた。


「きゃ~、かわいい! 人間って初めて見たわ~。よろしくね、セシルちゃん。私のことはユリア姉さんと呼んで、何でも言ってね!」


 顔に押し寄せる弾力がすごい。質感を理解したセシルは、さっそくと顔を上げてきれいな顔を見る。


「では、お暇な時に一枚絵を描かせてください! すばらしい体の形です!」


 そのまま石像にしてしまいたいほどの、完璧なバランスだった。美に妥協をしない父もよく言っていた。女性の美はどこかが突出していてもだめだと。そのバランスが究極の美を生み出すと。

 突然モデルを頼まれ、ユリアは目を丸くしたがすぐにクスクスと笑い声を漏らした。目を妖艶に細め、口角を上げる。


「えぇもちろん。たまにはレオ様以外も描かないとね」


 そこにすかさずレオの舌打ちが入った。そして唸るような低い声を出し、視線を逸らす。


「話は終わりだ。さっさと下がれ」


 バサリと話を切り、レオは戸口を指さした。体全体から「出てけ」と発している。


(もう、ほんとにわがままというか、自分勝手というか!)


 相手のペースなど全く考えていない。ガランは慣れたもので、顔色一つ変えずに頭を下げた。


「では、また後で話を詰めに参ります」


「私はユリアさんを描いてから魔王様の絵の制作に入ります」


 そして二人して礼をし、開いているドアから出ればドアは音もなく閉まった。廊下で苛立ちに震えているセシルを盗み見たガランは、はぁと溜息をつく。


「セシルさん、気持ちはわかるけど……流した方が楽だよ」


「ユリアさんを描いて気分転換をしないと、魔王様に触角とカニの手を生やしてしまいそうです」


「……それは。ちょっと見たいから、スケッチでもいいから頼んだ」


 そしてガランは、ぽんとセシルの背中を軽く叩き、歩き出した。




 一方、扉の向こう側、残ったユリアはにこにこと満面の笑みをレオに向けていた。ジルバが穏やかに微笑みつつも、一歩、二歩と下がっていく。そのできた間にユリアは入り込み、レオの座る椅子が傾く勢いで抱き着いた。


「レオく~ん! 元気にしてた? お姉さんがいなくて寂しくなかった~?」


 先ほどまでのお淑やかなお姉さんの顔が一変し、人懐っこく子供っぽい表情になる。


「うるさい。お前は姉ではない。消えろ」


 素に戻ったユリアに頬を引きつらせ、眉を上げて怒りをあらわにする。乱暴にユリアを引きはがして、ジルバの方へ投げた。「きゃぁっ」と悲鳴を上げつつもユリアは勢いを殺すために後ろに跳び、ジルバの一歩前で止まる。


「ひどい。二か月の休みを一か月で切り上げた私をもっと労わってよ~。レオ君が来いって手紙をくれたから来たのに~」


 頬を膨らませて怒っているアピールをするユリアを一瞥し、苦々しくレオはため息をつく。


「お前が勝手に出て行ったんだろ。二か月も休みを許可した覚えはない」


「だって~。レオ君の横暴っぷりがひどくって、里帰りして家族と村の皆にレオ君の悪口を聞いてもらってたのよ」


 ふんっとユリアは顔を背け、ついでジルバを振り返るとお淑やかな侍女の顔になってふわりと笑う。


「ジルバ様、ご無沙汰しております。後で村の名産のワインをお渡ししますね」


「あぁ、ありがとうございます。あの村のワインはとてもおいしいですよね」


「相変わらず丁寧で素敵……レオ君にも見習ってほしいですわ」


 と、わざとらしく嘆いて、レオに向き直る。レオは先ほどから右の人差し指でずっと机を叩いており、苛立ちを隠そうともしていない。


「拗ねなくてもちゃんとレオ君の分もありますよ~」


「黙れ。やはりお前を選んだのは失敗だった。今からでも村に返してやる」


「嫌ですよ~。だって、あんなおもしろそうで可愛い子がいるんだもの。それに……」


 ユリアはすっと魔王との距離を詰め、耳もとに顔を近づけて耳打ちする。


「お前!」


 それを聞いた魔王が顔色を変え、腕を振り払ったがユリアはひらりと後ろに跳んでかわした。そしてふふふと口に手を当てて笑い、洗練された動作でスカートをつまんで軽く礼をする。それだけでユリアが纏う雰囲気がガラリと変わった。


「レオ様、このユリアがしっかりとセシルさんをお守りしますから。ご安心くださいませ」


 ユリアが微笑を浮かべると一瞬で存在が無になり、次の瞬間にはかき消えていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] セシルは誤解していたみたいですが、魔王様とユリアはそういう関係じゃなさそうですね。 >「……それは。ちょっと見たいから、スケッチでもいいから頼んだ」 見たいんだ……。
[一言] 侍女! 面白そうな子出て来たっ! 魔王様に触角とカニの手……ちょっと見てみたいですww セシル~、肉だ! 肉を食べて落ち着いて! 今はしょっぱいけど、きっとそのうち、レオ様の良いところがい…
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