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宿題で私は異世界に召喚されました!?

 私は現在、リオンと呼ばれた少年に案内されて、ある部屋へと連れて来られた。

 こざっぱりとした部屋で、窓が2つにここには本棚が2つ、分厚い本で埋められており、その他にはテーブルと椅子と椅子が四つ。

 そのテーブルには白く、端の方にピンクや水色で花の刺繍が施されている。


 また中央に置かれた花瓶には花が飾られており、それがこの部屋の簡素さに彩りを添えている。

 私が案内された椅子は窓に近いが、その陽射は床に窓ガラスの形に濃淡を作る程度に離れた場所だった。


 明るいけれど暑くない場所。

 座った椅子には、淡い水色の敷物が敷かれていて座り心地は良好だった。

 その椅子に座って、ようやく私は目の前の綺麗な少年に問いかける。


「あの、貴方は?」

「……リオンだ、美咲」

「あ、そうなんですか。昔の私のお友達の名前と同じですね……あれ、私、名前を名乗りましたっけ」


 首を傾げる私だが、今までを思い出して全く記憶に無い。

 そんな私をネココがにまにましながら見てから、今度はリオンをそのまま笑いながら意味深にリオンを見る。

 そこでリオンが言うのを迷ったように、


「……俺が召喚主だからな」

「あ、なるほど。私を召喚したのがリオンさんだと……え?」

「リオンでいい。そしてこの召喚には意味があるんだが……まずは客人をもてなすために、茶と菓子を用意するから少し待っていてくれ」


 そう言って、リオンは隣の部屋へと行ってしまう。

 初めからあんまり表情がないリオンに、私は少し戸惑ってしまう。

 冴えるように冷たげな美貌が、ほりの深い綺麗な顔と相まって人形のように見える。


 しかもサラサラの長い銀髪に、静かな青色の瞳も含めて何を考えているのかわからない。

 昔会った女の子はよく笑う可愛らしさも会ったので、似ているようで似ていないリオンに私はどう次は話そうと悩む、のだが、


「面白くなってきた。うひひひひ」

「……この猫は何で変な笑い声を上げているのかしら、ほら、なでなで」

「にゃぁ~、顎の下はだめぇ、はぁあんっ、にゃぁ~」

「ほーら、気持ちがいいでしょう? だったら私の言葉に答えなさい。ほーらほーら」

「に、にゃぁ~」

「それでここはどこ。というか私をどうして呼び出したの? そして元の世界に帰れるの? というかこの世界のものを口にしても私大丈夫なの?」

「うにゃ~、ごろごろ、それはリオンが後で全部説明するはずだにゃぁ~」

「でも、二人に話を聞いたほうが状況が分かりやすいかなと思って私は聞いているの。というか、ここで出されたもの食べても大丈夫なの?」


 一応私の暮らしている世界は、衛生的にも優れている。

 例を出すのであれば、水は蛇口をひねればそのまま飲めるのだ。

 そんな場所で生活をしていた私は、この世界のものを話して口に入れてもいいものなのだろうか。


 けれどそんな疑問にネココは笑って、


「あはは、何を気にしているんだ。君はこの世界から見たら上位世界の人間なのにね」

「上位世界?」

「君達の世界以外にも、幾つもあるんだよ。似たような世界がね。その世界の法則のようなものは異なるけれど」

「……そうなんだ。それでその上位世界から来るとなるとどうなの?」

「どんな病気にもかからない、後は食べ物を食べても平気、あ、味覚もあるから安心して楽しむといいよ」

「……随分と都合のいい異世界の気がする」

「それが上位世界の異世界人というものなんだよ~。まあ、特に世界の危機も何もないはずだから、気軽に観光旅行気分で楽しむといいよ」

「……それで、私はいつ帰れれるのかしら」

「そのうち?」

「こーたーえーろ-」


 そうやってネココと戦っている私。

 それからしばらくして、リオンが紅茶に菓子を持ってやって来たのだった。









 お茶を淹れて持って来たリオンの前で私はネココと戦っていた。


「いいから、一体何時私が帰れるのか答えなさいよこの、エロ猫」

「にゃ~、あ、リオン」


 やって来たリオンの方にネココが走って行く。

 そんなネココに飴玉を一つ渡してから、リオンは紅茶を私の前に置く。

 湯気を立てる熱い紅茶からはとてもいい香りがするのだが、


「……そもそもこれ、紅茶なのかな」

「君達の世界にも、ハーブティーやら何やらあるでしょう? そう考えれば特に不思議はないんじゃないかな」


 ネココはそう答えるけれど、この軽さがどうも信じられない私は、


「それはそうだけれど、リオン。これ、紅茶なんだよね?」

「そうだが……なにかおかしいか?」


 不安そうにリオンは私に聞く。

 彼なりに私をもてなそうとしているようだと私は気づいた。

 それならばここで断るとどうなんだろうなと思い、私はお茶に口を付ける。

