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ハートの鎖  作者: とだか
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プロローグ

あの日僕の心を動かしたあの出来事は一体なんだったんだろうか?


夢だったのか、それとも夢のような現実の出来事であったのかそれすらももうわからない。


ただ一つ今の僕が自信を持って言えること…


それはあの出来事が間違いなく僕の心をハートをより強く重く変えていったということ。


だから僕は今でも雨が降っている日には思い出す。


夢中で彼女を追いかけたあの日々を。

あの日病院のベッドの上から始まったあの出来事を。


今もまた頭の中で繰り返している。

あのときの感情は今もまた僕に語りかけてくる。この物語を決して自分だけのものにしないようにと。


彼女の魂がまだここにとどまっていることを、世界中に知らしめてやるために。

そんな空想をいつものように頭の中で駆け巡らせてた。


退屈すぎるベッドの上でのなにもできない生活を打破するために。


僕にはきっと幸せな未来などおとずれない。


まぁそもそも期待もしてないし欲しくもないが。


僕には輝く未来への光など見えない。


僕に見えているものといえば、窓の外に降る透明な雨。


この色の無い世界の全て。


何にも支配されずただ淡々と過ぎ去る時間の波。


僕を覗き込むようにしてあたかも僕を心配しているかのような家族。


それぐらいのものだ。


そして、そんなことを考えている僕自身がはっきりと見ることができている。


僕は死ぬのだろうか?


それともすでに死んでいるのだろうか?


いや、そんなはずはない。


しっかりと結構好きな病院の匂いを嗅いでいるから。


お医者さんが僕をさすっているのを感じているから。


でも本当はそんなことどうでもいい。


僕が生きていようが死んでいようがそんなことはこの濁りきった広すぎる世界にとっては関係のないことだ。


たとえ僕が生きていようと、たとえ僕が死んでいようと、太陽は毎朝昇りそして沈んで行くのだろう。


どこから吹いて来たのかもわからない風たちは帰る場所を探して吹き続けるのだろう。


世界中の戦争は終わることなく続いていくのだろう。


だから僕自身そんなことはどうでもいい。


別に特別に生きたいとか死にたいとかそういった感情を持っているわけではないから。


ただ本能のままに僕に生きろと働きかけてくる心臓の言うがまま生きているだけだから。


だから心臓がもう限界と告げてきたときには、僕はあっさりと死ぬのだろう。

これといった抵抗も見せずに、世界で一番あっさりと…


そんなことが何故だか分からないけど、僕の脳の中をぐるぐるぐるぐると忙しなく行きかっていた。


そんな時だった僕が彼女に初めて出逢ったのは。


僕が初めて全身の鳥肌をたてたのは。


僕が初めて他人に興味を持ったのは。


僕が初めて人と話したいと思ったのは。


僕が初めて心から人を好きになったのは。


僕が初めて生きたいと思ったのは。


その瞬間も外には雨が降っていた。


ただその雨はとてもカラフルなものだった。


そして僕の色の無かった世界をあまりにも鮮やかに染めていった。


カラフルになった世界で僕はただ彼女を見つめた。


今思えばすべてはこの時から始まっていたのだ。


夢か現実かもはっきりしないような僕の初めての恋の物語。


僕のありったけの言葉で紡いでいった彼女への愛の物語が。

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