 ふわりと口いっぱいに甘い香りが広がる。

 私の知っている紅茶に似ていて、そして知っているそれよりも、


「美味しい」

「そうか、良かった」


 そこでリオンが破顔する。それを見て過去に出会ったあの少女を思い出す。

 こうやって笑うと過去の少女にとても良く似ていると私は思う。

 懐かしさを覚えて私がじっと見ると、リオンはふっと顔を横にそむけて、


「お菓子もどうかな」


 進められたお菓子は、ドライフルーツの入った黄金色でふわふわしたケーキのようなものだった。

 それにはフォークが添えられていて、何処からどう見ても美味しそうに私の瞳に映る。


「ぜひ頂きます! わー、何だか見た事のない乾燥果物が入っている。ぱくっ……美味しいかも」


 口いっぱいに広がる香り高い果物に私は幸せだ。

 そんな私にリオンは更に微笑んで、


「君達の口に合うようなら、こちらから輸出できるかな」

「……輸出?」

「うん、もうすぐ君達の世界とこちらの世界がある程度自由に行き来できるようになるんだ」

「! 本当!」

「うん、まだ秘密裏に進めている段階なんだけれど……いきなり交流をといっても難しいので、試しに異界のものを今皆で個々に好きなものを召喚しているんだ」


 その召喚の一環で、私がこの世界に呼ばれたらしいと気付く。

 そして私が夢見た異世界トリップそのものではないけれど、異世界に行き来できるようにもうすぐなるらしい。

 でも呼ぶとなると、悪い人達も来るんじゃないかと思ったので、


「へー、でもいきなり異世界のものとか人を召喚しても大丈夫なの?」

「何かおかしな事態にならないように、召喚した時点で制約を課しているんだ、魔法でね」


 魔法、と言っていた。

 つまりこの世界にはファンタジーみたいな炎を飛ばしたり、何かを呼びよせたりといったあのゲームのような“魔法”が存在しているのかもしれない。


 そもそも私を呼びだした時点で、それは物語に出てくるような魔法だ。

 もしそんな魔法が使えるのだったら、私も使ってみたいと思いはしたがそこでリオンが、


「そういえば君達の世界で魔法はない物になっていると聞いた事はあるけれど、どうなのかな」

「? ないよ」

「やっぱりあの話は本当だったのか。……君達の世界の魔法使い達は、君達の世界で生きにくいのでこちらの世界に来たって」

「ええ! そうなんだ、私は知らないかも」

「やっぱり魔法は美咲達の世界では受け入れにくいのかな。でもこうやって現地の美咲みたいな人間と話せるのも貴重な機会だから、もう少し協力して欲しいのだけれど、いいか?」


 リオンにそう言われて、私はどうしようか迷う。

 そもそも呼び出したのはリオンで、私としてはまず聞いておかない事があって、


「協力するのは良いけれど、私は元の世界に帰れるのかな」


 いずれ世界は繋がるらしいのでその時戻ればいいとも思うのだが、その時がどれくらい先なのかは分からない。

 なので私はリオンにその不安を聞いたのだが、リオンは、


「美咲が望むなら今すぐにでも帰して上げられる」

「そうなんだ」

「でも、もう少し俺は話していたい」


 そのリオンの願いに、何となく昔のリオンと同じ女の子を思い出して懐かしくなりながら私は、


「私も異世界人のリオンとお話したいかな。……でもせっかくの機会だからこの世界の色々な所にも行ってみたいかな」


 こんな異世界に行くなんて機会は、めったに得られないだろうから。

 けれどそこでリオンは困ったような顔をして、


「ごめん、異世界の者には制約がかかっていてこの周辺の地域しか案内できないようになっているんだ」

「そうなんだ、地域限定の異世界トリップ……でも、私の世界と違う物が、少しでも見れればいいかも」


 きっと異世界だから違う物が見れるのかもしれない。

 そんな期待に私は胸を膨らませていると、


「そうだね、それなら一番安全な俺達が通っている学校に案内するよ。そもそも異世界のものを召喚するのが、試しの意味も含めた宿題だったし」

「私、宿題で召喚されたんだ……」

「……それに、美咲に会いたかったし」


 ぼそりとリオンが何かを付け加えるが、私はよく聞こえない。

 そこでふわりとネココが飛んできて、


「僕はここで昼寝をしていていいかな。今日は召喚の謝礼のお菓子が一杯でうはうはだし」

「……ネココも来るんだ」

「おやおや、リオンは一人で案内するのが、ふがふが」


 余計な事を言おうとしたネココをリオンが口を封じる。

 リオンはクールに見えて意外にも恥ずかしがり屋なのかもしれない。なので私は、


「よろしくね、リオン」

「ああ、丁寧に案内するよ」


 そう頬を少し赤くして、リオンは私に答えたのだった。

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